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六作目「魔法少女備忘録」


魔法少女。

それは、魔法を使い、「ワルイモノ」を処分する女の子達のことだ。

今やアニメやマンガの影響で世界中の人が知っているワードだと思う。

でも、実際の魔法少女は、二次元のファンタジー世界みたいにただかわいく平和な正義の味方なんかじゃない。魔法はかっこいいものだけではないし、ワルイモノに殺されたり、危険な役割だ。


私の名前は桜。一年生。女子。魔法少女ではない。

桜と名乗るからには、桜色や薄桃色の髪だったらキャラ立ちしていて覚えやすいのかもしれないが、残念なことに濁ったような薄紫の髪の毛なので桜色と主張するのは厳しそうだ。

せめてもの桜アピールとして左右に桜の髪飾りをつけたツインテールをして毎日学校に通っている。

なんだかんだで私は桜がやはり大好きなのだ。


そもそも、魔法少女なんて「実際しない空想の身分」だと考える人が9割…いや、9割だったら1割の人が魔法少女を信じてることになってしまう。9割ではなく95%くらいの人が「魔法少女は存在しない」と理解してる、と私は思う。事実、普通に生きて普通に死ぬ人のほとんどが魔法少女に関わることはないから、当然といえば当然だろう。

まあ、そんなことはどうでもいい。魔法少女は存在するし、魔法少女がただかわいいだけのファンタジーの住人じゃないことも私は知っているのだから。


そう、この、さっきからずっと私の隣で鼻歌を歌いながらシロツメクサの花かんむりを作っている墨先輩。

先輩こそが、いわゆる「魔法少女」だ。

墨先輩は私より1つ年上で二年生だけど、一年生女子全員に「これ…君に似合うと思って」と花かんむりをプレゼントしたことで有名な先輩だ。最近では帰宅途中にすれ違った女性にも花かんむりを渡している。私も、入学式の日にそれをやられて以来、先輩の大ファンだ。

肩にかかるくらいのミルクココア色のさらさらした髪に、すらっと伸びた手足、かわいい顔立ち。そして、外面だけじゃなく内面も、明るくて、社交的で今日も私の憧れだ。


シロツメクサの花冠の18個目を完成させた墨先輩は「おまたせ桜ちゃん!」と言って立ち上がった。

座りこむ私の頭に器用に18個の花冠を重ね乗せて「桜ちゃん、似合う似合う!かわいいよー!」と満足そうにうんうんうなづく。笑顔で褒めてくれる先輩の方がかわいい。私は頭の上の花冠が崩れそうで、バランスを取るためぷるぷるしながら耐えた。


墨先輩は気が済んだのか、ワルイモノを探しに行かなきゃと言った。先輩は学校の制服から、黒色の魔法少女の姿になった。先輩の手の甲にはダイヤの形をしたアメジストが現れる。

私も墨先輩についていく。花冠は、立ち上がったときに全て地面に落ちた。


そして花畑から農場についた。

農場では柵の上に女の子が腰掛けていた。絹糸のようなほそいふわふわの長い金髪が風でゆれる。まるで、農作業の服をきてるお姫様のようだと感じた。

私は彼女にかけよって名前を呼ぶ。


「れみちゃん!れみちゃん!」


「桜ちゃん…」


元気があまりないようだ。

私が首をかしげるとれみちゃんは話し始めた。


「牛がみんないなくなってしまったの。遊びに来た子どもたちが朝から食べつくしてしまって、骨すらもなくて…牛がいないと私、乗れない…」


「それはきっとワルイモノのしわざだね。あいつらめ…!」


墨先輩が言った。


「いいえ、いいえ、ワルイモノとは違くて、農場に見学にきた小学生たちが、牛を食べ尽くしてしまったの。子どもたちはみんないいこなの。」


れみちゃんが言った。


「ワルイモノのやつらめ…!許さない。私が倒してきてくるから安心して。大丈夫だよ」


墨先輩は花冠をれみちゃんに被せて言った。

シロツメクサの白が金髪によく映えている。


墨先輩は手をかざし、手の甲のアメジストから紫の光を出して農場の井戸の上に巨大な鏡を作り出し、鏡の中へとそいやと飛び込んだ。

この鏡は魔法少女しか通ることができない。


「どうしましょう…」


れみちゃんは私を見上げてオロオロし出した。


「墨先輩は超強いから大丈夫だよ!」


「いえ、いえ、そのことじゃなくって…今、3時なの。お菓子の時間になってしまったわ。お菓子を食べなきゃ。でも、墨ちゃんがいないから」


「あー…時間をずらす?」


「バレなければいいのだけど、バレたら怖いわ」


「うーむー…」


二人でどうしようかと悩む。

れみちゃんはお父さんが太陽でお母さんが月な、いわゆるサラブレッドで、れみちゃんが時計を動かせば時間をずらすことができる。とれみちゃんはいつも言っている。でも、時計を動かせば、お母さんの寝る時間とお父さんの起きる時間がズレるからすぐバレてしまうのだ。


れみちゃんは悩んでるうちにだんだん腹立ってきたようで。こぶしを膝の上でぎゅっと握りしめたまま、文句を言い始めた。


「私は桜ちゃんと墨ちゃんとお菓子が食べたいのにどうして母さまも父さまもわかってくれないの!」


空を見上げて言う。

太陽はれみちゃんのことを意に介さないように今日も眩しく輝いていた。

れみちゃんは泣き出してしまった。


「もういや!毎日毎日、母さまは勝手に登って勝手に沈んでばかり!父さまだって、同じだわ!私のことなんてどうでもいいのでしょ!一緒に海で泳いだり、一度でいいから遊園地のジェットコースターに家族で乗ってみたかったのに!いつもそうだわ!」


れみちゃんが泣きながら太陽に文句を言うたびにれみちゃんの身体がどんどん巨大になっていく。

れみちゃんの服は農作業服ではなく黄色とオレンジ色の魔法少女の姿になった。

座っていた農場の柵も、小屋もすべてれみちゃんがぺしゃんこにしてしまった。


涙を啜って少し落ち着いたれみちゃんもそれに気がついたようでこれはなにとオロオロしている。


「どうしましょう…私、これじゃあ食事代が増えてしまうわ」


「れみちゃんは!!魔法少女になったんだよ!」


私はれみちゃんを見上げて大声を張り上げて説明した。聞こえるかはわからないけど。


「!!!魔法少女!!!」


どうやらちゃんと聞こえたらしい。

れみちゃんは魔法少女になれることが嬉しいようで、イライラが治り身体は元のサイズに戻った。

オレンジのリボンカチューシャの真ん中でハート形のアクアマリンがきらりと光る。

れみちゃんは「ストレスがたまると身体が巨大化する」魔法少女だ。


「私、魔法少女なのね!ふふっ!」


私がそうだよーと言いかけてる間に、れみちゃんはオレンジのスカートをふわりと揺らして、井戸の上にある巨大な鏡に飛び込んで消えてしまった。


「…」


私は一人になってしまった。

どうしよう。

墨先輩もれみちゃんも魔法少女なのに、私だけ、ただの人間。

一人だけ違うというのは疎外感が結構ある。

私も魔法少女になりたい。なるべきだ。なろう。


私は真剣に考えた。

魔法少女で色被りは御法度だろう。

墨先輩が黒衣装に紫の宝石。

れみちゃんがオレンジ衣装に青の宝石。


(え、黒と橙???なにこれわかりにくい…これ、赤、青、黄、でよくない?墨先輩なんで黒なのほんとどうしよ)


私は私なりに真剣に考えた。

そしたら空から深海魚の卵が降ってきた。

ぬめぬめ卵が空からぼとぼと。

地面につくたびにべちょと粘液を撒き散らして、中から醜悪な化け物たちが出てきた。

今日の天気が晴れのち卵だということを失念していたので、私は傘もカッパも無い。

逃げ場所は鏡の中だけ。魔法少女になるしかない。


私は井戸に向かって走り出した。

桜色、桜色、桜色、桜色、…すごく桜色を念じた。願わくばピンクの魔法少女になりたい。

そして、巨大な鏡にえいやぁっと飛び込む。

鏡は不思議なふんわりした光を出して、私を鏡の中へとワープさせた。



鏡の中の世界はきらきらした夜のようだった。ゆっくり、鏡の入口から落下しながら見た景色全貌はとても綺麗だった。


とん、と着地をする。

そして、目の前にある白い柱に反射で映る自分の姿を視界に入れる。

…おかしい、あれだけ念じたのに桜色でもピンク色でもない。白寄りの水色を基本とした魔法少女の服で、スカートには透明な細長いひらひらがいくつもついている。


(透明…?いや水色か。え、え、なにこれめっちゃクラゲ…超クラゲ…私クラゲきらい…)


胸元には丸い形をした大きな真珠がめり込んでいる。血管も繋がっているようでじーっと見ると血液が運ばれていて、少しグロテスクだった。

万が一取れたら血とかすごく出そうである。


魔法少女はなりたい姿になれるわけではないのだなぁと少しがっかりしたが、仕方ない。

私は「自分の上にだけ雨を降らせることができる」魔法少女になった。

泥で濁った川の上に赤い小さな木の船があったのでそれに乗って座る。船は動き出した。


川は西洋のお城のような建物の中へと続いている。

お城の近くまでどんぶらこと流れていると、墨先輩が私の船に飛び乗った。


「桜ちゃん、気をつけて。スターがなくなったら死ぬよ」


墨先輩は小声で私にそっと告げる。

そして船はお城の中へと入っていった。



「ヨウコソー!!!!!!!!!!!!」


お城の中で、係員のお姉さんが船に向かって笑顔で挨拶をしてきた。そして、私と先輩に一つづつ煌めくスターを渡してきた。

墨先輩は貰ったスターを腰につけている。


「ヨイタビヲー!!!!!!!!!!!!」


「まって!私、まだスターをもらってないの」


私は渡されたスターをさっと靴の下に隠して係員のお姉さんに言った。

係員のお姉さんは私にスターを再び渡した。

これで、私のスターは2つ。

船はそのままゆっくり進み出した。



しばらくして、係員の人が見えなくなるくらいの場所では、天井からたくさんの人間の足が吊るされていた。

まだ取れたての足もあるようで、断面から血が滴っているものもある。

そして、足のエリアを更に進むと、左右に道が分かれていた。どちらも、ここからだと真っ暗でよく見えない。


「墨先輩、どうしよう」


「左が危ない気がするな~」


「じゃあ右で」


私たちが右に行こうと決めた途端、船が咆哮をあげて暴れ出した。左に行こうとして水の上で猛ダッシュを始める。墨先輩は慌てることなく船を即座に大破して殺した。墨先輩は「なんでも殺すことができる」魔法少女だ。


「よしオッケー。じゃあ右まで歩こう」


「うん!」


私たちは船の死骸を置いて、右の道を進む。

右の道はビルのフロントに繋がっていた。


ビルは高く、私たちはエレベーターで一番上である52階へと着いた。

そして、なにかがおかしいなと思った。

私と墨先輩をみたビルの中の人々が、死にそうな顔をして目を見開いている。発狂したかのように奇声を上げて泡を吹く人もいれば、泣き叫んだあとにずっと笑っている人もいる。

私が一歩エレベーターから出ると、ビルがぐわんと揺れた。続いて墨先輩も出ると、ビルは更にぐわんと揺れた。


そして、ゆっくりと、ビルは左側に倒れていきそうで、中の人たちがみんな必死に右側に走り出した。

ぴたり。なんとかビルがまたまっすぐ立つ。

そして私が一歩後ずさるとまた揺れる。


そう、このビルは私と墨先輩が入ったのでバランスが崩れたのだ。

だからみんな、ギリギリのバランスで動かずにずっとここにいたのだ。

ビルが右に傾けば人々は急いで左に走り、それが原因で今度はビルが左に傾く。

ぐわんぐわんぐわんぐわん。


墨先輩は私の手を引いてビルから急いで駆け下りた。3階、2階、…ギリギリで私たちは逃げ出すことに成功した。バランスが取れなくなったビルはぐっしゃああああと倒れて潰れた。


ビルの外は川なんて無くて、日本のお祭りのように出店がたくさん賑わっていた。

そこで太鼓の音が鳴り、アナウンスが流れる。


「れみさん、輪投げに失敗しました。れみさん、輪投げに失敗しました。繰り返しお伝えします。れみさん、輪投げに失敗しました。れみさん、輪投げに失敗しました。」


れみちゃんはどうやらいま、300円払って輪投げをしていたようたが、失敗したので輪投げ屋の店主に全世界にそれを発信されているらしい。


私も輪投げがやりたかったが、失敗して全世界に晒されるのは怖い。諦めようと思ったら、墨先輩が

「打倒!ワルイモノ!」と言って輪を投げた。

輪は勢いよくカーブをして、店主の首を見事に打ち取った。

涙目のれみちゃんは両手を胸の前で重ねて、感激したように墨先輩にありがとうと言った。


それをみたおばけ屋の店主のおじいさんがダンボールを持って近づいて来た。おばけ屋はおばけを売ってる非合法の店で、普段はおばけ屋敷のふりをしている。


「お見事。お見事。クリア報酬を上げよう。」


おじいさんは墨先輩にたくさんのかわいい手作りお菓子の詰め合わせの袋を渡した。


「ありがと、おじいさん。じゃあ桜ちゃんとれみちゃん好きなのとって良いよ」


「わぁい!墨先輩ありがとうあいしてる!!」


「いいの?墨ちゃんありがとう…」


私とれみちゃんが墨先輩からお菓子を受け取る。

するとおじいさんが慌てたように話を続ける。


「待ってくれ。待ってくれ。お嬢さんたちの分もあるから、それはそこの子の分なんだよ。…はい、お嬢さんにはこれを上げよう。そっちのお嬢さんにはこれを上げよう。」


墨先輩の分のお菓子を食べてる私たちに、おじいさんがダンボールから袋を取り出して渡す。


おじいさんは私にはコンビニ菓子の詰め合わせを、れみちゃんには高級スイーツの詰め合わせを渡して来た。


もぐもぐと食べながら、お祭りを私たちは楽しんでいた。そして夜になり、夜に星がキラキラと光りだす。


「大変だわ…ドーナツライオン座がない!盗まれたのかな…取り返さないといけないわ!」


空を見たれみちゃんは、そう言うと、またねと手をひらひら降って、ドーナツライオン座を盗んだワルイモノを探しに行った。


「最近、魔法少女狩りが流行ってるみたい。魔法少女の肉を削いで、蟻に食べさせて、その動画をネットに投稿してるワルイモノがいる」


墨先輩はお菓子をもぐもぐしながら、「危ないからそいつらを処分してくる」と言って、大きな鏡のゲートを作ってワープした。


そして、私はまだお腹が空いているのでお祭りを楽しむことにしたのであった。




「魔法少女備忘録」おわり



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