ムキになる弟と僕
今でこそ、ハンサムで私をも超える身長を獲得した弟だが、十年前は私の方が背が高かった。
小学校低学年の夏休みの時だった。
その当時、家族で母方の祖父と祖母の家に帰省していた。
そこで、いつものように祖父の犬を母と僕、そして弟で散歩する。
そして帰り道で弟と僕は、喧嘩をしていた。帰り道の方向が食い違ったのだ。気が付くとお互いムキになっていた。
「こっちだよ!」
顔を赤く染め、汗を顔に張り付けながら弟は力説する。その人差し指は右の道を指差している。
「ぎゃくだよ!」
僕も負けじと顔を赤くし、ムキになって言い返す。もちろん僕の指は左の道を指差している。
「……、まあ好きにしたら。」
母はどうでも良いとばかりに言い放った。
僕と弟は散々言い争った。結果、ジャンケンで帰り道を決めることになった。
「「じゃんけん、ぽん!」」
僕はじゃんけんに負けた。
「しらないからな!」
僕は捨て台詞を吐いた。母はこれらの行動に呆れていた。
それから、弟はずんずん右の道を突き進んでいった。しかし、全然家に辿りつかない。夕日の光はなりを潜めて夜の帳を降ろしてきた。
「なんでつかないの!」
弟は逆ギレをかました。
結局、帰りは遅くなった。弟は憮然としながら、なぜ帰り道が変わってしまったのかを悩んでいた。
何年かのちに、彼は自分が方向音痴だと自覚するようになった。弟は転校した小学校でも中学校でも必ず通学路で迷うという珍事を引き起こすからだ。
次回は弟が十五の夜に家出した時の話をしたいと思います。