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死ニ至ル呪イ~望郷の想い出~  作者: 那周 ノン
第一章【友達以上の親友として】
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第五節 剣術鍛錬

 ――『天国のお母様へ


 ビアンカは今日、十四歳になりました。


 今年もお父様が忙しいのにお仕事を抜け出して、お誕生日のお祝いをしてくれました。

 お家のみんなもお祝いをしてくれて、沢山ご馳走を作ってくれました。どのお料理もとっても美味しかった。


 そうそう。ハルもね、お誕生日のプレゼントだって、お花の髪飾りをくれたのよ。

 その時にハルは「何をあげればお前が喜ぶのか、悩むんだよな」って笑っていたけれど、一生懸命ハルが選んでくれたって思うだけで、凄く嬉しい気持ちになるのはなんでだろう?



 ハルがお家に来てから、この前四年目を迎えました。


 毎年、お母様に報告しているけどね。ハルが来てからお家にいる時間が寂しくなくなったのよ。お友達ってこんなに素敵なものだったのね。

 ハルは初めてできたお友達だから、ずっと仲良くしていきたいな。


 ハルはお友達だけど、時々お父さんみたいだったりお兄さんみたいだったり、不思議な感じがするのよね。


 この前も木に登って遊んでいたらハルに凄く怒られたのよ。その時はお父さんみたいで、心配屋さんだなって思ったわ。

 家庭教師の先生の宿題で分からないところがあった時は、やり方を教えてくれたわ。その時は物知りなお兄さんみたいって思った。


 あれ。なんだかハルの話ばかりになっちゃったね。



 また来年、今度は十五歳のお誕生日の時に、お母様にお手紙を書くね。

 その時はもっとハルとの素敵なお話、お母様に報告できると良いな。


 十四歳のビアンカより』――



 ビアンカは羽ペンを置き、羊皮紙(ようひし)の便箋にしたためた手紙を封筒に入れ、封蝋(ふうろう)を施す。


 受取人のいない手紙は、机の引き出しに入れてある箱の中へ。毎年書かれている手紙と共に静かにしまわれた――。



   ◇◇◇



 リベリア公国の将軍、ミハイル・ウェーバーの屋敷――。

 その中庭の一角で、木剣(ぼっけん)同士の叩き合う小気味の良い音が響く。


 中庭では、赤茶色の髪をした少年――ハルと、亜麻色の長い髪を一つに(くく)った少女――ビアンカが、互いに木製の剣を構えて鍛錬試合を行っていた。



 ハルがリベリア公国を訪れて、早四年の月日が経つ。


 ハルが国に来た当初は、まだ十歳だったビアンカも今年で十四歳を迎えた。背もいくらか伸び、愛らしかった容姿も徐々にだが、どこか大人びた雰囲気を持つようになった。


 反対にハルは、身体的に成長した様子が見られなかった。周りには『自分、成長期はもう止まっちゃったみたいなんですよ。あと童顔だから変わって見えないでしょう』――と、笑いながら卑下(ひげ)る。


 出会ったばかりの頃はハルが腰を落とし、屈んで話をしていたビアンカとの身長差は、いつの間にかハルが屈まずとも話ができるほど大差の無いものになっていた。それでも、ハルの方が幾分か年上なため、ビアンカが彼を少し見上げる程度となる身長差はあった。

 しかし、あと数年もしたら、確実にビアンカの身長はハルと同程度――。もしくはそれ以上になるだろう。

 そのことにハルは、少なからず焦燥感を覚えていたのだった。



「はあっ!!」


 ビアンカが大きな動きで、木剣(ぼっけん)袈裟(けさ)切る動きを見せる。


 ビアンカの大げさ気味な袈裟(けさ)切りを、ハルは木剣(ぼっけん)を斜めに構えて受け止め、その木剣(ぼっけん)に沿って受け流す。

 そして――、間髪入れずに踏み込んでいき、ビアンカに体当たりを食らわせた。


「わっ!!」


 予想外だったハルの反撃に、ビアンカが驚いた声を上げる。


 渾身を込めた一撃を受け流され隙だらけになったところに、ハルの体当たりを食らったビアンカの身体はバランスを崩し、仰向けの状態に芝生の上に倒れ込む。

 倒れたビアンカの首元に、ハルは木剣(ぼっけん)の切っ先を静かに向ける――。


「そこまで!」


 そこで剣術師範代の静止の声が掛かった。


「むー……」


 ビアンカは仰向けに寝転んだまま、悔しそうな面持ちで声を漏らす。


「へへ。悪いな、ビアンカ。これで俺の九勝無敗だ」


 ハルは悪戯げに笑みを浮かべ、倒れるビアンカの手を取って起き上がらせる。そして、ビアンカの背に着いた土埃を、ハルはその手で払ってやった。



 ハルはミハイルの取り計らいもあり、将来――リベリア公国の将軍であるミハイルの“盾持ち”となるため、剣術の師範代を屋敷に呼んでもらうという厚い処遇を受けるに至る。

 そんなハルの剣術訓練にビアンカが殊の外羨ましがり、半ば強引に参加する――という形で、ハルと共に剣術の鍛錬を受けていたのだった。


 ミハイルはビアンカが羨ましがることを()し当てており、『好きにやらせて良い』――と、許可を与えていた。

 そのため、この剣術師範代である顎髭を蓄えた中年の男性――ホムラは何も言わず、ビアンカが剣術鍛錬へ参加することを(こころよ)く引き受けていたのである。



「――ハル殿の先ほどの受け流し、見事な動きでした」


 ホムラは静かな声音で、今しがた行われた鍛錬試合の感想を述べた。


「反対にビアンカお嬢様の動きは、前にも指摘させていただいた通り大振りすぎますね」


 ホムラはビアンカに目を向けて言う。


「以前、棍術を習われていた時の癖が抜けていないのでしょう。剣術は棍術とは違い、もう少し身体に近い位置で武器を振るわないといけません」


 片や褒められ、満足げなハル――。

 片や駄目出しの言葉で諭され、不服そうなビアンカ――。


 対照的な表情をハルとビアンカは見せる。

 そのような二人の様子を目にして、ホムラは可笑しそうに微笑んでいた。


「今まで何度か鍛錬試合をしていただきましたが――、ハル殿はどうも目が良いようですね。以前、弓などを使われていましたか?」


 ホムラに問い掛けられた言葉に、ハルは驚いたような表情を浮かべる。


「……よく、分かりましたね。旅をしていた頃、俺――、弓を使っていました」


 以前に使っていた武器をピタリと言い当てられ、ハルは驚く。


 ハルは旅をしていた頃、弓の扱いを得意としていた。旅の合間に賊に襲われることも度々あり、その応戦の際――。また、食料となる獲物を狩る際に役立つためであった。


 ハルの返答にホムラは「ああ、やっぱり」――と、静かに呟いた。


「ウェーバー将軍の“盾持ち”をするのならば剣術の取得は必須ですが、扱い慣れた物の方が向いているかも知れませんね」


「俺も剣術、向いていませんか……?」


 ホムラの言葉に、ハルは眉を寄せる。


「いえ、そういうわけではありません。ただ、扱い慣れた武器を使った方が、いざとなった時に守るべき者を守ることができる可能性を持っている――、と。我が剣術流儀の心得の一つなのです」


(守るべき者を守ることができる可能性――、か……)


 ハルはホムラの言葉を感慨深げに聞き、心中で反復する。


「どのような武器も扱えるということは、その者の強みとなります。――これは私の助言の一つ、として心に止めておいてください」


 続けられるホムラの教え。それにハルは頷く。


「ビアンカお嬢様も剣術は剣術、棍術は棍術として分けて考え、どちらでも上手く立ち回れるようになさってください」


 未だに不貞腐れた面持ちを見せるビアンカに目を向け、ホムラは言う。

 ホムラの諭しの言葉に、ビアンカは「はーい」と、わかりましたよ――と。心の声が漏れている声音で返す。


 ホムラはそんなビアンカの態度に怒ることなく、苦笑いを浮かべた。


「それでは、今日の訓練はここまでにしましょう。お二人とも、次回まで鍛錬を怠らぬように」


 そう言い残し、ホムラは会釈をすると自身の荷物を手に取り、屋敷を後にしていった。


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