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銀ノ閃光  作者: 若葉 美咲
7.《ディスター・クイーン》との決戦
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7-3 《ディスター・クイーン》

 《ディスター・クイーン》が前足で、大地を軽く蹴った。鋭い鍵爪が地面を深く抉る。

 それだけで、エリックたちはフライパンの上の料理のように地面の上で跳ねる羽目になった。大地が震える。

 アークが静かに息を吐くのが見えた。

「命を優先しろよ」

 それだけをエリックに告げるとアークは槍を構えた。黒い切っ先が《ディスター・クイーン》からの光を受けて鈍く煌く。

「斬る!」

 アークはそう短く宣言して、走り出した。大地を蹴って、《ディスター・クイーン》へ駆け上っていく。どんな身体能力だと圧巻する。エリックが視ている前で、アークはどんどん上へ上へと行く。

 赤い月精石を使った武具をいくつか持っているらしい。月精石の効果で肉体強化されているのだと気が付くまでに時間がかかった。

 アークはあっという間に《ディスター・クイーン》の首元まで登るとその刃を突き立てた。鉄の擦れ合うような音が響き、アークの槍の切っ先が反らされた。

「固い!」

 アークの舌打ち。

 《ディスター・クイーン》が大きく首を振った。アークが振り落とされていく。アークは身を翻し、槍を相手の関節に突き立てた。それで落ちることを免れると素早く、また走り出す。

 エリックは剣を握り直した。

 このまま見てるわけにはいかない。何のためについてきたと思っている。

「援護、頼む」

 エリックの短い言葉にミリィが頷くのを確認する。

 エリックもアークの様に赤い鉱石を腕輪にセットした。そして、《ディスター・クイーン》へ走り出した。

 《ディスター・クイーン》は敵意をむき出し、低く唸り続けている。肌を刺すような怒気がエリックを貫く。それでも、エリックは止まらない。

 上ろうとするエリックに対して、足を踏み鳴らし抵抗してくる。

 とりあえず、がむしゃらに剣を振るってみるが攻撃は通らない。

「くそっ! ある程度予想はしてたけど、これは……!」

 厳しいという言葉を言うよりも早く、《ディスター・クイーン》の羽のようなものが飛んできた。

 翼のように見えたところは《ディスター・クイーン》の武器の一つらしい。思うところに真っ直ぐ飛ばせるようだ。

 かわすか、弾けば問題が無いように思うが、数が多すぎる。

 ミリィの援護射撃があるから、かろうじて立ち回ることが出来ている。しかし、斬り込むとなると、話は別だ。エリックは《ディスター・クイーン》に思うように攻撃を当てられない。

 一度、地上に降りて、距離を取る。

 ほんの少しの戦闘で呼吸は乱れ、肺は焼かれている。

 これではさすがのアークでも――視線を移した瞬間、エリックは思わず戦闘中だということを忘れて見惚れてしまった。

 アークの腕の中で槍が躍る。連続で突きを繰り出したと思ったら、大きく薙ぐ。

 弾丸の如き羽矢を舞うように避け、脈打つ地面を槍のように疾駆する。

 アークの描く軌跡は鋭く、美しい。アークのそのものを現しているような攻撃に魅了される。

「すご……」

 気が付けば、感嘆の言葉を零れていた。

 その間にもアークは隙をみて斬撃を繰り出すが、どの攻撃も通っていないように見えた。

 いや、外殻の表面を削ってはいる。が、とても致命的な一撃とは言えない。

「やっぱり、固すぎるんだ……」

 エリックはどこを狙えばいいか、思考を巡らせる。

 アークの攻撃はその間も止むことはない。浅くとも、何度も繰り返される攻撃に《ディスター・クイーン》は怒りの咆哮を上げている。

 一方、クイーンの攻撃は全くアークを捉えることが出来ていない。

 情勢は拮抗しているように見える。

 だが、実際はアークも消耗しているようだった。

 空中で羽を斬り払いながら、ザッとエリックの傍に着地する。顔には疲労が見て取れた。

「あの、変な技は使えないのか?」

 アークが珍しく何かを期待するような目でエリックを見た。

 エリックは剣を構えながら、首を横に振った。

「変な技じゃないです、あれは魔法って言って――」

 エリックの言葉の途中で、《ディスター・クイーン》が足を上げた。

 踏み潰される前に二人はサッと散開する。

 その間、岩間に伏せていたミリィが援護射撃で《ディスター・クイーン》を引き付ける。


 しかし。


「弾丸も通らない!」

 ミリィが驚いたように顔を上げた。

 そして。

《ディスター・クイーン》とミリィの視線が綺麗に合った。

「ミリィ、避けて!」

 エリックの声も空しく、ミリィの上に《ディスター・クイーン》の羽が降り注いぐ。煙が舞った。

 血の気が下がる。エリックは急いで、ミリィの元に向かおうとした。

 だが、その動きは《ディスター・クイーン》に読まれていたらしい。エリックに影がかかる。

「しまった――!」

 これは避けれない。

 踏み潰される。エリックが立ち止まろうとした時、アークが横を通り抜けた。

「行け!」

 短い言葉が耳元で聞こえた。

 エリックは歯を食いしばる。そのままミリィの元へ走った。血まみれになっている体を抱きしめ、安全そうなところまで運んでいく。

 振り返ると、アークが一人で戦っている。

「ごめん、ミリィ。俺、行かなきゃ」

 ミリィの手を握って小さい声で言う。動けない状態の彼女を置いて行くのは心が苦しかった。

「ヒオ、ミリィのこと頼む」

 ずっと肩に乗っていたヒオに向けて言えば、ヒオはすんなりとミリィの頭の上に移動した。

 それを確認して、血で濡れたミリィの頬についている髪をさらりと横へ流してやる。

 行かなければ。きゅっと唇を噛みしめ向きを変える。

 エリックが行こうとしたら、ミリィがエリックの手を握りしめた。

 黄緑色の瞳がかすかに開いた。

「エリック……まほうって、そんなにすごい、の?」

 ミリィが途切れ途切れの言葉で、紡いだ。

 エリックファミリーの手を握り返した。何もできない歯がゆさが胸を満たした。

「魔法は必ず発動できるわけじゃないんだ。ピンチになった時、心の底から願わないといけなくて……」

 そう言って、エリックは言葉を止めた。

 唐突に閃いたのだ。

 自分がピンチになれば、魔法を発動できるのではないだろうか、そんな考えが頭を過った。馬鹿らしい、止めなければ、と思うけど、止めようと思えば思うほど、その方法しかないような気がしてきた。

「俺、やってみるよ」

 ミリィの手をそっと解いて、《ディスター・クイーン》を見つめた。


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