8-1 これが始まりの
あの長い悪夢から数週間後。
エリックは銀遊士協会の建物から出てきた。
「緊張したな、ヒオ」
エリックの言葉に、肩の上でヒオが同意するように鳴く。
ふわふわの毛が頬に当たってくすぐったい。
エリックは銀遊士協会に《ディスター・クイーン》討伐の報告を終えたところだった。
ことの顛末を述べた後、ステッカ学園長を含む理事たちと名だたる銀遊士たちによる聞き取り調査があった。新米のエリックは戦々恐々だった。
それでも、包み隠さず、ありのままを全て報告した。
ヒオのこと。アークのこと。魔法のこと。
理事たちの興味は魔法に向いているようだった。しかし、難しい質問はステッカ学園長が助け船を出してくれた。
おかげで、無事に報告会を終えることが出来たのだった。
伸びを一つ。出かけた欠伸をかみ殺す。
綺麗な青空が広がっていた。あの日の修羅場が夢のようだ。
闘いの後、ボロボロの体を引きずってダンジョンの出口を目指した。
地上に出れば、眩しい光がエリックたちを迎えた。
ミリィは起きて、自分の不甲斐なさを謝りながらも自分の足で歩いていた。おかげで、エリックはアークに肩を貸すことが出来た。
アークは心臓近くに大穴を開けているのに、どういう理屈かは分からないが、意識を保ち、体を引きずるように歩いてくれた。
そんなエリックたちを迎えてくれたのは、他でもないグレイシャとカルロスであった。
「心配したでしょ!」
グレイシャが涙目になりながら、ミリィを抱きしめる。
後から、事の流れを聞いたグレイシャは慌ててここに駆け付けたようだった。
ミリィの頭をぐりぐり撫でながら、涙を零していた。
そんな光景を見ていたら、エリックも目の奥がじわじわ熱くなってくるのを感じた。
エリックが安堵していたら、右肩が急に重くなった。
見れば、アークがぐったりとしていた。まるで死人のように血の気がない。体温もどんどん低くなっている。
「《死神》! 君ってば本当に無茶しすぎ!」
カルロスが駆け寄ってくる。
「救護班!」
カルロスの声に真っ白な服を着た隊員たちが駆け寄ってきた。
そのまま、一、二、三、の掛け声でアークは担架に乗せられて、運ばれて行ってしまった。
エリックはそれを見送った後、静かに意識を手放したのだった。
「エリック!」
そんな呼び声が夢現に聞こえた。
アークの後、エリックも気を失ってしまった。
「随分心配かけちゃったよな」
病室で起きたとき、ミリィは目を赤く腫らして眠っていた。ずっとエリックの手を握ってくれていたようだった。
繋がれた手はとても温かくて、泣いてしまったことはエリックとヒオだけの秘密である。
「さて、行くか」
返事をするようにヒオが跳ねた。
ヒオはステッカ学園長に託された大事な存在だ。銀遊士協会を出る前に、「フィクヒオは君が護りなさい」と言われた。
ヒオと一緒に行動するには、保護登録というものが必要らしい。書類手続き窓口に行かなければ。
やることは沢山ある。
「この書類が通ったら、ヒオと俺はパートナーだな」
エリックが二ッと笑って言えば、ヒオが一際大きな声で嬉しそうに鳴いたのだった。




