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第1話 その手には焼き芋。

簡単に痩せたい。


他作品もありますが頑張ります。

 肌寒い秋の夕暮れの街中を一人、重い足取りで私は歩いていた。

 今日から、いや、今度こそ痩せようと昼食はカロリー控えめな野菜中心のものにした。

 そこまでは何の問題もなかったのだ。

 ただ、一人の女子高生が食べる量にしてはちょっと多すぎただけのことである。

 意思が弱いというか、食欲に弱いというか、今までやってきたダイエットは全て失敗。

 体重計の数値は決して減ることはなかった。

 小学校を卒業する頃には50キロを突破し、中学に入ってからの成長率は縦より横の方が大きく、この頃からクラスのみんなは私のことを名前「宮田(みやた)瑠璃(るり)」をもじって「ミヤ(タル)」と呼ぶようになった。

 はじめの頃は呼ばれる度に怒っていたものだが、高校に入学した頃には自然と返事をしている自分に気付いて落ち込んだりもした。

 よく考えれば父は100キロ、母は80キロを超える家庭環境で痩せようと思う方が無謀なのかもしれない。

 そう思う私の手には、さっき買ったばかりの焼き芋が握られている。

 あんな美味しそうな匂いを振りまいて歩く商売なんて反則としか言いようがない。

 こんな私が痩せるには、もう無人島で生活するしか方法はないのではなかろうか?

 神妙な顔つきで歩いていた私の前に、眼鏡をかけたそれなりに見栄えのいい男が話しかけてきた。

「そこの()()()お嬢さん。ちょっといいで・・・・」

 ドゴッ!

「初対面の乙女に向かって失礼な。」

「しょ・・初対面の・・・人間に・・ボディブローを放つのは・・・失礼じゃないのかね?」

 額に脂汗を浮かべて、その男はゆっくりと立ち上がる。

「言い方にトゲがあったことは認めよう。そのお返しはもらったのだから謝るつもりはないがね」

 そう言いながら胸元から名刺を差し出した。そこには、

「ノービア開発機構主任、イーグレット=ザイン?」

 怪しげな内容に私の中で警戒音(サイレン)が鳴り響く。

「悪いけど、私忙しいから」

 そそくさと立ち去ろうとする私の背中にイーグレットはこう言った。

「痩せたくはないのかね?」

 その言葉にピタッと足が止まる。

「興味を持ってくれたようだね」

 振り返る私を見てイーグレットの瞳が眼鏡の奥でキラリと輝いた気がした。

「しかも、ただ痩せるだけじゃない。痩せた上に報酬も出る。名刺にもあるように私はノービア開発機構主任として君をスカウトするのだからね。」

 スカウト。その言葉が耳から脳に伝わり、意味を理解するまでに私は5秒かかった。

「まさか、水着とか着てグラビア・・とか?」

「そんなボンレスハムのグラビアなんて誰が見っ・・・」

 ドゴッ!

「3度目はないわよ」

「オ、オーケー・・・。気をつけ・・・よう・・・」

「とりあえずコレを見てくれ。これが我が故郷のノービア王国だ。」

 差し出された写真には森が広がり清らかな川の流れる美しい景色が写っていた。

「綺麗な所ね」

「まぁね、次にこれも見てくれ」

 もう1枚の写真には枯れた木々と濁った川。そして怪物っぽいモノが数体写っていた。

「・・・これ、どこのファンタジー?」

「どこも何も、同じ場所を撮ったものだ」

 言われてもう一度写真を見比べる。

 確かに地形とか川の形とか見ると、同じ場所と言えなくもないが、何をどうしたらこうなるのだろうか。

「この怪物とかってCG?うまく出来ているわね」

「CGもなにも、合成写真ではない」

「・・・・・・・・・・。ゴメン、私の聞き間違いかな?合成じゃないって聞こえたけど」

「そう言ったが、何か問題でも?」

「あーそっか!ミニチュアとかフィギアとかって意味ね。オーケーオーケー」

「ノンフィクションって意味だが」

 私の脳ミソが機能を停止した。

 そして10秒程、彼がほざいた言葉の意味を頭の中で繰り返し検証する。

 で、結論。

「ゴメン、急な用事が」

「マチタマヘ」

 逃げる私の頭をガシッとイーグレットが掴む。

「ちょっと!何すん・・・・」

 抗議しようとした私の周りの景色が見慣れないものに変わる。



 それは、さっきイーグレットに見せてもらった2枚目の写真と同じ光景。

「何!何これ!どうなってんの!?」

「いちいち説明するのも面倒なので連れてきた。ご理解いただけたかな?」

「連れてきたって、アンタ一体何なのよ!」

「名刺に書いていただろう、ノービア開発機構主任だ」

「それが分からないって言ってんの! だいたい、ノービア王国ってどこ?聞いたこともないわよ!」

「どこ?って、ここがノービア王国だ」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「んなコト言ってるんじゃねぇぇぇぇ!!」

 私の繰り出した右フックがイーグレットの顔面をキレイにとらえる。

「・・・また・・ボディだ・・と・・油断し・・て・・ました・・・・」

 ツーっと流れる鼻血が、せっかくの容姿を一瞬にして台無しにした。

「とりあえず、なぜ痩せることができて報酬まで貰えるのか聞くだけ聞きませんか?」

 胸元から取り出したハンカチで、鼻血を拭きながらスクッと立ち上がる。

 コイツ、さっきから私のパンチを3発も食らっているクセに意外とタフである。

「おっと、丁度いい。アレで説明しましょう」

 そう言ってイーグレットが見つめる先には、写真に写っていた明らかにCGでもミニチュアでもない、生命力全開のモンスターが空から迫ってきていた。

 真っ赤に充血した目が完璧にこちらをロックオンしているのが分かる。

「に、逃げてもいいかしら?」

「構わんよ。ここから生きて帰れるならね」

 そう言われてこの場を離れられる程、勇気も力も持ち合わせていない私はイーグレットの背後に隠れる。

 万が一の時は盾ぐらいにはなるだろう。

 そんな私の思惑など知るはずもない彼は、右手をモンスターに向けて高らかに声をあげる。

「風よ!刃となり敵を切り裂け!」

 その瞬間、彼の手に空気の渦ができたかと思うと、いくつもの刃がモンスターを切り刻んでいた。

 肉片となったモンスターは、私たちから5メートルほど離れた所にボタボタと音を立てて落ちると、数秒で塵となって消えた。

「今の攻撃で約15カロリーの消費、そして今のモンスターを一匹倒した事で50ペレナの報酬がもらえる。君の国の通貨に換算すると50円程度だがね」

 風でずれた眼鏡をかけなおし、イーグレットは何事もなかったように私の方に振り向く。

 驚きのあまりバカみたいに口を開いたままだった私は、いつも聞きなれている単語に気がついた。

「ねぇ、今の攻撃で15カロリーの消費ってどういうこと?」

 予測していた質問だったのだろうか、イーグレットはニヤッっと唇の両端をつり上げる。

 一瞬だが、コイツの本性が垣間見えた気がする。

「あなたゲームはやりますか?」

「は?」

「分かりやすく説明するなら、ゲームの世界で魔法を使うときはマジックポイントとかを消費しますよね? ここでは代わりにカロリーを消費する。と、いうことです。」

 実に分かりやすかった。

「ということは、魔法を使えば使うだけカロリーを消費して痩せられるってことね?」

 肯定ということなのだろう。イーグレットは大きく頷いた。

「これで、痩せられて、お金も稼げる理由がわかりましたね?」

 今度は私が頷いた。

「でも私、あんな魔法なんて使えないんだけど」

「それは問題ありません。我々の機関と契約をしていただければ先程位の魔法は無償で使えるようにします。また敵を倒すことでポイントが貯まると、より高度な魔法を習得することも可能になります。その分、消費カロリーも増えますけどね」

 イーグレットはいつの間に取り出したのか、1枚の紙を持っていた。

「これが契約書です。契約上の規約、注意事項などが書かれていますのでしっかり目を通してください。

 その上で問題がなければ住所、氏名、あと報酬を口座振込にしたい場合は金融機関と口座番号を記入してください」

 ファンタジーとは程遠い、妙に生々しい単語がイーグレットの口から飛び出す度に、手渡された契約書の胡散臭さが増していった。

「この契約書。実はサインした後に見えるようになるインクとか魔法なんかで物凄くヤバイことが書いてあって、後で『ほら、ここに書いてあるじゃないですか』なんてベタなオチ。ないわよね?」

「え?・・・・えーっと・・・・」

 途端にイーグレットの目が泳ぎ、こめかみにうっすらと汗が滲む。

「図星かぁぁぁぁぁ!!」

 握りこんだ拳を脇腹に構え、両膝を曲げタメを作った後、天に向かって拳を突き上げる。

 美しい半円を描いた拳がイーグレットのアゴにめり込み、彼は空中で半回転した後、グシャリというイヤな音を立てて顔面から地面に落ちた。

「今度こそ()ったか・・?」

 地面に伏せたままピクリとも動かないイーグレットの姿を、つま先から拳までピンと伸びた理想的なアッパーのフォームで一瞥してから、そのままの体勢で私は空を見上げる。

「イーグレット。あなたの事は忘れない。私はあなたの死を踏み越え、強く生きていくわ」

 視界に映るイーグレットのアゴの感触を残した拳は小さく震えていた。

「都合のいいモノローグまでつけて、勝手に人を殺さないでください」

 気が付くと彼は何もなかったかのように、そこに立っていた。

「まったく。乗り越えるっていうならまだしも、踏み越えるって・・・。脳ミソにまで脂肪が付いているんですか?アナタ」

 ああ神様。これが殺意って感情なのね。

「アナタ、随分と体が丈夫みたいだけど、頭蓋骨が粉砕されてもまだ生きているのかしら?」

「目だけ笑ってない笑顔って怖いですよお嬢さん・・・・」

「あら、そう?じゃぁ、もっと怖い顔してもいいんだけど」

 鏡を見たら私でも引くんじゃないか?という程の形相だったに違いない。イーグレットはその場で土下座をして平謝りをした。

「説明します。説明しますから、ホントすみません!」

 で、契約書の中の見せていない部分というのが、

『なお、契約後に負傷、もしくは亡くなられても当機構では一切の責任は負いかねますのでご了承下さい。』

 というもので、

「アンタ・・・」

「騙すつもりはなかったんですよ。ただ、これ見ちゃうと怖気づく人が多くてつい・・・」

「つい。じゃねぇよ!最重要事項だろコレ!」

「でもご安心ください。万が一亡くなられてもノービア再建に尽力された方として英雄碑に名前が刻まれ殿堂入りとなりますから」

「論点が違うわぁぁぁぁ!!!」

「うごぁぁぁ!」

 ぶん!という唸りを上げた私の足がイーグレットの股間に叩きこまれた。

「確かに痩せたいけど命懸けてまでってなると話が違うのよ!」

 流石にコレは効いたのだろう、イーグレットは股間を押さえてピクピク痙攣している。

「連れて来れたなら帰すこともできるわよね?今すぐ元の世界に帰して。でないと今度は手加減しないわよ」

 今のも加減したわけではないが、現状で元の世界に帰せるのがイーグレットしかいない以上多少のハッタリは効かせないと足元を見られてしまう。

「いやいや。アナタ、魔法がなくても十分イケそうな感じがしますね」

 まさか、あの攻撃ですら効いていないのだろうか、立ち上がったイーグレットの顔にダメージの跡が見受けられない。

「アンタ不死身なの?」

「そんなわけないでしょ。しっかり効いていますよ。しかし、攻撃内容が段々と洒落にならなくなっているのは気のせいですかね?」

 そうイーグレットは言うものの、私はとても信じられなかった。

 そこで私は気が付いた。

「もしかして、回復系の魔法もあるの?」

 意外。という驚いた感じでイーグレットは私の顔を見つめる。

「思っていたより頭の回転がいいですね」

「一言多いわよ」

 そこでイーグレットは私に1枚の紙を差し出した。

「これ、閲覧制限のある書類なのですが、まぁ少しだけならわたしの権限でお見せしましょう」

 そこに書かれていたのは、おそらく魔法の一覧表。

 名称、効果、消費カロリーと並び、さらに必要ポイントという項目があり、似たような効果でも下位に行くほど高いポイントの表記になっている。

「そこに書かれているのは初期的なものばかりですが・・・ここ」

 イーグレットは書類の一部分を指差した。

「回復系は初期レベルから充実しているでしょ?」

 こくり。と私は頷く。

 それを見て調子に乗ったのか、イーグレットはドヤ顔で。

「それはそうでしょう。だって、こちらも簡単に死なれたら困りますから」

 ちょっとイラッときた。

「と言う事は、もしかして死んでも生き帰る魔法なんて・・・・・」

「そんなものありません」

 まだ最後まで言ってないのに、コイツはバッサリと言い切りやがりました。



 それから私たちは15分位歩き、最寄りの街に到着した。

 イーグレット曰く、『立ち話もなんですから』だそうだ。

 無理矢理拉致しておいて言うセリフではないと思ったが、私に選択肢がある訳でもなく黙って後をついて行くしかなかった。

 ここはメザリスという名前の街で、ノービアの中では首都に次ぐ大きさの街だそうだ。

 街は一言で言うなら中世の城下町といった感じで、道には石畳が敷かれ、歩く度に足元からコツコツとアスファルトとは違う音色が耳に届いて心地良い。

 目に入る建物も古臭さは感じるものの、石柱や窓枠に施された彫刻が博物館に並ぶ芸術品と遜色のない出来で、つい見入ってしまいそうになる。

 ただ、通りを歩く人々・・・・と言うか、明らかに見た目が人でない方が時折視界に入る度に、ああ、やっぱりここって異世界なのね・・・と、改めて思い知らされた。

 程なくしてイーグレットが建物の前で足を止めた。建物というか・・・どう見てもお城である。

 ただし、某有名ネズミのテーマパークにあるような外観が美しい城。ではなく、城を囲む城壁の所々から砲台らしきモノが見え隠れする、どちらかと言えばガッツリと戦っています!的な城塞の方だ。

「さすがに王子様とかは住んでなさそうだなぁ・・・」

 とまぁ、あまり期待はせずに城壁の中に入ってみると、驚くことに噴水を中心とした円形状の綺麗なレンガ敷きの広場が私たちを迎えてくれた。

 さらに広場は青々とした芝生に囲まれ、所々に木製のベンチが備えてあり、その1つに頭の悪そうなカップルが人目をはばからずにイチャついていた。

(そういうトコは何処も一緒か・・・)

 ええ、モテない女のひがみである。

「フフフ、うらやましいですか?」

 ええい。コイツはエスパーか。

 ニヤニヤした顔がムカついたので思いっきり尻にキックをお見舞いしてやった。

 どうせすぐに魔法で回復しやがるだろう。

 案の定。ヤツは1分と経たない内に蹴りのダメージなど感じさせずに歩きだした。

 広場を突っ切り、重厚な扉の前に来ると

「お嬢さん。ご足労おかけしました。ここがノービア開発機構の本部です」

 と、イーグレットがこちらに振り返る。

 その背後には、えらくでかい木の板に墨で『ノービア開発機構本部』と書かれている看板があったのだが、

(どこの道場だよ!っていうか日本語!?いろいろ世界観台無しだろ!)

 溢れ出るツッコミをなんとか我慢している私が案内されたのは妙にだだっ広い部屋だった。

 赤い絨毯が一面に敷かれているので何というか・・・・

「披露宴会場かよ・・」

 と、せっかくガマンしていたのに思わずツッコミを入れてしまった程に見事な内装である。

 その傍らには机がいくつか並べられてイーグレットと同様にスーツに身を包んだ人たちが、何やら窓口らしきものを設けて行列を作っている人たちを順番に捌いていた。

 お役所。真っ先に思い浮かんだのはその言葉。

「とりあえずこちらへ」

 薄っぺらな木の板で囲まれただけの個室っぽい所に頑丈そうな机が1つ。

 元の世界なら即通報しても問題ない胡散臭さに私の顔が歪む。

「早まったかなぁ」

 つい本音が口からこぼれ出る。

「まぁ、気持ちは分かりますよ」

 ハハハと乾いた笑いとともにイーグレット肩をすくめる。

 お前が言うな。というセリフはギリギリ飲み込めた。

「ここまでの道中にある程度は契約内容について説明はしたのでご理解いただけているとは思いますが、これは任意です」

 イーグレットはスッと契約書を差し出した。

「てっきり、契約してくれなきゃ元の世界に帰さないぞ。とか言うかと思ったけど」

 自力で帰れない者には極めて有効な手段だと思う。

「ただ契約を結ぶだけならそれでいいですけどね」

 苦虫を嚙み潰したような顔でイーグレットはもう1枚の紙を置いた。

「脅迫紛いの契約だとその後が問題なんですよ」

 それは『契約者へのお願い』と書かれたパンフレットであった。

 そこには、

『ノービアを昔の様に光あふれる国にしよう!』

『モンスターを倒して奪われた土地を取り戻そう!』

『ノービアを魔王から守ろう!』

 と、ポップなフォントで書かれており、最後には、

『死んだら自己責任で』

 という文字が小さく書かれていた。

 小さいくせに存在感がバカでかい・・・。

「こちらも人手不足ですので契約者の方には自発的に動いて欲しいのです。ノービアのことも機密なので契約に至らなかったり契約が解除された場合は記憶の消去も必要になりますし」

 さらっと聞き捨てならない言葉がイーグレットの口から出たが、そんなの契約書にあったか?あ、すげー小さく書いてあるわ。

 何というか、なりふり構わない感じが痛々しい。

「まぁ普通に考えたら命を懸けてまで、見ず知らずの土地を救う理由は無いわよね」

「そこで重要になってくるのがカロリー消費による魔法というこの世界特有のシステムなんですよ」

 イーグレットの右手の甲に数値が浮かび上がる。

「これは?」

「僕が現在使える総カロリーです。ゲームと違って魔法以外でも減りますし、食事をすれば増えます」

「へぇ」

 カロリーが数値化されると色々と便利そうだ。

「契約した方は漏れなく使えるようになりますよ」

 これだけでも契約する価値があるかな。契約だけして帰ろう。

「定期的にモンスター駆除してポイント納付しないと使えなくなりますからね」

 私の思考が読まれたのかと思ったが、イーグレットの顔を見るに同じ考えに至った人間が今までに数多くいたのだろう。

「こちらとしては自発的、定期的にモンスターを駆除してノービア王国を良くしてもらいたい。ついでに魔王も倒してくれるとなお良しです」

 ついでという意味をコイツに叩き込みたいところではあるが、私が倒すわけでもないので流すことにした。

「わざわざこんな手間をかけなくても現地の人でなんとかならなかったの?」

 そうイーグレットに問いかけてはみたものの、街の人々の共通点から答えはもう出ている。

 街を行く人々はどれも皆やせ細った体をしていたから。

「単純に人手不足ですよ。モンスターは各地にいるわけですが、国民全てが戦えるわけじゃないですから」

 違ってた。恥ずい。

 てっきり栄養不足で魔法に回せるカロリーがないかと思ってた。 

街で暮らしている人々や、さっきのバカップルが日々モンスターと戦っているようには思えなかったからそう思ったのだが、よくよく考えてみれば国民全員が兵士なんて国は本の中にしかないだろう。

 聞けば、こちらの世界の人間(と他の種族)が魔法を使う際にはゲームの様に体内の魔力を使っているそうだ。

 カロリーを魔力に変換するのは私たち異世界の人間だけらしい。

 ならば普通の高校生である私が選ばれた理由は?

「何となく私が選ばれた理由が分かったわ。正直、正解だったらムカつくことにもなりそうだけど」

「察しが良くて助かります」

 さっきまでの暗い顔は何なのやら、ニコニコと手を叩くイーグレットにまたムカついた。

「散々ダイエットを繰り返しただけのことはありますね。目の付け所がっ!」

 思いっきりイーグレットの脛を蹴り上げた。

「くっ。油断していた」

 まだ履き始めたばかりのローファーのつま先は硬かろう。

 ただ、失礼な発言の中に引っかかる点があった。

「ダイエットを繰り返していたって、なんでアンタが知ってんの?」

 おそらく汚物を見るような目をしている私に気づいたのか、魔法で痛みを消しながら、

「一応は営業なんですから相手方を調べるのは当たり前です」

 と言い訳をした。

 イーグレットの話だと、見込みがありそうな人間を選定職がピックアップしてイーグレット達営業職へ振り分けるのだという。

営業職は受け取った名簿を基に長い時は1ヶ月ほどかけて対象者を調べ上げてから声をかけるそうだ。

「危険思想があったら困りますし、見込みがない人間を相手にしている程こちらも暇ではないんで」

「ちょっと、変なとこ覗いたりしてないわよね?」

胸元を手で覆い隠す私に向って

「何か食べてる姿しか無いのは女性としてどうかと思いますよ」

心底呆れ果てた表情で目の前の男は言い放った。



イーグレットはお気に入りのキャラです。

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