十五の夜(1)
十五の春。普通の日本人なら中学生だ。甘酸っぱい思い出の一つや二つは誰もが持っているだろう。もちろん弟にだって……。
五月だというのに融け残った残雪が積み上がっている運動場。それらは埃で汚れて醜いはずだった。
しかし、夕日が黒い残雪すらも赤く染めてしまった。それを眺めているのは一人だけだ。その眼は食い入るように誰もいない運動場を見ている。
そんな運動場が見える教室の一室に生徒が二人。
一人は運動場を眺めている男子生徒。背が平均より高くすらっとしている。そして顔立ちもすっきりしており、スポーツ刈りの髪形も相あまって爽やかな印象の少年だ。
すこし学生服を崩して着ている。その目はどこも見てはいなかったが、力強かった。
もう一人は、身長は平均。顔はお世辞にも美人とは言えない。何とか「可愛い」の部類に入る女子だ。
そんな彼女はセーラー服のスカートを流行に合わせて短くしていた。この女子は教室に入って来たばかりらしく男子生徒を見つけて彼に声をかけた。彼女は彼の振り返った顔を見て少し驚いた。
自分を呼び出した彼の存在に。彼に呼び出されるとは思ってもいなかったのだ。
彼はゆっくりと窓から顔を離し、彼女に向き直る。
教室には二人きり。赤い夕陽のみが唯一の光源。二人とも赤く染められている。
彼は彼女に対して思いの丈を打ち明けた。彼は多少の自信があった。
しかし結果は惨敗だった。彼女の望みは高かった。彼女は学年のスターだった。彼は最初から相手にはされていなかったのだ。
彼の精神はコテンパンにされた。
さらに、追い打ちをかけるようにクラスでは彼に関する噂が立ち。
最近、たるんでいると両親に叱られた。
この後、あなたならどうしますか?ふて寝をしますか、やけ食いですか、泣きますか、それとも友達に泣きつきますか?
弟はどれもしなかった。
弟は消えた。手紙も、電話も、もちろんメールもなし。五月の中旬に突然姿をくらましてしまった。