四作目「適応力」
僕が目覚めた空間は草原だった。
「どこまでも続く」なんて言葉が使えないような、200メートルほど歩けば終わる草原だ。
どうやら正方形のような人為的な形をしている。
前後左右には壁があり、壁には精巧に木や山などが描かれている。
頭上を見ると、一見空に見えるが、よく見れば壁に空と雲が描かれているだけだと理解できる。
出入口と言えるのか否か、壁の突き当たりには四方それぞれ3つの洞窟があった。
合計で12個。
ご丁寧に洞窟の入り口の真上には白いボードに赤い文字で1から12までの数字が書いてある。
草原の真ん中で目覚めた僕からはどの洞窟の中もあまりよく見えない。
そして、草原には僕以外に9人の人間がいた。
老若男女ばらばらで接点のある人間はいなかったが、特にパニックを起こすものはいなかった。
人間の適応力とはたいしたものだ。
「よくわからないが、帰ろう」という意見で一致団結をするのに時間はかからなかった。
僕たちは元の世界に帰るために洞窟へ近づくことにした。
とりあえず、数字的に1から行くのがセオリーだと思い1の洞窟に近づく。
洞窟の中には動物がいた。
フクロウやコウモリなど暗い中で活動できる動物だ。
僕たちが中に入ろうとすると、激しく威嚇して攻撃をしてくるので奥までは進めなかった。
諦めて僕たちは次の2の洞窟へと入る。
2の洞窟はカブトムシやクワガタムシが大量にいた。
僕たちを追い出すかのように、ぶいぶいと飛び回る。
僕たちは諦めて次の洞窟へと入った。
3.4.5.6.7.8.9…様々な生き物たちがいた。
次はいよいよ10の洞窟だ。
僕たちが近づこうとすると、中から傷だらけのライオンが出てきた。
怯える僕たちに向かってライオンが人間の言葉で話しかけてきた。
曰く、僕たちは次の11の洞窟から出られない。
曰く、僕たちもやがて何かの動物になる。
曰く、ここのみんなはかつては人間だった。
曰く、ここには食料はないもない。
曰く、生きるためには同じ洞窟の誰かを殺して食べるしかない。
ライオンは「そろそろ俺も知能がライオンになってきているから、洞窟の仲間を食い殺さないためにも洞窟から出てきた」と僕に言った。
洞窟からもう1本踏み出したライオンは赤いレーザーによって消失させられた。
ライオンは仲間を食うよりも自死を選んだ。
僕たちは11の洞窟に入らなかった。
やがて、僕たちは草になった。
「適応力」おわり