1-1 期待の都市へ
青い空の下、一本のなだらかな道。
左右を草原に挟まれた土の道を一台の荷車が翼が生えている馬に引かれて走っている。
馬の首元と、車輪には赤い月精石がはめ込まれている。走るスピードの補佐をしている。土煙を上げながら走る場所の行く手には、大きな門が見えてきた。
エリックは荷車の窓から、門を見上げた。
門の奥には磨かれた壁がそびえたっており、モンスターの侵入を拒んでいる。壁の上には、赤色の月精石を使用した大砲がいくつも設置されていた。
見るもの全てがエリックには新しく見えた。
モンスターから住人を守護する大きな門が、ギギギ、と軋んだ音を立てながら開いた。
馬に引かれた荷車は先ほどよりスピードを落とした。石で舗装された道を滑るように走っていく。
エリックは荷車の中から見える光景に目を輝かせた。
整然と並ぶ家々。活気の溢れる商店街。談笑する商人。日焼けを知らぬ美人な女たち。元気な子供が馬車の脇を走り抜けていく。
やがて、馬車は桜並木の中へと入っていった。向かう先には白く大きな建物が見える。
「もうすぐ白銀学園に到着だぞ」
馬の手綱を引いていたおじいさんがエリックに告げた。
エリックは顔を輝かせた。
足元に置いていた荷物を素早く持ちあげ、忘れ物がないかを慌ただしく確認する。
「そんな風に慌てる必要はないさ。どうせ、もうちょっとはかかる」
おじいさんが穏やかに微笑む。
「本当にありがとっ! 俺一人だったらどうなってたことか……助かった!」
「いやいいんだよ。たまたま通り道だったから拾ってやっただけだ。前の馬だったらとても助けてやれなかったんだがな。モンスターとの相子なんて正直怖かったんだがな、力があって助かってるわ」
おじいさんがニコニコと笑いながら馬の首を撫でた。強気な目を細め馬は気持ちよさそうにしている。エリックは驚きを隠せず、馬を凝視した。
「え、モンスターとの相子? それって大丈夫なの?」
「大丈夫さ。なんてったって銀遊士のお墨付きだしな」
おじいさんの言葉を聞いて、エリックは顔を輝かした。
「銀遊士の!? なら大丈夫ですね」
「変わり身、はえーな」
朗らかな笑い声が荷車を満たした。
やがて荷車がゆっくりと停止した。
「ほら、着いたぞ、気を付けて行けよ」
おじいさんにエリックは元気よくお礼を言って、馬車を飛び下りた。
「なぁ、お前さん本当に……いや、何でもねぇよ。気を付けていきな」
エリックは笑顔で荷車を見送ったのだった。
風が吹いて、桃色の花びらを運んでゆく。
エリックは柔らかな日差しと風に目を細め、それから、花びらが散ってくる方向を見つめた。
「すっげー!」
エリックは目を輝かせた。整頓された並木が広がっている。すべての木々は美しい桃色の花をつけており、風が吹く度にその花を散らしている。
ここは銀遊士を育てるための専門学校、白銀学園だ。
銀遊士育成に力を注ぎ、学生が必要なものを全て整えた都市。それが、白銀学園都市。買いたいものは直ぐに手に入り、特殊な訓練場がいくつも存在する。実習学習用にモンスターの巣である、ダンジョンもいくつか確保されている。
最新技術をいくつも取り扱っているという話も聞いたことがある。
エリックはこみ上げてくる笑みを噛み殺した。
そして、並木の下を走り出す。赤い癖のある髪が視界の隅で揺れた。
エリックの茶色の瞳は希望に溢れ、キラキラと輝いていた。
エリックが蹴り上げた空気が落ちてきた花びらをもう一度、空へと舞いあげたのだった。