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死ニ至ル呪イ~望郷の想い出~  作者: 那周 ノン
第十五章【禁忌】
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第七十四節 継承者

「――この伝承の里では、十五の年齢になると“成人の儀”を行い、成人扱いをされる。成人を迎えると、そこで初めて“喰神(くいがみ)の烙印”を継承するための継承権を得ることができる」


 ルシトは“魂の解放の儀”を執り行う夜が訪れるまでの間――、ビアンカにせがまれ、自身の知りうる限りの“喰神(くいがみ)の烙印”の話と、伝承の隠れ里の話。そして――、ハルの話をしてやっていた。

 そのルシトの語る話に、ビアンカは神妙な面持ちで耳を傾ける。


「でも、ハルは……、十六歳の時に“喰神(くいがみ)の烙印”を継承したって。前に言っていたわよ……?」


 ――『呪いを継承した俺は、継承した時の年齢――十六歳だった時と一切変わらずに生き続けている』


 それは、ハルが初めて自らの宿している呪い――、“喰神(くいがみ)の烙印”の話をビアンカに語った際に口にしていた言葉だった。

 ビアンカは、その時のハルの言葉を思い出し、首を傾げる。


「あいつは、先々代の“始祖”――、あいつの五世の祖が“喰神(くいがみ)の烙印”の継承の儀を行うと言い出した際に、父親といざこざがあったせいで継承の儀が遅れた。それで十六の年齢で継承したと、――人伝(ひとづて)ではあるけれど聞いたことがある」


「えっと……、ちょっと待って。『五世の祖』っていうのは……」


 聞き慣れない言葉にビアンカは、一度ルシトの言葉を止めさせた。


「高祖父の父親――、簡単に言えば“ひいひい爺さん”の一つ上の代のことだ」


「ルシトの使う言葉は……、頭が痛くなるくらい難しいわね……」


 ビアンカは嘆息(たんそく)し、何気なく本音を漏らしてしまう。

 ビアンカの発した言葉に、ルシトはムッとした表情を浮かべる。


「あんたが教えてほしいってしつこいから、僕は質問に答えてやっているだけなんだけど。そもそも、この程度の言葉も知らないようじゃ、――少し(がく)が足りないんじゃないのか?」


 ビアンカがうっかりと口にしてしまった本音に対し、ルシトは早口で嫌味を(まく)し立てる。

 ルシトからの嫌味の応酬に、ビアンカは「やっちゃった……」――と心中で思い、(こうべ)を垂れた。


(この嫌味が無ければ、凄く良い人だって思うのになあ……)


 今度こそは口に出さず、ビアンカは心の内で溜息を零す。


「――あんた。また失礼なことを考えていただろう?」


 だが――、ルシトは目敏くビアンカの考えを見抜き、彼女を睨みつけていた。


「き、気のせいよ……っ。――それより、話の腰を折っちゃってごめんなさい。続き……、聞かせて?」


 ルシトの様相にビアンカは慌てて(こうべ)を垂れていた頭を上げ、両掌(りょうてのひら)を合わせて懇願(こんがん)の仕草をする。

 ビアンカの取った仕草に、ルシトは「はぁ……」っと、仕方なさそうに溜息を吐き捨てた。


「――その五世の祖は、百余年ほどで“始祖”を代替わりさせている。そこで、ハルの奴とあいつの父親が……、どちらが“喰神(くいがみ)の烙印”を継承するかで揉めた」


「ハルが……、お父さんと揉めたんだ……」


 続きを促され、語りだしたルシトの話を聞き、ビアンカは意外そうに呟く。


 ビアンカが“リベリア解放軍”――、反王政派であったホムラたちに誘拐され、その奪還に訪れたハルが怒りから激情の感情を(まと)っていたのを目にはした。

 だが、ビアンカの知るハルは――、比較的温厚な性格で気さくな一面を持つ少年だった。


 そんなハルが、自身の父親と揉めていた――、という話は、どこかビアンカに想像しがたいものであった。


「あいつはあいつなりに“喰神(くいがみ)の烙印”を継承して――、“始祖”としてではなく……、何か()()()()()()()()()()があったらしいな。それで、(かたく)なに自分が“喰神(くいがみ)の烙印”の継承を受けると言って譲らなかったそうだ……」


 ――ああ、それが……、ハルを六百年以上の間、突き動かしていたことなんだ……。


 ビアンカはルシトの話を聞き、“喰神(くいがみ)の烙印”をハルから継承を受けた直後に、自身が疑問に思っていたことを思い返す。


 ハルを六百年以上もの永い時に渡り、彼の心を折らせずに立ち止まらせなかった理由。

 その理由が何であったのかはビアンカには分からなかったが――、ハルが“喰神(くいがみ)の烙印”の継承を受ける以前より、心に強く抱いていた想いだったことは察することができた。


「――どちらが“喰神(くいがみ)の烙印”の継承を受けるか。それで長く揉めている内に……、この里に疫病が持ち込まれた。その時に、あいつの父親は……、流行り病にかかって死んだ」


「え……」


「“喰神(くいがみ)の烙印”を継承する者は不老不死になるが――、その加護を受ける身の“眷属”は不老長寿なだけなんだ。だから――、怪我が元で死ぬこともあるし、そうやって病気にかかり死ぬこともある」


 ルシトの綴る話の内容に短く驚きの声を上げたビアンカの心中を()し、ルシトは補足をするように言の葉を続けていく。


「当時、『調停者(コンチリアトーレ)』をしていた奴が考えるに……。あれは“喰神(くいがみ)の烙印”自身が、あいつ――、ハルを次の継承者に選んだんじゃないかって見解だったな」


「そう……、なんだ……」


 ハルが“喰神(くいがみ)の烙印”を継承するに至った経由を聞き、思ってもいなかった事実にビアンカは驚異(きょうい)から小さく呟いた。


「そうして五世の祖から“喰神(くいがみ)の烙印”を継承したあいつは、十数年ほど“始祖”の役割を担い――、ある日、この里から姿を消した。その後の三百年ほどは消息不明になり……、“群島諸国大戦”で再び姿を現した」


「そこで、ルシトとハルは出会ったのね……」


 ルシトはビアンカの言葉に頷く。


「僕と姉のルシアは“群島諸国大戦”で『調停者(コンチリアトーレ)』として、その戦争への介入と――、同盟軍の軍主が宿していた呪いの監視をしていたんだが……」


 そこまで口にすると、ルシトは一度言葉を切った。

 そして――、まるで“群島諸国大戦”当時を思い出しているように、瞳を伏せがちにして視線を落とす。


「……まさか、あの戦争の最中に“呪い持ち”の中で、一番厄介とされている“喰神(くいがみ)の烙印”の持ち主が参入してくるとは思ってもみなかった。あの時は――、流石の僕らも驚いたよ」


 ルシトは酷く苦々しげな印象を受けさせる――、そんな表情を見せていた。


 ルシト自身も、彼の姉であるというルシアも――、『調停者(コンチリアトーレ)』の任を担ってから、“喰神(くいがみ)の烙印”の呪いについては、知識として把握している程度であった。


 ――死を司る呪い。自らの“糧”となる死を貪欲に求め、人々に不幸と死を撒き散らすために姿を現す死神。


 ルシトたちに知識として与えられていた、“喰神(くいがみ)の烙印”の性質と情報。

 それ故に――、初めて目にした “喰神(くいがみ)の烙印”に対して、『調停者(コンチリアトーレ)』である姉弟は、その呪いに脅威の念を抱いていたのだった。


「昔のハルは――、どんな感じだったの?」


 だがしかし、ルシトの内心の思いを察することなくビアンカは興味本位で、“群島諸国大戦”当時のハルについて、ルシトに問い掛けていた。


「あんたは……、随分とあいつのことを慕っていたみたいで、信じられない話かも知れないけれど――」


 ビアンカの問いに、ルシトは伏せていた視線を上げ――、再びビアンカに目を向けた。


「――当時のあいつは荒れていたな。気が短くて……、呪いの力を見せつけるように行使して。敵側にも、同盟軍の味方にさえも恐れられる存在だった」


「ハルが……っ?!」


 ルシトの発した言葉に、ビアンカは驚きの色をその顔に窺わせる。

 にわかに信じられない――。そんな面様をビアンカの表情は帯びていた。


「今思えば……、あれは自暴自棄になっていたんだと思うけどな。それを憂いた同盟軍の軍主は――、何とかハルと同盟軍の方々(ほうぼう)の仲を取り成そうとして躍起(やっき)になっていたのを、良く覚えているよ……」


 言いながら、ルシトは赤い瞳を細める。


(ああ……。ルシトはハルに嫌われていたって、最初に言っていたけど。――この人は……、ハルのことを良く見ていたんだな……)


 ルシトが瞳を細める仕草――。

 その仕草の中に、ルシトがハルのことを懐かしむ様子を見出(みいだ)し、ビアンカは微かに笑みを浮かべていた。


(六百年以上を生き続けて――、ハルは沢山の優しい人たちに出会って……)


 ――その最期の時に……、私を選んで一緒にいてくれた……。


 ビアンカは考え至った思いに――、感慨深さを抱くのだった。


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