4-4 舞台裏
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「何で、名乗らない?」
エリックが部屋を後にして、直ぐにアークがステッカ学園長の部屋に入ってきた。
ステッカ学園長は苦笑いを零すしかない。
「立ち聞きとは良くないな」
注意されたことに対して、アークは何も答えない。金色に見える瞳がステッカ学園長に向けられている。
話を逸らすことは難しいらしい。ステッカ学園長は観念して、窓を見た。
「何だか、昔の私を見せられている気分なんだよ。あの子のことは……何でだろうね、手に取るように分かる。お前さんのことは理解が及ばなくて間違えてばかりなのに」
ステッカ学園長の言葉にアークが眉をひそめた。
それでは最初の質問の答えになっていない、と言いたげな表情である。少しだけだが表情から、ちょっとだけ彼感情を読めるようになったのかもしれない。
「……名乗っても仕方のないことさ。憧れていた人物が、国に断罪されたファミリーの一員だったなんて」
ステッカ学園長の言葉にアーク金色の瞳が僅かに見開かれた。
この子は口より表情が雄弁だと、ステッカ学園長はフッと笑みを零す。
それをどう受け取ったのか、アークは拳を握り締めて、食い気味に口を開いた。
「あれは濡れ衣だろう? 力を持ちすぎた貴方たちを国が怖がった結果だ。貴方は悪くない。少し調べれば分かることだ!」
語尾に向かって強くなっていく口調がアークの感情を全て語っている。その感情はあまりに優しく、それ故に、ステッカ学園長は哀しみを覚える。
この真っすぐな子も国に運命を弄ばれているというのに、あまりに澄んでいる。
他人の為に怒れる。他人の哀しみに敏感でいられる。
それが少し眩しい。そして、羨ましくもある。
「そうだな。その通りだ。……だが、世界はそうじゃないんだ。そうじゃなかったんだよ、アーク」
名前を呼んでやれば、アークは目を見開く。何かを言いかけて口を開くがそれは言葉にならず。アークは眉根を寄せて、それから俯いた。
かつて、銀遊士として、人々の幸せと世界の均衡を守った男が居た。
だが、ある男が所属していたファミリーの力は一国の軍隊をも凌ぐほどに強かった。
もし、このファミリーが団結して国に反旗を翻したら。国を治める身分を持つ者はそれを怖がった。何より、王の傍に居た側近が自分の思い通りに国を動かすのに邪魔な存在となっていた。側近は以前より自分の息のかかった銀遊士を使いたがっていた。
そして、ありもしない反逆罪を作り上げて、国最強のファミリーの長を処刑台へと引きずり上げた。
長は最後まで国の良心を信じて、死んでいった。
ファミリーの大半がこの事件がきっかけでで、本当に国に対して牙を剥いた。しかし、長の元に団結していたからこそ、そのファミリーは強かったのだ。
個々で居ればあっという間に各個撃破できる。
そして、本当に反逆者いう汚名を着せられ、死んでいったのだ。
そうなればファミリーに属していながらも生き残ってしまった者たちは散り散りになるしかなかったという。
「あの子の幻想は美しいままでいい。あの子が思うように進めばいい」
窓を見ながら告げれば、アークは口を引き結んだ。
「あの時は誰も護ってくれなかった。全てが敵だった。国のために、世界のために戦ってきた銀遊士は使い捨ての駒になったのだ、あの瞬間」
だから、この国は銀遊士になりたがる人間が居ない。
銀遊士に憧れを抱く者はいない。
結果、国にダンジョンとモンスターが溢れかえり、特定の種族を差別してまで、銀遊士の偽物を作らなければいけなくなった。多くの者が希望を失って、虚ろな瞳で日々を生活している。
「だが、今は違う。この国の銀遊士協会が、この学校が、この国の銀遊士の未来を守ってやれる。……護ってやれるんだ」
ステッカ学園長は、拳を痛いほどに握りしめた。
過去に葬られた闇の歴史など知る必要がない。いまさら、知ってもらおうとも思わない。
アークはもう、何も言わなかった。眉根を寄せて、ただステッカ学園長をみつめてくるのみだ。
「……すまない。お前さんにはつらい役ばかりを与えてしまうな」
学園長として、その差別はどうなのだ、と言われれば反論の余地もない。
自分とて、アークの優しさに甘えている人間の一人だとステッカ学園長は認識している。その上でアークを利用しているのだから、なお質が悪いのかもしれない。しかし、今更、止まるわけにはいかないのだ。
「さて、話がだいぶ脱線してしまったな。モンスターたちの動きはやはり、明らかに異常だ」
ステッカ学園長として話を元に戻せば、アークの表情が変わった。
努めて仕事の表情へと切り替えようとしているのが顕著に見て取れたが、ステッカ学園長は視て視なかったことにした。
「このあたりのモンスターは春に巣別れを済ませているはずだ。確認したところ、あれは正しくは巣別れじゃなかった」
アークから飛び出した予想外の言葉に、ステッカ学園長は驚いて顔を上げる。
金色の瞳はどこまでも真剣だ。
「どうやら、《クイーン》は巣を放棄したらしい。故に、時季外れの移動が行われた」
顎を撫でて、考える。
そんなことが起こり得るとしたら、それは銀遊士の仕事が間に合っていないことのあらわれでもある。
「引き続き調査をする。進展があれば、こちらにも連絡を入れて欲しい」
アークはそれだけを言って、軽く頭を下げ、部屋を出て行った。
残されたステッカ学園長は椅子に座り、組んだ手の上に額を載せた。
もし、今の報告が本当なら。
ステッカ学園長は黄色の鉱石がはまった通信機を持ち上げた。
意を決して、番号を押す。
しばらく着信の音楽が鳴っていたが、通信相手が出た。
「はいはい、こちら《旋風》です」
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