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影武者

「ヨミ!まだなのか!!」

国王ジアスの凛とした声が、部屋に響いた。

ヨミと呼ばれた男…真っ直ぐな黒髪を背まで伸ばし、白いマントに身を包む、静かな佇まいの

人物。

彼は側近という役を任されていた。

ジアスは彼に絶対の信頼を寄せていた。

その側近は、ジアスの前にひざまずいていた。

「…もう間もなくかと。今しがた、こちらへ向かっていると使いの者からの伝鳥が届きましてご

ざいます。」

「手こずっているのか?やむをえん…これは内密の計画でもある。誰にも知られてはならぬのだ

…。」

立派な髭を震わせ、焦りにも似た声を発し、ジアスは窓の外を憎らしげに見つめた。

「平和な日々というものは、たやすく崩れるものなのか…」

ヨミは黙ったまま、そこにひざまずいていた。



そのころ、姫 フリージアは身に迫る危機に気づいていた。

しかし自分ひとりではどうすることも出来ないのも知っていた。

全ては父である国王の判断と決断に委ねるのみ。

今はただ言われるがまま、用意された部屋に居ることしか出来なかった。

フリージアの母…つまりスナの国の王妃は、最近になって体調を崩し床に伏せていた。もとも

と身体が強い人ではなかったが、この計画が実行されるのを聞いてますます具合が悪くなってい

た。

「とうとう…この日が来てしまったのね…」

うわごとのようにつぶやいて……



「国王。着いたようです。」

ヨミの静かな声が、ジアスを突き刺した。

「そうか。すぐに通せ。」

ジアスの顔が、緊張したように少しこわばった。

使いの者に付き添われ、頭まですっぽりと黒いフードに包まれた人物がジアスの前へ歩み寄っ

た。

「顔を上げよ。」

ジアスが先程までの慌しさも見せず、抑揚無く言った。

その言葉に、その人物はゆっくりとフードを取った。

その姿はまさしく、姫 フリージアと瓜二つだった。

背も、目鼻立ちも、まるでフリージアがそこに居るかのようだった。

そばに立つヨミにも、その顔に驚きと戸惑いが浮かんだ。

「よし、お前はたった今から『フリージア』だ。」

ジアスの命に『フリージア』は無言でうなづいた。


「フリージアが20を迎える日まで、まだ間がある。それまでに、フリージアの事を学んでおくが

よい。ヨミを付ける。」

ジアスの言葉に、『フリージア』は首を横に振った。

「その必要はありません。」

ジアスは少し驚いた表情をしたが、すぐに言った。

「よかろう。」

その顔にはうっすらと満足そうな笑みが浮かんでいた。

そして、ランスらを呼んだ。





「私たちがこの命に代えてもあなたをお守りします。」

ランスは仲間を従え、『フリージア』に言った。

彼らは、彼女が影だとは夢にも思っていなかった。その立ち振る舞いは、既に姫 フリージアだった。

「そう。」

『フリージア』はそれだけ言って、窓の外を見た。

その瞳には何の動揺も無いように見られた。 自分の命が狙われているのにも関わらず、彼女は静かに佇んでいた。

良い風に言えば、冷静というところか…。

ランスたちは、さすが一国の王女だと結論付けることにした。


『フリージア』の寝室。

外にはランス達が護衛の為に張り込んでいた。

室内にはキホクがドア付近に居た。

「あなたが眠るまでここに居させていただきます。」

『フリージア』は答えず、窓の外の護衛を確認すると静かにカーテンを閉め、床に入った。

「ひとつ、聞かせていただけませんか?」

キホクが言うと、

「何?」

と面倒くさそうに答えた。

「姫、あなたには生きる気力があるのですか?」

『フリージア』は顔を上げると、キホクを少しにらんだ。

「どういう意味?」

「あなたから、生きたいという気力が感じられません。そのあなたの命を守る任務を負わされた

事を思うと…」

キホクは言ってしまってから しまった! と思った。思わず口から出たとはいえ、ただの護衛

くんだりが言える立場ではなかった。

しかし彼女から返ってきた答えは意外なものだった。

「…そうね。」

抑揚の無い声で言うと、布団の中に潜り込んだ。

キホクからしてみれば、ホッとしたような拍子抜けしたような…そんな複雑な気持ちのまま、

そっと部屋を後にした。

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