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死ニ至ル呪イ~望郷の想い出~  作者: 那周 ノン
第八章【新たな任務】
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第四十三節 処罰と新たな任務

 夜も明け日が昇りきり、辺りが完全に明るくなった頃――。

 ハルとビアンカは森の茂みの中を歩き、漸くハルが連れてきていた馬を待機させていた場所まで辿り着いていた。



「オルフェーヴル号、あなたがハルと一緒に来てくれたのね!」


 ビアンカは森で待機させていた馬を目にした瞬間に感嘆の声を上げ――、オルフェーヴル号と呼ばれた馬の鼻面を撫でてやっていた。

 ビアンカに優しく鼻面を撫でられたオルフェーヴル号も嬉しそうに、まるでビアンカに応えるように(いなな)きの声を上げる。


「なんだ。ビアンカの知っている馬なのか、そいつ?」


 仲良さげに戯れるような様相を見せるビアンカと、ハルの連れ出してきた馬――オルフェーヴル号のやり取りを見ていて、ハルは疑問の言葉を口にした。


「私が乗馬の練習用に乗せてもらっている子なのよ、この子」


 ハルの問いかけにビアンカが返してきた言葉に、ハルは思わず「え?」――と、声を漏らしてしまう。


「なあ、ビアンカ。こいつ、軍馬の修練馬だよな……?」


 “修練馬”――、それは将来的に軍馬となり、騎士たちが戦の際に乗るために訓練を受ける馬のことである。

 大抵は、戦場の凄惨さや轟音などを恐れないほど勇敢で気性の荒い性格の馬が多い――、というのが特徴の一つであった。


 そして、このオルフェーヴル号は、ハルも乗っていて感じてはいたが、他の修練馬たちに比べ――、かなりの気性の荒さを持ち、扱いづらさを覚えるほどであったのだ。


 その馬を『乗馬の練習用に乗せてもらっている』と口にしたビアンカに、ハルは驚いていた。


「うん、そうよ。それがどうかした?」


 ハルの驚きを余所に、ビアンカはシレッとした返事をしてくる。

 ビアンカは、気性の荒い性格の修練馬を使って乗馬の練習をする――、ということに何の疑問も持っていない様子であった。


(――確かに家庭教師の中で、乗馬を教えている先生がいたとは思ったけど……、まさか修練馬を使って乗馬の練習をしているとか、あり得ないだろ……)


 普通であれば貴族が戯れに行う乗馬の練習には、乗馬に適した気性が大人しく優しい性格の馬を使用することが殆どである。

 それを敢えて、恐れを知らず戦の際に敵陣に突き進むほどの勇ましい気性を持つ軍馬となる修練馬を使用し、ビアンカが乗馬の練習を行っているとは、ハルは思ってもみなかった。


 ビアンカの元に家庭教師が訪れている際は、ハルは常に席を外し自分の時間と称して自由に行動しているため――、今まで知らずにいた事実であった。


(また、知らないところで無茶苦茶やっているんだな。このお転婆お嬢様は……)


 久しぶりにビアンカが無謀なことをしているのを知り、ハルは呆れ混じりの溜息を零す。


(――だけど……、ビアンカの無茶ぶりは、今に始まったことじゃないな……)


 ハルは呆れつつも、心中でそのような結論に達する。


「――まあ、いい。ビアンカ。リベリア公国に帰ろう」


 ハルは未だにオルフェーヴル号と戯れるビアンカに、促しの言葉を掛けた。


「ウェーバー邸のみんなが――、お前のことを心配しているぞ」


「そうね。早くお家に帰らなくちゃ――」


 ハルの促しの言葉にビアンカは同意をし、オルフェーヴル号を撫でながら笑みを見せていた。



   ◇◇◇



 オルフェーヴル号にビアンカを乗せ、その手綱をハルが引く――という形で、二人はリベリア公国への帰路についていた。


 ビアンカを乗せたオルフェーヴル号は、ハルが驚くほど自分自身が乗ってきた時よりも大人しく言うことを聞き――、乗馬の練習を行う際に余程ビアンカと仲良くやっているのであろうことをハルに窺わせた。


(馬っていうのは乗り手を選ぶことがあるっていうけど――、案外本当なのかもな……)


 ビアンカとオルフェーヴル号の様子を目にしつつ、ハルは思うのだった。



「――ハル、前から馬が来ているわっ!」


 唐突に――、馬上にいたビアンカが大きく声を張り上げた。


「何……っ?!」


 ビアンカとオルフェーヴル号のことに気を取られていたハルは、一瞬反応が遅れる。

 ハルはすぐさま、背に担いでいた弓を手に取り応戦の構えを取った――。


 しかし――。


「あれ――、お父様だわ……」


 ビアンカはオルフェーヴル号に乗り、ハルより少し高い位置から辺りを見渡せる状態にあるため、対向してきている馬に乗る相手を見て小さく言葉を零した。


「え……っ?!」


 ビアンカの呟きを耳にしたハルは、自身の耳を疑った。

 だが、ビアンカは確かに、彼女の父親――ミハイルだと口にしていた。


 けれども、ハルは自分の指示の下でディーレをミハイルの元へ報告に出発させ、まだ一日半程度しか経っていないことに気が付く。

 ハルの予定では後半日ほどして、漸くディーレが西の砦に辿り着きミハイルに報告する――と、そのような手筈になっていたはずだと疑問に思う。


 ハルが疑問を思案している内に、対向から駆けてくる馬は徐々に近づいてくる。


 そして、馬に乗る相手がミハイルだと確認できる距離まで来ると、ハルは驚いた表情を浮かべた。


「――本当にミハイル将軍だ……」


「お父様……っ!!」


 ミハイルの姿を見とめたビアンカがオルフェーヴル号から飛び降り、ミハイルの元に駆けて行く。

 自らの元に走ってきたビアンカを目にしたミハイルも馬から降り、身を屈め――酷く安心した表情を浮かべ、ビアンカを抱きとめていた。


「ビアンカ……っ!! 無事で何よりだ……っ!!」


 ビアンカを抱きしめ、ミハイルは苦悶から――絞り出すような声で言う。


「ハルが助けに来てくれたの。だから、私は大丈夫よ」


 ミハイルからの抱擁(ほうよう)を受け、ビアンカは嬉々とした声音で報告する。


 ビアンカの言葉を聞きながら、ハルはオルフェーヴル号の手綱を引きつつミハイルの元に歩み寄って行っていた。


 ハルが近づいてきたことで、ミハイルはビアンカをその身から離して、今度はハルの元に向かって行く。


「……ミハイル将軍、どうして――」


「――実はな。“リベリア解放軍”を名乗る(やから)が不穏な動きを見せているという報告は私の耳にも入っていたのだ。そして――、動きを見せるならば、私が遠征でいない時を見計らうであろうと予測していた……」


 ハルが、何故ここまで早く戻って来られたのか――と、疑問に思っていることを口にしようとした瞬間、ミハイルはハルの言葉に重ねるように疑問の答えを口にしていた。


「それ故に――、西の砦に向かったと見せかけ、レオンたち一行だけを先に砦に向かわせた。そして私は……、途中の街で斥候(せっこう)からの報告が来るのを待ち、待機していたのだ」


「その街で……、斥候(せっこう)より先にディーレに出くわしたと……?」


 ハルの言葉にミハイルは静かに頷く。


 ハルの指示で、ディーレに新たな駿馬(しゅんめ)を西の砦へ向かう道中にある街に寄り、調達するよう仕向けたのが功を奏していた。

 ディーレは街でミハイルに出会うことができ、ホムラからの手紙――脅迫状を無事に渡すことができていたのだった。


「まさか“リベリア解放軍”の頭目となっているのが、ホムラ師範代だとは――、私も予想はしていなかった。流石に渡された手紙を目にした時は驚いたよ……」


「……俺の不注意で、ビアンカを危険に晒してしまいました」


 ハルはミハイルに対し、申し訳なさげに口にしていた。


「――そして、ミハイル将軍が戻る前に独断で行動を起こしました。申し訳ありません……」


 ハルは謝罪の言葉を言いながら、深く頭を下げる。


「どのような処罰も甘んじて受ける覚悟はできています。どうか……、自分の失態を罰してください……」


「そんな……っ! ハルは何も悪くないわ……っ!!」


 ハルのミハイルへの謝罪を聞き、ビアンカが驚愕したように声を荒げる。

 だが、そんなビアンカをミハイルは片手を軽く上げて制する。


「良いか、ビアンカ。このような時は――、上に立つ者の指示を待つ、ということが鉄則となっている。それ故、ハル君が単独で行動を起こしてしまったということは……、重大な職務違反となってしまうのだ……」


「でも――っ!!」


 ミハイルの諭しの言葉に、ビアンカは納得がいかない――と言いたげな戸惑いを見せる。


 それでも、ミハイルはビアンカの抗議の声を聞き入れず、頭を下げたままでいるハルに再びその目を向けた。


「ハル君。君への処罰を与えることとする――」


「はい……」


 ミハイルの静かな声で紡がれる言葉に、ハルは耳を傾ける。


 ――果たして、どのような処罰が下されるのか……。


 ハルは心の中で思う。

 ただの軽い処罰だけでは済まされないことは重々承知の上ではあったものの、改めて処罰を下されるとなると、ハルは心中穏やかではいられなかった。


「君には将来的に私の“盾持ち”――従騎士(エクスワイア)の任に就いてもらうつもりでいたが……、本日付で、その任を解任させてもらう」


「…………っ!!」


 ハルが当初、リベリア公国にミハイルによって連れて来られた理由であった、リベリア公国の将軍――ミハイルの盾持ちの任に将来的に就く。

 その任の解任。それが、ミハイルの口からハルへと言い渡された――。


(――やっぱり、そうなるよな……)


 ハルはミハイルに言い渡された処罰の言葉に、頭を下げつつ苦渋の表情を浮かべる。


 ミハイルの盾持ちになる任が解任されたとなれば、ハルはウェーバー邸へはいられなくなってしまう。

 それは、ハルがリベリア公国を出て行かなければいけない――、ということを意味していた。


「お父様……っ!! そんな罰をハルに与えないで……っ!!」


 ミハイルのハルへの達しの言葉にビアンカが申し立ての声を上げるのだが、ミハイルはそんなビアンカを再び制し、ハルに対して言葉を続ける。


「その代わり、君に新たな任務を与えたいと思う」


「……新たな任務、ですか?」


 ミハイルの言葉にハルは下げていた頭を上げ、ミハイルに目を向けた。

 ミハイルは自身を見据えるハルに頷き、彼を真っ直ぐに見つめ、改めて口を開く。


「――ハル君。君には……、ビアンカの正式な護衛役になってもらいたい」


「え……っ?!」


 ハルはミハイルの言う“新たな任務”の内容を聞き、驚愕の表情を見せる。

 驚きの表情を見せるハルに、ミハイルは微かに笑みを浮かべていた。


「君の采配力や行動力。そして――私の娘、ビアンカを守るために己を(かえり)みず戦える強さ。今回の一件で良くわかった」


 ハルは同じく驚いた表情を見せていたビアンカと顔を見合わせ、互いに安堵を窺わせる笑みを見せていた。


「ハル君。新たな任務、頼めるか……?」


「はいっ! 喜んでお引き受けさせて頂きます――っ!!」


 ハルは力強く返答を口にすると、再度ミハイルに頭を下げるのだった。


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