5-5 日常と招集
猛暑の中、エリックは木陰に体を投げ出した。
日課にしている千回の素振りが終わったところだった。
汗が額に滲む。ふわふわの赤毛は汗のせいで首や肩に張り付いてきて気持ち悪い。手の甲で乱暴に汗を拭い、剣を見つめた。
あの時、魔法は発動した。
だけど、今こっそり呪文を言ってもうんともすんとも言わない。
「やっぱり偶然だったのかなー」
ぼんやり呟いて、溜め息を吐き出す。
実践で使えればもっと役に立てるはずなのだがなんて考えて首を横に振った。自分は自分の力で強くなければ意味がない。それに、過信するな、と言われた。
エリックの成績は相変わらず、一向によくならない。簡単には強くなれないということだろうか。
ミリィの上達ぶりは目に見えているのに、うまくいかないのは歯がゆい。
「エリック、こんなところにいたのだね」
すっかり耳に馴染んだミリィの声が聞こえて、エリックは起き上がった。辺りを見回すが姿は見えない。
「こっちだよ」
フッと上を向けばミリィが枝に座り笑っていた。
さすが、森の眷属と言われるラル族。身長は小さいのに、運動神経はとてもいいのだから、羨ましい。
それ以上に、いつまでも女の子に負けっぱなしというのが悔しい。もっと強くなりたいものだ、と苦笑を一つ零す。
「アドルフォさんが招集しているよ。行こう」
そんなエリックの気持ちを知ってか知らずか、ミリィが楽しそうに話しかけてくる。
だが、ぼやいたところでエリックは人間だ。種族の血の差が覆ることはないだろう。しかし、もっと努力すればいつかは追いつけるはずだ。
グッと拳を握りしめる。魔法なんて不確定要素に頼る暇があるなら、剣の速さや、技の切れ、つまりは、全体の底上げを目指した方がずっと効率的だろう。
「今行く」
ミリィからタオルを受け取り、青い月精石が組み込まれた香水を振りかける。青いキラキラの雫がエリックの体を覆う。
その後、爽やかな匂いがあたりに漂った。
汗の臭いをさせながら歩くとグレイシャに嫌な顔をされるのだ。だから、気を使ってはいるのだが、これも中々に難しい。




