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銀ノ閃光  作者: 若葉 美咲
4.巣別れ
33/63

4-15 救援を得て

 大量のモンスターが流れ込んでくる。卵を器用に避けながら、勢いよくエリック達を目指しているのが分かる。

 逃げ場はない。

 ミリィの銃声が聞こえた。入口付近の様子は迫り来るサソリ型のせいで見えない。しかし、ミリィが一人で入口を死守してる状態だ。

 エリックは歯を食いしばった。血の味がした気がした。それでも、強く強く歯を食いしばる。

 いつまでも護られてばかりではいけない。誰かを護りたい。護れるだけ力が欲しい。武器がなくたって、絶体絶命にピンチだって。この手で全てを塗り替えるだけの力が欲しい。

「もう、誰かに守られるわけには……いかないんだ!」

 腕に力を込める。激痛が走った。それでも、よろめきながら立ち上がる。

 その時だった。

 再び土煙が当たりに舞い上がった。それと同時に銀色の閃光がいくつも走るのが見えた。

 一瞬、何が起こったのか、エリックには理解が出来なかった。

 だが、この間にミリィと合流したほうがいいかもしれない。

 そう思って、動こうとエリックが一歩踏み込んだ時だった。

 砂ぼこりの中で何かが煌めいた。勢いよく近づいてくる物が何か悟った時、エリックは後ろへとのけぞった。

「うわっ!?」

 エリックが先程投げた剣が飛んできたのだ。エリックのすぐ後ろの壁にぶつかって、カシャーン、と無機質な鉄の音が響いた。

 少しずつ土煙が晴れる。一体何が、とエリックは目を凝らす。

 靄の中から、黒い長身の男が姿を現す。光の加減で瞳は金色に光っているように見えた。不機嫌そうな顔がエリックのことを冷ややかに見下ろしていた。

「視界が悪い時はむやみに動くな、大声を出して相手に位置を気取らせるな、自分の獲物は投げるな、全部基本だ」

 聞いたことのある低い声が敵意に近い怒りを内包して、エリックに向けられていた。

「あ、アークさん……」

 名前を言えば、アークは更に不機嫌そうに顔を歪ませた。

 返答はせずに、横にして抱き上げていたミリィをそっとエリックの隣に下ろした。

 ミリィは気を失っているらしかった。外傷は見られないが、安心はできない。打ち所が悪かったら、と心配になる。

 護れなかったから、と胃が痛む。

 申し訳なさと不甲斐なさが込み上げてきて、エリックは唇を噛みしめた。

「見ろ、これが現実だ。あんたに銀遊士は向いていない」

 アークの言葉がエリックの胸に鈍く突き刺さった。

 土煙が完全に消え失せようとしている。《クイーン》の姿が認知できるようになれば、ここはまた戦場になる。

 アークが静かに槍を構えた。白く長い指が槍の柄にそっと添えられる。綺麗で長い指だった。だが、使い込まれた槍の柄がアークが沢山戦ってきたことをエリックに教えてくれた。


 エリックは飛んできて目の前に転がったままの剣を見た。

 それから、ミリィを見た。

 村の人たちの顔を思い出し、ファミリーの人たちの顔を頭に思い浮かべた。

 最後に、ステッカ学園長の言葉を思い出した。

 しゃがんで、剣を拾い上げる。確かめるように、握り慣れた剣の柄に指を這わせ、しっかりと握り込んだ。

 いつまで、弱い自分を許容するつもりなのだ。ずっと護られるなら、銀遊士なんて目指さなくて良かったはずだ。でも、それが出来なかったから、エリックはここにいる。誰かを護る。その手段がここにあるのに、また、ここでアークに護られるのか。

 だったら。

 もし、このままアークに護られて、のうのうと生還することを自分に許すくらいならば、ここで死んだ方がいい。

 エリックは足を踏み出した。

「アークさん。ミリィのことをお願いします」

 エリックの言葉にアークが驚いた表情で振り返ったのだ見えた。

 アークの隣に並び、剣を構える。

「確かに、俺はまだまだひよっこで、何も出来ない強がってる子供なのかもしれません。まだ、夢を見てる少年なのかもしれません」

 言いながら、エリックは剣を握りしめる手に力を籠める。

 土煙が薄くなり、《クイーン》の影が見えた。《クイーン》もこちらを視認したのが分かった。

 だけど、もう、竦むことはない。

「それでもっ!!」

 エリックは剣の柄をぎっちりと握りしめ、力の限り叫んだ。

「俺は銀遊士になって、人々を救う! そして、新しい世界を見るんだっ!」

 エリックの言葉にアークが目を見張ったのが見えた。

 だが、アークが何かを言うより前に、エリックは続ける。

「だから、これはその一歩だ。……この《クイーン》は俺が倒すっ!!」

 アークが口を堅く引き結ぶ。

 土煙が完全に晴れた。視界がクリアになり、《クイーン》の巨体がはっきりと見えた。

 剣を構え、足を開き、腰を落とす。

 左目は依然、見えない。体中、痛む。

 だけど、それら全てが気にならないくらいに胸と頭が熱い。ここでやれなきゃ、銀遊士になるなんて嘘だ。

「俺が憧れたあの人はこんなところでやられない! こんなことで挫けない!」

 エリックが言い切れば、アークがくすり、と笑った。

「倒さなくちゃいけない、じゃなくて、倒す……、か。好きにしろ」

 エリックの方が驚く番だった。アークを穴が開くほど見つめて、その真意を聴こうとする。

 だけど、アークはそれ以上、何も言わなかった。踵を返し、ミリィを安全なところへと運んで彼女を護るように立つ。壁の端から、エリックのことを視ることにしたようだ。

 部屋の中央にはエリックと《クイーン》。エリックの背後にある壁際でアークが静かに腕を組んでいる。この戦いに手を出さないと暗に告げられている。

 エリックは改めて、巨大なサソリ型の《クイーン》と対峙することになった。



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