3-2 迷宮入り
ぞろぞろとファミリーの仲間たちが姿を現す。木の上や木陰からエリックの方へと歩いてやってくる。
「何度も言ってるけど、罠を張るモンスターは出入り口に一番強烈な罠を張るんだよ。出口付近は気を付けないと」
アドルフォの注意にエリックは顔を俯けた。その注意も実は五度目だ。
苦笑したアドルフォはエリックの顔の泥を拭ってくれる。だが、グレイシャやカルロスの表情は厳しい。
エリック自身、呆れてしまいそうになるのだから、周りからすればもっとだろう。
「何度言ったら分かるのかしら? ミリィを見習いなさい。今回の成績は、罠の発動はなし、スピードも申し分ないわ。しかも、あんたと同じ重さの荷物を背負ってよ?」
グレイシャが詰るように言う。
そう言いたくなるのも最もだとエリックも思う。銀遊士になると意気込んできたは良いけれど、実際はそう上手くいかない。何度言われてもダンジョンを模した森を生還判定で抜けれたことがない。
自分に少しずつ自信がなくなっていく。ダンジョン攻略においても、チーム戦においても。
特に剣の腕は磨いてきたつもりだった。村で一番頑張ってきたつもりだが、未だにアドルフォに良いようにあしらわれてしまう。アドルフォはエリックの攻撃を見透かしたように何度も、地面へとねじ伏せていく。
学校での対人模擬戦も酷い結果で、散々だ。
もっとやれる。まだやれる。こんな自分は認められないと思っているのはエリックだけのようで、周りの冷たい目が痛い。
「もう一回、もう一回お願いします」
エリックの言葉にファミリーの先輩たちは顔を見合わせた。
「罠を張りなおすのにどれだけ時間かかると思ってんの?」
カルロスが真っ先に反対の声を上げる。眉はつり上がっている。嫌だと態度全体が物語っている。
グレイシャは何も言わないが、正直、困っているように見える。
やっぱり、迷惑をかけているだけなのだろうか。エリックは俯いた。
雨が髪を肩を、体を濡らしていく。静寂がエリックの心を貫いていく。
「いや、やろう。本人のやる気があるなら、何度だって。折れない心ってのは尊重してあげたい」
アドルフォの言葉にエリックは弾かれたように顔を上げる。アドルフォは優しい眼差しでエリックを見つめて微笑んでいる。茶色の髪も、犬耳もびしょ濡れなのに、まだ付き合ってくれるというのだ。
その気持ちが嬉しくてエリックは立ち上がろうと足に力を籠める。しかし、筋肉がつったようでふらついてしまう。
ミリィがサッと体を支えてくれた。
「少し休憩してからにしよう?」
ミリィが見上げてくる。黄緑色の瞳と目が合った。
「……そうだね。土砂降りだし、少し雨宿りしてからにしようか」
アドルフォが空を見上げながら言った。鉛色の雲からは絶え間なく大粒の雨が落ちてきて、地面を穿つ。まだまだ止む気配はない。
カルロスとグレイシャも異論はないらしい。
ミリィとエリック、アドルフォとグレイシャとカルロス、二つに分かれて、樹の下に潜り込む。
降り続く雨を見て、先ほどの訓練へと思いを馳せる。もっとうまい方法があったんじゃないだろうか。
出口が見えると心理的に安心してしまうのは問題だと思う。
「悔しいな」
エリックが呟いた言葉は雨音にかき消された。それがまた虚しさを倍増させた。
何をしてもミリィより劣ってしまう。
人間とラル族。種族が違うのを言い訳にはしたくない。何より、種族が違ったとしても女の子に負ける、というのは何だか悔しかった。