サリィ
それから何日か経って、キホクは歩き回れるまでになった。
サリィの話では、もし有毒な虫に刺されていたとしたら、これだけ回復が早いのは幸運だったのだと言う。
生命力だけはあるのだと答えると、サリィはコロコロと笑った。 屈託のない、素直な笑顔だった。
サリィは本当によく働いていた。
朝早くから薬草を摘むために森へ入り、昼間は近所の病院で研究をしながら実務もこなしていた。
両親も健在で、2人とも医者を勤めていた。
キホクは、看病してもらったお礼を言いに両親に会いに行った。 2人とも優しい人で、
「怪我人や病人を助けるのは当たり前なのだから。」
ととても謙虚だった。
キホクは人を疑わず慈愛を持って接するその姿勢に、萎縮してしまう自分を感じた。
てきぱきと働くサリィに、キホクは聞いた。
「サリィは、朝からそんなに働きづめで疲れないのかい?」
すると彼女は、ケロッとした表情で答えた。
「疲れはするけど、そんなの吹き飛ばす位の力を貰うから大丈夫なの。」
「吹き飛ぶ位の力?」
「そうよ。」
サリィはにっこり笑った。
「元気になった時の、とても幸せそうな顔。」
そう言いながら彼女はキホクの顔を覗き込んだ。
「キホク、あなたが元気になって、本当に嬉しいの。」
自分の事の様に嬉々として話すサリィに、キホクは再び自分の中の影を感じた。
アリシアの事を思い出した。
『俺は、アリシアの笑顔を見たい。』
いつも何かに抑えられ、自分の事より誰かの事を思い続けたアリシアは、心の底から幸せを感じたことがあるのだろうか? 心の底から笑った事があるのだろうか? 今この時、家族と再会して幸せで居るだろうか?
その為に自分が出来る事は何なのか…
再び悩んでしまった。
キホクは再び旅に出る事にした。
いつまでもここで足踏みをしているわけにもいかない。 答えが降って沸いてくる事もないだろう。
明日の朝早くにでもこの村を出ようと決心して、最後になるであろう、フワフワの清楚なベッドに体を沈めた。