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銀ノ閃光  作者: 若葉 美咲
4.巣別れ
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4-9 優先される命

 エリックはひたすら走った。自分の故郷の避難所をひたすら目指す。

 家々の屋根の間から見える塔を見つける。はやる気持ちをなんとかなだめながら、エリックは声を上げた。

「見えました!」

 そう言って、人差し指を塔に向ける。

「確認した」

 アドルフォが頷く。アドルフォの右手の親指が一度立てられる。その指はそのまま下向きに振り下ろされた。五人が一斉に止まり、アドルフォの次の指示によって各々が近くの遮蔽物に体を隠す。

 モンスターとの遭遇率がいつの間にか、だいぶ減っている。

「カルロス、偵察を頼むよ。カルロスからの報告が来るまで、俺たちは今の場所で待機」

「りょーかい」

 腕輪を通して、カルロスが気の抜けた返答をよこす。そのまま一つの影が塔へと消えていく。

 目の前に避難所があるのに、待機しなければいけない歯がゆさを感じた。エリックは姿を潜めながらも、ちらちらと塔を見つめる。

 カルロスからの報告はまだない。

 皆の安否を早く確認したいのに、それができないことが悔しくて仕方がない。

 エリックは静かに息を吐き出す。落ち着かなければ村の人を救うどころか、ファミリーの仲間まで危険にさらすかもしれない。そう必死に自分に言い聞かせる。散々迷惑をかけてきたのだ。これ以上は何かやらかしてはいけない。

「あーあー、こちらカルロス。村の人たちの生存を確認」

 待っていたカルロスの報告を聞いて、エリックはほっと胸をなでおろした。

 全員が無事かは分からないが、生きてくれている人がいる。それだけで、エリックにとっては朗報だった。

「だけど、不味いね」

 カルロスが続けて言った言葉に、エリックの体は再び硬直した。緊張感が戻ってくる。

「塔の立ってる丘の麓にダンジョンの入口が見える。《クイーン》が怒ってるんだと思うよ。モンスターの気性が荒くなっているみたいだんね。どうする、隊長?」

 カルロスがアドルフォのことを隊長と呼んだ。一気に空気が張り詰める。

「このままじゃ、避難場所もだいぶ危ないね……」

 アドルフォが通信を切らずに呟いた。

「増援はいつごろ着くのかしら?」

 グレイシャが苛立ったような声で呟く。

 この国の銀遊士は急激な事態に合わせて素早く動けるほど人数がいない。自分の案件を常に抱えているのだから。

 故に銀遊士見習いの学生が先行、状況を確認、銀遊士協会に報告する。それから、国からの増援を用意するのが流れになるのだ。

 もちろん、学園内で銀遊士見習いの増援部隊を編成するが、何しろ学生だ。その増援だって時間がかかる。

「増援はまだ、当分は見込めないな。カルロス、村の守りはどのぐらい持ちそうなんだ?」

 アドルフォが現場にいるカルロスに声をかけた。

「んー、なるべく急いだほうがいいと思う」

 カルロスの答えにより、アドルフォが静かに目を伏せる。

 ファミリーで現場に乗り込んだ時、全ての責任を持つのはいつだって隊長だ。故に、作戦を立てる、判断を下すのも隊長になる。

 隊員は隊長の指示に従うのが絶対だ。よっぽど道徳に反している場合はその限りではないが。

 アドルフォの獣耳が、ひょこん、と動いた。

 続けて、青い瞳が覗く。

「よし、これからファミリーを二つに分ける。村の人の避難を誘導させるチームと、ダンジョンに潜って、モンスターを妖どうするチームだ。どちらも危険が伴う。意見は?」

 アドルフォの提案はかなり無謀のようにも聞こえる。だが、アドルフォができると判断したのだ。なら、そこに勝機と活路を見出すべきだ。

「俺が……、俺が、ダンジョンに潜ります!」

 エリックはほとんど迷わなかった。

 自分があの時、あの《クイーン》を逃がしたせいだという責任感がエリックの中にはある。そして、何よりステッカ学園長の言葉が耳に残っているのだ。


 ――お前さんが、あの《クイーン》を倒すんだ。


 倒せるか倒せないか、ではない。倒すのだ。

 エリックは新しく打ち直してもらった剣を握りしめる。

「私も行きます」

 ミリィの声が聞こえる。エリックにはミリィの声が震えている気がした。

 一体、どんな気持ちで決意したのだろう。

 エリックの位置からはミリィの姿を見つけることすらできない。

「……よし、分かった。エリックとミリィをダンジョンチームにする」

「ちょっと!」

 アドルフォの判断に、グレイシャが待ったをかけた。

「一年生二人には重すぎるわ。ここは先輩が一人ついて行くべきじゃないかしら?」

「いや。村の人の安全を考えるなら、上級生が村人の護衛に就くべきだ。銀遊士の仕事は何かを履き違えるな」

 アドルフォの言葉にエリックは全てを理解した。

 つまり、この場合優先されるのは一年生よりも村の人の命ということだ。

「でも、危険が少ないのは村人の護衛のはずよ?」

 グレイシャが言う。確かに、おとりがいるならモンスターが村人に目を付けるという危険も減るわけだ。

「だけど、万が一ってこともある。僕らの任務は村人を確実に助けること。だから、上級生が村人を守る。……一年生には申し訳ないけどね。避難誘導が終われば必ずそちらを手伝いに行くよ」

 アドルフォの言葉にエリックは首を横に振った。

「大丈夫です。村の人をお願いします」

 カルロスが消えた方向を見つめる。皆が無事でいてくれればそれでいい。村の人たちが護られるのなら、それで構わない。

 エリックの決意は固かった。


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