5-6 意外な人物の参戦
エリックが部屋に就いたときには、ファミリーのメンバーはほとんど揃っていた。アドルフォの姿だけが見えない。
部屋には冷房が付いており、涼しい。青い月精石がはめ込まれた、水が入った装置は心地の良い冷気を吐き出し続けてくれている。
月精石の回収が例年より低いと言われている今年は、月精石代だって馬鹿にならないはずなのだが、この学園の生徒は月精石の恩恵に授かれている。
エリックは体が冷えないように上から薄手の長袖を一枚だけ羽織った。
「全員揃ったね?」
アドルフォが入って来て、面子を見渡し確認する。
グレイシャ、カルロス、ミリィ、アドルフォ。いつもの見慣れた仲間の顔ぶれがそろっていた。
「よし。実はね、半端な時期なんだけど、ファミリーの仲間が一人増えることになりました!」
アドルフォが嬉しそうに顔をほころばせた。何故だか少し悪戯をしかけている子供のような印象を受ける。
「そんなことってあるの?」
グレイシャが驚いた表情で言った。
エリックとミリィは訳が分からず、顔を見合せる。
ようやく、高まってきたチームの団結力や、合わせ技が作り直しになるかもしれない。エリックはそんな風に思ってしまった。
「いいからいいから」
アドルフォは自信気に言うばかりで、グレイシャの問いには答えない。
部屋の外へと声をかけ、待機していた人物を中へ招き入れる。
「じゃーん!」
アドルフォがいつも通りの優しい笑顔で、一人の人間を押し出してきた。
「あ」
その人間を見て、エリックは目を見開いた。空いた口が塞がらない。
見たことがある整った顔。居心地が悪そうに、眉根を寄せ、口をへの字に引き結んでいる。
黒い髪は短いが、襟足だけ伸ばされ緩く結わえられている。色白で、不健康そうな肌色。
白いワイシャツに、黒いズボン。翻る、真っ黒なコート。
茶色で鋭い瞳は、光加減で金色に見えることもある。
ファミリーのリビングに姿を現したのはアークだった。
驚きと戸惑い。色んな意味での息を飲む音が部屋に響いた。
「アーク。アーク・ブラッディー・ロメオ。よろしく頼む」
彼の短い自己紹介の後、少し沈黙が訪れた。
それは一瞬のことで、すぐに部屋は騒ぐ声で埋まる。
「ええっ!? 何でそんな有名人がウチなんかに入るのよ? おかしいわ!」
「こんなことってあるんだね~」
「えっ、ええ、え?」
グレイシャが怒りだし、カルロスが笑い転げた。そして、ミリィに至っては脳内情報が整理できなかったらしい。明らかに混乱している。
エリックと言えば、一周まわって冷静だった。命を助けてもらったこともある、ということも相まって、なんだか妙にしっくり来てしまったのだ。初めましてではないし、心のどこかで近い存在に感じている。
「あ、なんかよろしくお願いします」
そんな感じでアークと握手までしてしまった。
「はいはい、驚くのは無理もないけど、ちょっと聞いてね」
アドルフォが軽く手を鳴らす。
怒鳴り声や笑い声が溢れていたが、皆さっと口を噤む。これも連帯攻撃の練習の賜物だろう。
指示が通りやすくなる。
「驚いたと思うけど、彼はこれからしばらくはファミリーだから、仲良くすること」
アドルフォの言葉にグレイシャが怪訝な顔をした。
「しばらくは?」
グレイシャの質問にミリィもコクコクと頷いている。どうやら、いつまで一緒に活動できるのかが気になっているようだった。
「なんだか、ソロじゃ難しい仕事を請け負ったみたいでね、それで、ファミリー制度に入るように言われたそうだよ。だから、その仕事が終わるまではチームメイトになるってこと」
アドルフォの説明にグレイシャは納得したようだった。
そして、ミリィは分かりやすく落ち込む。ずっと憧れだったようだから残念な気持ちになったのだろうと容易に想像できた。
「早速だが、事情があるんでな。仕事の話に入らせてもらう。いいか?」
一応、ファミリーの隊長であるアドルフォの顔を立てるつもりらしい。アークがアドルフォに聞いた。
アドルフォは断る理由がないのだろう、優しい笑顔で頷いていた。
本当にいい隊長だと、エリックは誇りに思うのだった。




