6-10 救援
止まることなくしたたり落ちる血。見たことのない出血量に一瞬頭がくらくらした。だが、ここでぼんやりしている場合ではない。歯を食いしばり、右手だけで自分の腕を負傷させた狼型に一撃を叩き込む。
ひらり、と木箱の上に飛び移る。カルロスの方向を見た。カルロスは相も変わらずひらひらと戦っている。怪我をした様子もないから自分で何とかしたのだろう。不要な心配だったと、エリックは一人、苦笑いを浮かべた。
辺りは鉄の臭いで満ちている。
積み重なるモンスターの死骸。斬っても斬っても襲い掛かってくるモンスターたち。
エリックより少し低い位置に陣取っているミリィは銃弾がなくなってしまったのか、銃剣の先だけで戦っている。
向かいの箱の上にはグレイシャとアドルフォがいた。
グレイシャはもう戦えないのか、アドルフォの近くにへたり込み、呆然としている。
「戦え、馬鹿野郎!」
アドルフォがグレイシャに怒鳴っているが、彼女は首を横にブンブンと振るだけだ。
エリックはグレイシャに向かって跳んだ。このまま誰かを見殺しにするなんてことできない。
グレイシャに襲い掛かろうとしている狼型を一撃で切り捨てる。剣はなまくらになりかけている。切れ味が悪い。半分以上、鈍器と化した重い鉄の棒を振り回しているような感覚にとらわれる。
だけど、二人を守る為にエリックは剣を振るった。
「おい、エリック。今だけ俺の縄を解け」
アドルフォの言葉にエリックは迷った。
「早く! こんなところでグレイシャに死なれたら目覚めが悪いんだよ!」
アドルフォの言葉にエリックは肩を揺らした。
見たことのないアドルフォの剣幕が怖かった。でも、それ以上に信じたいと思った。エリックはアドルフォの手錠を断ち切った。
片刃刀を取ったアドルフォは抜き放ちざまに狼型を一体、屠った。返す時にさらに一体。次々死体の山が積み重なっていく。
アドルフォがどうして捕まっているのか、エリックには分からない。何か悪いことをしたのかもしれない。
たとえ、どんなに悪いことをしていようとも、エリックにとって、アドルフォが大事なファミリーのメンバーで尊敬できる隊長であることに変わりはないのだ。
「気を付けなよ! こいつら、群れで仮をするタイプだ!」
カルロスの言葉が聞こえた。
だけど、振り向くことは出来ない。そんなことをしたら、一貫の終わりだ。
いや、振り向かなくても、もう終わりは近づいてきていた。
「剣が……もたないっ!」
必死に戦って、無茶な振り方をしてしまったからだろう。剣はところどころ刃こぼれを起こし、血がこびりついてしまったようだ。
襲い掛かってくる狼型を斬ることができない。剣はただの鈍器と化してしまった。
狼型モンスターの背中を目掛けて殴りつけるが、攻撃はあまり効いていないように見えた。背中から尻尾にかけて生えている骨の突起が殴り倒すには硬すぎるのだ。
もう、駄目かもしれない。
そう思った時、轟音が鳴り響いた。
銀遊士の援軍が来たのだ。
「よー、相変わらず派手にやってるなぁ、《死神》!」
「援軍に来て上げたわよ? 感謝なさい!」
「《死神》だけじゃなく、《旋風》もいるじゃない。ソロはやめたの、アーク?」
「毎度毎度イイトコロ持ってかれてたまるかよ!」
知らない人達が口々に叫んでいる。その首には一様に銀の笛が揺れているのを見て、エリックは心から安堵した。場の空気が軽くなったのを感じる。
さっと希望の光が差し込んできたような気がして、エリックは瞬いた。
それからは怒涛の勢いだった。
コンテナに溢れている多種多様のモンスターたちの保護が行われるた。
密猟者とエリックたち見習いの救助がされた。
見習いが去ると本気を出したたくさんの銀遊士が個性的な戦い方で、狼型を圧倒した。アークの適格な指示が戦況を助けたらしい、と話を聞いた。
学園都市にモンスターが溢れかえる事態を防いだ。
一時撤退までを迅速に実現させたのだった。




