フリージア
翌日、キホクは姫の部屋を訪ねた。
姫は1人体を落ち着かせていた。
「お体の調子はいかがでしょう?」
「ありがとう。 大丈夫よ。 あなた達こそ、怪我は大丈夫?」
「ええ。 …しかし…」
「どうしたの?」
「もう、あんな事はナシにしてくれ。 昨日も言ったとおり、俺たちは必ず守るから。いくら影武者とはいえ、手を抜く事は無い…」
「え!!?」
姫の顔が強張った。 その異変に、キホクはすぐに気づいた。
「!? あなたは…」
姫は困ったようにキホクを見ていた。
「あなたは知っているのね?」
キホクはやっと、目の前に立つ姫が「本物」である事に気づいた。
「本当によく似ていらっしゃる…」
キホクはただただ、驚いていた。 見れば見るほど、瓜二つなのである。
フリージアは小さくため息をついた。
「当たり前よ…あの人は…」
「『姉さん』と言っていましたね?」
フリージアは驚いた顔をした。
「マタイに連れて行かれたとき、あなたが奥の間から出てくるのを見ました。 そして、小さく『姉さん』と言った事も…」
「そうだったの… 思わず出て行ってしまったの…。 あとで父に叱られたわ。 ばれたらどうするんだって。」
「姉妹なのですね?」
キホクは全てを知りたかった。 焦っても仕方ないほどたくさんの事を知りたがっている。 それを抑えるのに必死だった。
フリージアは静かに続けた。あきらめたように。
「この事を知っているのは?」
「私だけです。」
「分かりました。では、話しましょう。」
フリージアは落ち着いた風に話し始めた。 さすが一国の姫である。 もしかしたら、実はその心臓は、口から飛び出そうなほどに動揺していたのかもしれないが…。
キホクもまた、ひとつの覚悟をしっかりと抱えた。