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銀ノ閃光  作者: 若葉 美咲
4.巣別れ
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4-18 事後報告

 エリックが次に目を開けた場所は、学園都市の病院のベッドの上だった。

 真っ白で清潔感溢れる天井やカーテンは目に眩しい。エリックは目を細め自分の腕を持ち上げてみた。それだけで体に激痛が走る。体中が包帯だらけで白くないところを探すのが難しいぐらいだ。

 それでも、命があって、五体満足だということを感謝した方がいいのだろう。エリックは自分に言い聞かせる。

 担当してくれた医師の話では、あと三日ほど入院して経過を観察する、とのことだった。


 医師との話の後、ファミリーの仲間との面会が許可された。

「エリック、ボク、役に立てなくて……ごめん」

 ミリィが涙を堪えながら、エリックに向かって頭を下げる。

 病院のベットの上じゃ、思うように動けない。ミリィの頭を上げさせようとして、エリックは慌てて首を左右に振った。

「役に立てなかったなんて言うなよ。俺、ミリィが居てくれて、本当に心強かったんだ。ミリィのおかげだよ、頑張れたのは」

 エリックの言葉にミリィは目に一杯の涙をためて、コクコクと頷いた。

 その涙を拭ってやることも出来ないのがもどかしい。

「はいはい、イチャイチャしないの~」

 カルロスが軽く手を鳴らす。

「い、イチャイチャだんて、そんな……」

 してない、とは言い切れず、エリックは頬を赤く染めた。

「ま、どうでもいいけどね。ほんと、悪運だけは強いみたいだね」

 カルロスは病院の壁に体重を預けてエリックを見下ろしてくる。

 返答に困って、エリックは瞬きを繰り返す。

「無事でよかったわ。あんた、頭を強打したのよ? 打ち所が悪かったら、そんなもんじゃすまなかったって……」

 ベッドの脇に花を生けながら、グレイシャが言った。目線が合うことはないが、手が少しだけ震えていた。

 そんなグレイシャを見ても、あまり実感が湧かない。だけど、とても危険な状態だったのかもしれない。

 カルロスが言ったように、悪運が強くて助かったのかもしれない。

 でも、生きて帰ってきたのだから、それでいいんじゃないか、なんて考えていたら、アドルフォがベットの脇に近寄ってきた。いつもより厳しい顔をしているのを見て、エリックはちょっとだけ身構えた。

「エリック君。過酷な仕事を任せてすまない。生きて帰って来てくれて、本当にありがとう」

 アドルフォが深々と頭を下げてきた。

「い、いや! やりたいって言ったのは俺ですし! 隊長のことを怒ったり、恨んだりしません!」

 エリックは首がもげそうなぐらい、首を振る。

 アドルフォはそんなエリックを見て、泣きそうな顔をした。それから不器用に笑顔をつっくてくれる。

 エリックは頷いておいた。

「あの、村の人たちは……?」

 聞くのが怖くて声が震えた。背中にじわじわと冷や汗が浮かぶ。

「怪我人は数人いるけど、皆、無事に避難できたわ。今は村の復興に忙しいみたい」

 グレイシャが、エリックの頭を撫でながら聞かせてくれた。

 ああ、良かった、と心の底から思えた。涙がにじみそうになる。

 少しは恩返しが出来ただろうか、とか思う。

 村の人たちの顔を見れなかったのは残念だけれど、生きていればまた会うこともあるだろう。

 安堵が胸を満たす。襟kkうは目を閉じた。

「あと、今回のダンジョンから月精石を採取、調査を行ったんだけど、《クイーン》の月精石が最も小さかった。そんなことは普通、在り得ないんだけどね。何か心当たりはあるかい?」

 アドルフォがエリックに林檎をむきながら、聞いてくる。

 エリックは首を捻った。

「《クイーン》のって、ダイヤ越しに見たけど、相当大きかったような?」

 エリックが首を傾げれば、ミリィも頷いた。

「ボクもそう思う。でも、本当に小さかったんだよ。だから、今、銀遊士協会の人たちが調べてるって」

 ミリィがそう言って、アドルフォが皿に乗せてくれたウサギの形の林檎を差し出してきた。

「お、ありがとう」

 お礼を言って受け取る。

 エリックが笑うと、ミリィも顔を綻ばせた。

「早く元気になってね。そうじゃないと、ボク、君を追いていっちゃうからな!」

 黄緑色の三つ編みを揺らしながら、ミリィはそう言って、病室を出ていった。

 エリックはミリィを笑って見送った。

「じゃあ、また。何か思いだしたり、思い当たることがあったら、連絡してほしいな」

 アドルフォがそう言い残して、ファミリーは部屋から出て行った。

 残されたエリックはダンジョン内でのことをちょっと思いだした。長かったような、短かったような、死闘を。

 少しだけ憧れの銀遊士に近づけた気がした。

 それから、リンゴウサギを口の中に放る。甘酸っぱい香りが鼻孔をくすぐった。おいしい。

 自分の手をしげしげと眺め、握ったり開いたりを繰り返す。

「まだ、生きてる」

 生きていることを噛み締めるように拳を握りしめた。

 あの戦場を生き残れたことはエリックに少しだけ自信を付けさせたのだった。


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