5-3 驚愕の真実
魔法を知っている。もしかしたら、目の前の人は――エリックは固唾を飲み込んだ。
心臓が脈打つ。
エリックの中で、昔助けてくれた銀遊士とステッカ学園長の姿が重なりかける。
「何、昔の『知人』がな、その技をとある村の少年に漏らしてしまったと言っていたのを覚えてたのさ」
ステッカ学園長が苦笑いしつつ言った。
だが、直ぐに学園長は厳しい顔つきになった。
「だが、もしその少年が魔法を使ったのなら、伝えてほしいことがある、と伝言を預かっていてね」
エリックは、ステッカ学園長を凝視した。姿勢を正す。
その姿を見てステッカ学園長は再び笑顔浮かべた。
「決して魔法を過信するな。必ず魔法が発動するわけじゃないんだぞ、って伝えろと言われててね」
学園長の言葉にエリックは目を見張った。それは昔、言われたことと同じだった。
それほど大事だということだろう。エリックは強く頷いた。
「分かりました。自分の力で戦えるようになります」
真剣に言えば、ステッカ学園長はなら良し、と頷いてくれた。
エリックは紅茶をすする。甘味のあるお茶で、飲みやすかった。だけど、美味しいとは思わなかった。
もしかしたら、学園長が幼いころ自分を助けてくれた銀遊士かもしれない、と思ってしまった分、勝手にちょっと寂しくなってしまった。いつか助けてくれた人に逢って、改めてお礼を言いたい。
そして、あなたを追ってここまで来ました、と伝えたい。
エリックは頑張って笑おうとした。だが、うまく分からない。
一息ついてから、真っ直ぐステッカ学園長を見た。
「学園長、一つ質問してもいいですか?」
声が震えた。
ステッカ学園長が目を丸くしながら、エリックの言葉の先を促してきた。
「あの、学園長のお知り合いで、魔法を生み出した銀遊士の人は、今、どちらに居ます?」
一瞬、全てが静まり返ったような気がした。
エリックの言葉に誰も何も言わない。
雲が太陽を覆ったのだろう。急に視界が暗くなった。
「どうして、そんなことが知りたいんだ?」
ステッカ学園長が静かにエリックに聞いてくる。
エリックは拳を握りしめた。銀遊士がどういうものか教えてくれた。この世界がいかに広くて綺麗なもので溢れかえっているかを語ってくれた。戦い方を、生き残る術を見せてくれた。
憧れの存在であり、追い求める背中である。
だけど何よりも。
「伝えたいんです! 俺に世界を見せてくれたこと、あの日、命を救ってくれたこと。ありがとうございますって。それから、俺も貴方みたいな銀遊士になりたいんですって」
エリックが言えば、ステッカ学園長は俯いた。
「そうか……だが、彼は決して君を銀遊士にしようとしたわけじゃないんだ」
ステッカ学園長の言葉に、エリックは首を捻った。
「彼は君に自由に生きて欲しかっただけだ」
ステッカ学園長が静かに言葉を紡ぐ。
どこかで聞いた言葉のような気がして、エリックは瞬きを繰り返す。
そして、思い出した。アークも、――自由に生きることが許されているのに、銀遊士を目指すなんて馬鹿だ、と言っていた。
何でですか、と質問しようとしたエリックの言葉を遮ってステッカ学園長が言った。
「彼は死んだよ」
その言葉に、エリックは固まった。
何を言われたのか、理解するのに時間がかかった。
助けを求めるようにアークを見る。アークは隣に座ったまま、短く息を吐き出すだけで何も言ってくれなかった。
「いつ、どうして……?」
ステッカ学園長は答えなかった。ゆるゆると首を振るだけだった。
その後、どんな話をしたのかエリックは覚えていない。
気が付けば、ステッカ学園長の呼んだ人にファミリーで使っている家の前まで送ってもらていた。
夕日が当たりを真っ赤に染め上げていた。
エリックは泣くことも出来なかった。




