再会
城の中は静かに盛り上がっていた。
フリージアはアリシアの姿を見るなり涙を浮かべて駆け寄り、ギュッと抱きしめた。 アリシアは、多分初めてであるその抱きしめられた感触に戸惑いながらも、何とも言いがたい深く暖かいものを感じた。
車椅子に座っていた王妃ラビリスはまだ立ち上がれなかったが、初め信じられないと言った風に驚いた顔で、アリシアの顔を何度もなでて確かめた。
そして、涙を流しながら何度も「ごめんなさい」と謝った。
アリシアは何度も首を横に振り、
「母さまの性じゃないわ。 私が勝手にした事だもの。 だから、謝るのは私の方… 迷惑掛けてごめんなさい…」
その3人の前に、国王ジアスが現れた。
ラビリスは身をこわばらせてアリシアにしがみついた。 もうどこへも行かせないという表れだった。
ジアスは静かに名前を呼んだ。
「アリシア…」
「…」
アリシアは無言で父を見つめた。 そこには、疑いも恨みもなく、全てを受け止めようとするまっすぐな瞳があった。
「アリシア、今まで私は、国の事しか考えていなかった。 それが、私の使命だと思っていたからだ。 だがお前が行方をくらまし居なくなった事で、何か…」
ジアスは少し言いにくそうに続けた。
「…何か、大切な物を思い出した。」
アリシアにしがみ付いていたラビリスの腕の力が少し緩んだ。 それに気づいた彼女は、母の顔を見た。 ラビリスはまだ少し震えながらも、ジアスの次の言葉を待っていた。
ジアスは3人の顔を順に見て、言葉を選ぶようにゆっくりと続けた。
「失くしたものは、もう戻らないだろう… だが、違う何かを取り戻す為、これからも努めていくつもりだ。 しかし今までのような、家族を犠牲にする事はもうしない。 そう誓う。」
「父さま?」
フリージアも、ジアスの心変わりをはっきりと感じ始めたようだった。
「こんな私を、これからも『父』と…思ってくれるだろうか?」
ラビリスの瞳からは、大粒の涙が零れ落ちた。
アリシアは母の肩をギュッと抱きしめ、フリージアと目を合わせた。
彼女もまた、嬉々とした笑顔で、瞳には溢れそうなほど涙をためていた。
アリシアは目の前に立つ人物を、今までただの『国王』と思ってきた。 彼の『父』らしいことは何一つ覚えていなかった。 だが、今こうして改めて顔を見ると、何か懐かしく暖かいものを感じずには居られなかった。
今までの全てを許すことは出来ないかもしれない。 例え出来たとしても、時間が掛かるかもしれない。 ただ、今この瞬間から、新しい何かを見つけることが出来る気がした。
アリシアは母から離れ、ジアスに歩み寄った。
「もちろんです、父さま。」
ジアスの前で見上げるアリシア。 ジアスの目には、幼き頃のアリシアに重なって見えた。 感極まる感情を必死に抑え、ジアスはそっとアリシアを引き寄せた。
間違えればすぐに壊れてしまいそうなガラス細工を手にしたかのように、ジアスは優しく優しく彼女を抱きしめた。
フリージアも傍に寄り添い、ジアスは2人の娘を大切に大切に抱きしめた。