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銀ノ閃光  作者: 若葉 美咲
1.始まり
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1-2 出会い頭

 今日は、白銀学園の入学式である。

 エリックもこの学園の新入生になる。夢ではないかと不安に思うけど、この胸の高鳴りも握った手の感触も現実だと教えてくれる。

 現在位置と入学式場を確認して、エリックは一歩足を踏み出す。まだ来たばかりで土地勘がない。そのため、エリックはキョロキョロしながら進む。

 エリックにとっては見るもの見るものが新しく、綺麗なものに見えた。

「離してほしいな。ボクは急いでるんだけど……」

 不意に鈴を転がしたような、凛とした声が聞こえた。

 エリックは声がした方へと視線を走らせる。

 小さな人影が見えた。エリックと比べれば、頭一つ分ぐらい小さい。

 薄緑色の髪は一つの三つ編みにまとめられており、腰あたりで揺れている。頭の上からは長めのアホ毛が出ており、顔を動かすたびに、合わせてゆらゆらと揺れていて目を引いた。

 特徴的に尖った耳が髪の毛の隙間から突き出していた。

 白いワンピースを着ており、風が吹く度に白い足に木漏れ日が当たる。

「お兄さん、聞こえてる? ボク、もう行かなくちゃ」

 その女の子が困った顔をして見つめているのは軽薄そうな男性だった。

 ヘラヘラと真意の読めない表情で笑っているが、ちっとも女の子の言葉に耳を貸さない。

 黒髪で顔の両サイドに鮮やかな青緑のメッシュが入っている。切れ長の緑色の瞳。

 整った顔立ちをしていて、女性から人気がありそうだと思う。しかし、嫌がっている女の子を無理矢理誘っている現状を見ると、好感は持てなかった。

 エリックは少し悩んだ。入学式から騒ぎを起こしたくない。

 見なかったことにしようか。

「遅刻しちゃう! ボク、本当に忙しいんだからっ」

「そんなこと言わずにさ~。ちょっとだけ、ちょっとだけだからさ。お願いがあるんだよ」

 しかし、やりとりを聞いていると放っておけない気がした。

 エリックはキュッと唇を引き締めると、二人に向かって歩き出した。

「そんな嫌がることもないじゃん? それに、可愛いねって言ってるだけなんだからさ、そんなに邪険にされるとこっちも傷つくって言うか? 悲しくなっちゃうかもな~、なーんて」

 メッシュの入った男が女の子に対して距離を詰める。

 女の子が一歩下がろうとするが、体格差がそれを許さない。

「ねえ、今度遊ぶって約束してくれるだけでもいいんだけど?」

「辞めてくださ……」

 女の子が明らかに困った声を出した。

「そんなこと言わないで……」

 男の言葉が途中で止まった。

「何? 見世物じゃないんだけど」

 男の視線がエリックに注がれる。エリックが二人に接近しているのに気が付いたからだろう。

「あ……あの、その子嫌がってるように見えるんですけど……」

 エリックは笑顔を浮かべながら、言葉を押し出した。表情はきっとカチコチだろう。上手く笑えている自信がない。背中には冷や汗が噴出してきていた。

 男は短く舌打ちをして、女の子から手を放す。

 切れ長の緑の瞳がしっかりとエリックに向く。

「ちょっと声かけてただけじゃん。邪魔しないでくれる?」

 男が面でも被ったかのような感情のこもってない笑顔をエリックに向けてきた。

 身長がエリックより地味に高いため、男を見上げるような形で見つめることになる。

「人の恋路に首突っ込むやつは馬に蹴られて~って聞いたことない?」

 男が手を広げて呆れて見せる。

「いや、でも、その子嫌がってるし……。恋とは少し、違う……かも、なんて」

 引きつった声で、あはははは、とエリックは笑って見せた。

 視線は泳いでしまって、もう目の前の男をちゃんと見ることは出来なかった。

 エリックのその言葉に男が笑い出した。楽しそうにケラケラと。

 それから、ちょっとご飯に行ってくるみたいな口のりで言葉を紡いだ。

「へぇ~、きみ、言ってくれるねぇ。オレと遊んでくれるのかな?」

 男は遊びがてら、といった感じで武器を手にしている。

 エリックは正直びっくりした。そんなつもりは毛頭ない。

 今になって、エリックは声をかけたことを後悔し始めていた。

「いやいや、そんなつもりは!」

 男はすっかり戦う気のようで、エリックの言葉は耳に届いていないようだ。

「準備はいい?」

 綺麗な笑顔で、男が聞いてくる。

 エリックは目を白黒させた。

 手に持っているものは丸めたパンフレット。

 銀遊士になるために買った護身用の武器はリュックの中に柄の途中まで飲まれているので取れないのだ。情けない話だが。

「舐めてるのかな?」

 言うが早いか男が一歩踏み込んだ。

 素早い動きにエリックは目で追うだけで精一杯だ。防御も間に合わない。

 男の腕の忍ばされている切っ先の鋭いナイフ。

 それを見た瞬間に思考が鈍った。どの程度ダメージを減らせるだろうか、なんて当たる前提で考えてしまう。

 体は思うようには動いてくれない。

 殴られる――そう覚悟を決めた時だった。

「そこまでだ」

 静かな低い声があたりに響いた。


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