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銀ノ閃光  作者: 若葉 美咲
6.銀遊士の仕事
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6-2 始まりの夜

 早めに休んで日も暮れてから目を覚ました。黙って支度を整える。誰も何も言わない。奇妙な沈黙が家を満たしていた。

 時計が零時に近づくのはあっという間だった。

 いくら猛暑だからと言って、夜は冷える。流石に、リビングには冷房が付いておらず、湿気を含んだ夏の夜の香りがした。

 皆、時間の十五分前には揃っていた。

 ミリィが緊張した面持ちで、銃剣の最終チェックをしている。特にかなめとなる赤い月精石は補充分まで確認していた。

「大丈夫か?」

 エリックが話しかけると、ミリィの肩が跳ね、彼女は銃剣を取り落としかけた。

 慌てて、エリックが支えてやる。ミリィは頑張って笑おうとしていたが、その手は細かく震えていた。

「う、ん。大丈夫。ボクならできるさ」

 ミリィが自分に言い聞かせるように一つ頷いた。

 なんでそんなに気合を入れているのか、エリックには分からない。少し難しいかもしれないけど任務はやれるはずだ。アークもいるし、とエリックは少しだけ困惑する。

「ずいぶん、余裕そうだね~」

 カルロスがエリックに負けないくらい、余裕そうな声で言ってきた。

「ちゃんと分かってる? 今晩の仕事について」

「分かってますよ」

 カルロスの問いにムッとして、エリックは言い返した。

「い~や、何にも分かってないね。分かってないヤツの分かってるほど信頼できない言葉はないね」

 カルロスが手を広げて言う。

 その態度がいつも気に障る。だが、相手は仮にも先輩なので、エリックはグッと堪えた。

 エリックは正直、カルロスのが苦手だ。何もかもを見透かしたような緑色の切れ長の瞳も、茶化してくるところも。強いはずなのに、その力を隠して本気を出していないところが何より嫌いだった。

 カルロスの全てが嫌いなわけじゃない。尊敬するところもある。だけど、人の神経を逆撫でするような発言には拳をお見舞いしたくなる。

 怒りのままに力を振るうのは目指している姿と違う、エリックは自分にそう言い聞かせた。怒りを耐えて、エリックはカルロスを見続けた。

「はい、じゃあ、授業の復習~」

 カルロスが手をぱちぱち鳴らしながら、エリックの前に指を立てて見せた。

「銀遊士の仕事、主な役割を答えよ」

「モンスターから人を護ることと、モンスターから月精石を護ることでしょう?」

 カルロスの質問にエリックは自信たっぷりに答えた。

「はい、外れ~」

 カルロスがわざとらしく、ブッブーと口で言う。手でバツ印を作り、中々に腹立たしい笑顔である。

「三つって習わなかった? 残り一つは何処に行っちゃったわけ?」

 人の話ちゃんと聞いてるのかな~、なんてカルロスが口を尖らせる。

 エリックは頭を捻る。どれだけ考えても答えはさっき言った二つだけで、他に答えがあるとは思えない。からかわれているのだろうか、と思い始め、隣のミリィを見る。ミリィは険しい顔をして、エリックを見つめていた。

 ミリィの表情から考えると、カルロスの言っていることは本当らしい。だが、思いだすことはできない。授業はちゃんと受けているはずなのに、と首を捻った。

「銀遊士の仕事はモンスターから人を守ること。また、生活に必要になる月精石をモンスターから回収してくること。そして、銀遊士でない者が、モンスターの生態系を乱すことがないように取り締まること、でしょ?」

 見かねたのかグレイシャが横から口を挟んできた。

 長いピンク色の髪を後ろへ払いのけ、常識でしょ、とエリックに釘を刺した。

 エリックは頭を掻いた。

「銀遊士でないものがモンスターの生態系を乱すことがないように、銀遊士が取り締まる?」

 繰り返して、授業でも同じように疑問を持ったことを思い出した。

 モンスターは時に人間を襲うのに、どうして、モンスターを狩った人が罰せられるのか、不思議に思ったことあった、と。

「簡単よ。月精石はモンスターからしか取れないからよ。そして、人間の生活は鉱石に依存している。仮にモンスターが乱獲によって絶滅したらどうなると思う?」

 グレイシャが短く鼻を鳴らしてから教えてくれた。

「そして、今夜は密猟者の捕縛が任務なんだよ?」

 カルロスがエリックに笑いかける。

 先程から、先輩方が言おうとしていることが分からずエリックは首を傾げた。

「ああ、もう! だから、今夜の仕事はっ」

「時間だ」

 グレイシャの言葉を遮るようにして、アークが口を開いた。

 見れば、時計の針はちょうど真上を指して重なっていた。

「ドラゴンが引く荷車を用意した。隊長から乗る、ということでいいか?」

 アークがアドルフォに尋ねた。

「あ、ああ」

 アドルフォも緊張しているらしい。どもった返事をしていた。

 珍しいこともある、とエリックが視線を何気なく滑らせれば、ミリィが小刻みに震えていた。

「大丈夫か? 具合、悪そうだぞ」

 エリックが聞けば、ミリィは目を開き頷いた。

 黄緑色の瞳にこれだけ強い眼光が宿ったのをみたことがあっただろうか。今までとは違うと感じる。

 ミリィは何かを決心したように銃剣を抱えなおした。

「大丈夫。いずれは超えなくちゃいけないことだから」

 ミリィがそう言って、ワゴン車へ乗り込んでいく。

 先輩方の意味深な発言、ミリィの様子。何だか、いつもと違う。

 エリックは少しばかり、躊躇した。

「どうした? 乗らないのか?」

 アークが短く問いかけてくる。

 不安に感じることなんて何一つないはずだ。

 いつまでも護られる自分では意味がない。

 エリックは意を決すると黒い乗り物に乗り込んだのだった。

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