キズ
アリシアは、今まであった事を全て話した。
そして、自分を探して旅を続け、この国へ帰るように説得してくれたキホクは、再び旅を続けることにしたと。
そして何日か経って落ち着いた頃、アリシアは母ラビリスの部屋に呼ばれた。
ラビリスはだいぶ調子を取り戻し、最近は城の中をゆっくりとだが歩くことも出来るようになっていた。
アリシアが部屋に入ると、ラビリスはお気に入りの窓際の席で陽射しを気持ちよさそうに浴びていた。
「母さま、今日もだいぶ顔色が良いみたい。」
アリシアも、母が日増しに元気になっていく状態を見るのがとても楽しみだった。
「ええ。 朝から天気も良いし、気分がとても良いの。 それにアリシア、あなたにも良い知らせがあるのよ。」
「私に?」
ラビリスは自分の前の席にアリシアを招くと、お茶を勧めた。
「アリシア、あなたのその顔のキズを治してくれる人が見つかったのよ。」
「このキズを?」
アリシアの顔には、相変わらずひどいヤケドの痕が残っており、今はターバンを少し緩めた縛りで隠していた。
母だけでなく、家族全員が彼女のキズに心痛めていて、密かに治す方法を探していたのだった。 そんな矢先、有力な情報が舞い込んできた。
しかしアリシアの表情は曇った。
ラビリスは察して優しく微笑んだ。
「アリシア。 私たちは、もう昔の過ちは繰り返したくないの。 あなたにも幸せになって欲しい。 あなたの心のキズが癒えるにはまだ時間が掛かるでしょう。 でも、そのヤケドのキズが治って、少しでも心に光が戻るのなら、それは私たちの喜びでもあるのよ。」
ラビリスは立ち上がると、アリシアに歩み寄った。
「もう誰も、あなたを利用しようなんて言わないわ。」
「母さま…」
正直彼女の中では、このキズを負った顔のままでも良いと思っていた。 ある意味、それは一種の逃げでもあった。
『もう誰かの代わりになるのは嫌だ。』
という深層心理。 どこかでまだ信じることが出来ない心。 なんとかして素直な心を取り戻したかったが、それにはまだ時間が足りなかった。 いや、時間が解決してくれるとも限らない。 そんなモヤモヤが、まだアリシアの心には巣食っていたのだった。
そんなアリシアの苦悩を、母も知っていた。
「まだ、どこかで怖がっているの。」
つぶやくように言うアリシアを、ラビリスは優しく抱きしめた。
「もう独りじゃないのよ、アリシア。」
「…うん。」
アリシアは母の腕の中で、優しい香りに浸った。
何とも言えない安らぎの中で、今度こそ、自分も一歩を踏み出す時だと決意を固めるのだった。