4-10 ダンジョン入口
エリックは静かに剣を抜いた。覚悟を決めて深呼吸を一つ。
「でも!」
グレイシャはまだ納得がいっていないようだった。言い募る。
「……これは隊長命令だ」
アドルフォの言葉に、グレイシャが言葉を詰まらせた。
隊長の指示は絶対だ。それがファミリーとして統率を失わないための決まりなのだから。
「あのさ、そんなに悲観することもなさそうだよ?」
不意にカルロスが通信に口を挟んできた。
「今、学校からの通達があったんだけど、あの、《死神》アークが来るってさ。それまで持ちこたえればいいんでしょ?」
カルロスの報告を聞いて、アドルフォの決意は固まったらしい。
「勝ち目はある」
アドルフォは周囲をぐるりと見まわす。近くにいたエリックと目が合った。一度だけ頷き合う。
「それじゃあ、行動を開始せよ!」
アドルフォの言葉と共に、エリックは走り出した。
エリックの後ろにミリィが続いて走ってくる。
まず、二人がモンスターの気を引かなければならない。
動くものにつられて、サソリ型のモンスターが何体かやってくるのが見える。それらと距離を保ちながら、進む。
カルロスが腕輪にダンジョン入口のポイントを含めた地図を送ってくれた。後ろを走るミリィと一度だけ顔を見合わせ、頷いた。
壊れた民家の影に回り込み、ミリィと地図を確認する。
「ここだ」
エリックが指で示せば、ミリィがうん、と頷いた。目を合わせる。互いの覚悟を確認しあう。
「覚悟はいい?」
ミリィが言葉にして尋ねてくる。
どこで命を使うのかは自分で決める。
「ああ。行こう!」
エリックは力強く返事をした。ミリィの顔が少しだけ穏やかな表情になるのをみて、自分の緊張も少しだけ緩和されたことに気が付く。
剣を握り締めなおし、その感触を確認する。
そして、建物の影から先人を切って飛び出す。地図の目印を頼りに走り出した。
ダンジョン入口に近づくに連れ、モンスターが増えてくる。ダンジョンから溢れ出ているのを見ると、やはり、《クイーン》が荒れているようだ。出てくるモンスターはとても攻撃的になっている。
剣を抜き放ち、襲い来るサソリ型の攻撃をかわす。そのまま、一体目の胸辺りを切りつけた。二体目はエリックに襲い掛かる前にミリィによって撃ち抜かれた。
「ありがと!」
走りながら、ミリィにお礼を言っておく。
ミリィの銃声や気配を頼もしく感じた。
勢いを緩めることなく走り続ける。
数分もたたないうちに、ダンジョン前に辿り着いた。
どこまでも続きそうな黒い穴が口を開けている。中から生ぬるい風が吹き出してくる。地獄の入り口にも見えるそれに、エリックは一瞬、躊躇した。
「エリック!」
ミリィの声が聞こえた。
振り向くと、黄色の月精石がエリックに向かって跳んでくる。
エリックは月精石をなんとか受け止めた。
月精石を腕輪にはめてから擦る。すると、黄色の月精石は刺激を受けて光を溢れさせた。
エリックはミリィと視線を交わした。言葉はいらない。
今度は、躊躇うことなくエリックはダンジョンへの入口へと身を躍らせたのだった。




