4-6 事件発生
二人はトレーニングに励み始めたのだった。
エリックはカルロスに稽古をつけてもらっている。
「脇がまだまだ甘いんじゃないの~っと」
「ぐえっ!」
カルロスの言葉とともに、エリックは地面に叩きつけられていた。
力が加減がされているのか、簡単に受け身を取ることが出来る。しかし、かなり痛い。
「足元が疎かだよね。全然、負ける気がしない~」
カルロスが余裕の笑みで告げてくる。
悔しい。
青空見て、拳を握りしめる。エリックは勢いよく飛び起きた。
「まだまだっ! もう一本!」
エリックの言葉に、カルロスが笑う。
「ほら、おいでよ」
カルロスが楽し気にエリックを煽るように手を動かす。
言われたことを意識すると他が疎かになってしまう。カルロスの指摘は丁寧で、エリックの癖が徐々に明るみに出てきた。
反応が遅いと何度も言われるのだが、難しい。
再び地面と仲良くなってしまう始末だ。
「さあさあ!」
カルロスがもう一戦を促してくる。
エリックは頑張ってもう一度、立ち上がる。
そこへ。
「大変だよ!」
もう一試合しようとエリックとカルロスが向き合ったところに、アドルフォが飛び込んできた。
びっくりして、エリックの動きが止まる。
カルロスも動きを止めて、アドルフォを見つめた。
「エリック君の村にダンジョンが出現したって!」
アドルフォの言葉は少しだけ裏返っていた。焦った様子だということを見て取る。
最初、アドルフォが何を言っているのかエリックには分からなかった。
時間をかけて、脳内で反芻する。
村にダンジョンが出来た。モンスターに襲われ、村の人が死んでしまう。
エリックは弾かれたように顔を上げた。
「何、で!?」
エリックの言葉にすぐ答えられる者はいない。誰だって、そんな理由など知る由もない。
「今しなきゃいけないのは原因究明じゃない。とにかくやれることをやらないと」
アドルフォの言葉に、エリックは息を吐き出した。
慌てるな、視野を狭くするな……今まで受けてきた注意を脳内で繰り返す。
「出現したモンスターの型は?」
カルロスがアドルフォに尋ねている。
何をすればいいか分からない。しかし、頭の中で二人の会話は不思議と聞き取ることが出来た。
「サソリ型だ」
「……へ~」
アドルフォとカルロスのやり取りにエリックは目を見開く。
サソリ型。新しいダンジョン。故郷の村の人たち。あの夕立の日に逃したモンスターの集団は……。誰が何と言おうとも間違いなくサソリ型で。
「村の人たちは!?」
噛みつくような勢いで、アドルフォに聞く。
アドルフォは黙って首を横に振った。三角の耳はしょげたように下に向けられている。
安否が確認できていない。
体中に氷水をかけられたのではないかと思えるほど、血の気が下がった。
「エリック君」
不意に誰かが自分の名前を呼んだ。
そこにはステッカ学園長が立っていた。
「学園長、いつからそこに!?」
エリックの声は半分裏返っていた。
「お前さんたちは先発しなさい。村を、故郷の人たちを守るのだ」
そして、エリックは思い出す。あの日のステッカ学園長の言葉を。
――予言しておこう。お前さんが、あの《クイーン》を倒すんだ。
それが出来れば、見えてくる未来変わる。
エリックは拳を握りしめた。
今度こそ、動けなくなる自分でも、護られる自分でもなくなるんだ。変わる。変わってみせる。護る自分になるんだ。
「はい!」
エリックは勢いよく答えた。
「アドルフォ君、現場支持はお前さんに任せる。カルロス君、このファミリーを頼むよ」
「了解」
アドルフォとカルロスの返事は綺麗に揃う。
指示を受けたアドルフォはミリィとグレイシャを招集に行った。
簡易な作戦を立て、ファミリーは仕度を始める。
エリックは手を固く握りしめて、ずっと下を見つめていた。




