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銀ノ閃光  作者: 若葉 美咲
3.戦うということ
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3-1 基本の動作


 雨粒が柔らかい土を削っては流れていく。

「エリック、遅れてるぞ!」

 アドルフォの声が聞こえて、エリックは足に力を込めた。ぬかるんだ道では体は思うように動いてくれない。奪われていく体温と、沈む足元。息切れは激しく、酸素を吸うことすら難しい。

 土砂降りの雨が視界を遮っている。

 先を走っていたミリィの姿はもうとっくに見えなくなっている。焦りが心の中に生まれた。急がなければ。

 エリックの足に何かが引っかかった。視線を滑らせる。絡まったロープ。

「しまった!」

 そう言いながらも二、三歩飛びずさる。蹴った土が跳ねて、ズボンや靴を汚した。

 空気を割く音が耳に届く。先ほどまでいたところに矢が突き刺さる。一本、二本、次から次へと矢が自分をめがけて飛んでくる。恐怖なんか感じている暇はない。

 剣を抜き放ち矢を剣で弾き飛ばす。

 ギリギリのところで全ての矢を回避しきったものの、バランスを崩し、後ろ向きに転んだ。

「とまってないで、走って! 死ぬよ!」

 カルロスの声がどこからか聞こえる。

 起き上がり、走り出す。背中の荷物がとても重く感じる。雨のせいで地面がぬかるんでいて、走りにくい。泥を蹴る度に滑って前に進んでいる気がしない。

 ミリィはどこまで進んだだろう。

 酸素が足りない頭で考える。ぼんやりしつつも、走らなければ、と思う。

 ヒュウヒュウと音のする喉を酸素が焼く。

「遅いよ、走れ走れ!」

 再びカルロスの声が聞こえる。

 エリックは滑る足に力を入れて走り出した。

 ようやく最終地点が見えてきた。あと少し。もう一歩だ、と踏み込む。

その足が、何かを踏んだ。なんだ、と辺りを見渡すより早く。

「エリック、上!」

ミリィの声が聞こえた。ほとんど叫ぶような声。だけど、身構える暇もなく、頭の上にたらいが落ちてきた。

脳に衝撃を感じて、エリックはその場に倒れこんだ。

「はい、アウト~。毎度毎度よくやるよね。トラップ発動数、七回。脱出ならずで死亡~」

 倒れたエリックの前にカルロスが姿を現した。どこを走ってきたのか、ズボンに泥が跳ねた様子は一切ない。

 この二カ月、エリックは体力づくりとチームの団結力を上げる訓練ばかりしている。対人模擬戦とか、講師の先生が狩ってきた弱ったモンスターの討伐や解剖をやった。

 座学と言えば、月精石とダンジョンのことに関してのみ。

 学校というよりもどこかの訓練場に入ったのではないかと錯覚するような目まぐるしさだ。それも面白いといえば面白いが。正直体力的にはきつい。

 今回はダンジョン内に罠を張るモンスターに追われているという設定での訓練だ。知能の高いモンスターもいる。考えながら戦わなければいけない。

現実は優しくない。

 エリックは自分の身すら護れていない。今回だってたらいのトラップに引っかかってしまった。

 周りを見ろ。落ち着いて行動しろ。視野を広げろ。同じようなことを何度もファミリーの人たちに言われている。それなのに似たような失敗を繰り返す毎日。

 エリックはゆっくりと体を起こした。


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