表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀ノ閃光  作者: 若葉 美咲
4.巣別れ
32/63

4-14 エリックの負傷

 エリックは瞬きを繰り返した。

 《クイーン》の咆哮の衝撃がまだ抜けきっていない。

 人間の耳で音を捉えることは出来なかったが、暴風にあおられ、二人は後ろに吹き飛ばされそうになった。必死に踏ん張り、なんとか堪えたが、しばらく呆然としてしまう。

 体がすくみ上っている。頭もくらくらして思考は取っ散らかっていてまとまらない。

 エリックは視界を巡らす。


 隣にいるミリィも同じような状態らしかった。

 叫び終わって動きを止めていた《クイーン》が顎を閉じ、ゆっくりした動作で、エリックを見つめた。

 エリックの耳からすべての音が消える。そのかわり、視界は唐突にクリアになった。

 《クイーン》の動作がゆっくりに見える。その動きに合わせて、エリックは視線を上にあげていく。

 完全に目が合ったのを感じた。

 吸い込まれそうな赤い瞳に魅せられる。

 ひどく、美しいとさえ思う。


 不意に音の波が戻ってきた。エリックは我に返った。

 気が付けば、《クイーン》のダイヤで出来たサソリの針がエリックの目の前に迫っていた。

「うわああっ!?」

 エリックは叫ぶ。固まっていた体に熱が走った。

 咄嗟に剣を手元へ引き寄せる。

 剣腹で《クイーン》の針を受け止めた。

「よしっ!」

 一瞬だけ、安堵で気が抜けた。その瞬間、《クイーン》が力を込めたらしい。

 エリックは再び、吹き飛ばされる。さっき以上に卵を破壊しながら、地面を転がる羽目になった。

「エリック!」

 驚いた表情で、エリックの元へミリィが駆け寄ってこようとするのが、ぼんやりと見えた。

 頭が痛み、左目が見えない。額を切ったようだ。体から、何かが流れていく感覚がある。脈打つたびに斬った部分が痛む。

 体は卵の液体でどろどろだ。

 それでも、ここは敵陣。待ってくれ、は通用しない。自分の状態を必死になって確認する。

 起き上がろうと腕で体を押し上げようとして、地面に倒れているのだ、と自覚する。

 ミリィとエリックの距離はだいぶ離れている。ミリィは銃剣を持ちながら、エリックの方へと走ってくる。

 完全にミリィの視界にはエリックしか入っていない。

 ミリィの後ろで死を司る神が鎌を持ち上げるのが見える。

 エリックはミリィに向かって叫んだ。

「ミリィ、避けろっ!」

 引きつった声が出た。エリックの言葉で、ミリィがハッとした表情になる。

 ミリィは《クイーン》がいる背後を確認しようと振り返る、が、少し遅い。

 エリックの目には全てがスローモーションに見えた。

 巨大な鋏がミリィに向かって突き出される。

 直撃したら、なんて考えなくても分かる。その先にあるのは地獄への片道だけだ。

 エリックは咄嗟に体を起こす。走る激痛も気にならない。必死になって剣を投げた。

 剣は真っすぐ飛んでいき、今にもミリィを貫こうとしていた鋏に当たってわずかに軌道をずらした。


 ――ズゴォォン


 轟音が鳴り響き、土煙が舞い上がる。

 エリックは見える右目を凝らした。

 ミリィは衝撃によって、土煙とともに吹っ飛びはしたが、五体は満足のように見える。

 この広い空間の入口まで吹き飛ばされていたが、重症は負っていない。ミリィはすぐに素早い動きで起き上がってみせてくれた。

 エリックは安心した。そしたら、力が抜けた。腕で支えていた上半身も崩れ落ちてしまう。

 右目が捉える視界に黒ずんだ赤色が見えた。

「あれ……? ……血?」

 見えない左目が濡れている気がして、左手で瞼をなぞった。ぬめり気のある生暖かい液体が付着した。右目で確認したら、左手は真っ赤に染まっていた。

 左目が先ほどから使い物にならないのは、血が目に入ったから、視界が悪くなったのか、と納得する。

 先ほど、卵を破壊しながら転がされた時にどこかで切ったのだろう。それだけのことだ。分かっている。分かっているはずなのに、血が出ているのを見て、頭が白くなる。心臓の音がうるさい。脈打つたびに額が熱を持ち、力がどんどん抜けていく。

 頭がどこかぼんやりするのだ。

「エリック! 立つんだ! まだ、戦えるだろう!? 戦え、エリック!!」

 ミリィの切羽詰まった声が聞こえた。

 そうだ、まだ戦わなければならない。

 拳を握りしめ、立ち上がろうとするものの、頭に響く。

 体にうまく力が入らず、エリックは上半身を腕の力で持ち上げるだけで精一杯だ。それを見た、ミリィが銃剣を握り締めた。


 その時だった。


 地面が細かく揺れた。気配を感じて、エリックは視線を走らせた。

次の瞬間には、エリックとミリィがやって来た入口から大量のモンスターが流れ込んでくるのが見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ