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死ニ至ル呪イ~望郷の想い出~  作者: 那周 ノン
第八章【新たな任務】
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第四十一節 悪夢の予兆①

 辺り一面に漂う、錆びた鉄屑を口に含んだような血の匂い――。


 焦げ臭い匂いをさせて煙を(くす)ぶらせているのは――リベリア王城。


 リベリア王城に掲げられていたリベリア公国旗は降ろされ、代わりに――黒地の布に赤い茨、そして白い二本の剣が描かれた旗がリベリア王城に掲げられていた。


(――どこかで……、見覚えのある旗。あれは“リベリア解放軍”の解放旗(かいほうき)……?)


 ハルは荒廃したリベリア公国の中央広場に一人佇み、リベリア王城の様子を目にしていた。

 そして見覚えのある――リベリア王城に掲げられている旗に疑問を持つ。


 黒地の布に赤い茨、そして白い二本の剣が描かれた旗――。

 あれは確か、自らを“リベリア解放軍”と名乗るホムラたち一行が、根城としていた坑道の洞穴に掲げていた解放旗(かいほうき)であったはず――と。


(“リベリア解放軍”の頭目だったホムラ師範代は死んだはず。それが何故……)


 ハルは現状を目にして、訳がわからなくなり混乱していた。

 頭の中の整理がつかないまま、ハルは辺りを一巡見渡す。


 リベリア公国の城下街。その彼方此方(あちこち)には、争いがあったことを指し示すように、多くのリベリア公国の騎士や兵士が倒れている姿が見受けられた。

 そのどの人物も、血溜まりの中に倒れ伏し――、事切れている亡骸であることをハルは察する。


 そうして、城下街の家々からは、火の手が上がっていた。

 焦げ臭い匂いを漂わせているのはリベリア王城だけでなく、城下街――、特に騎士の家系や貴族の家系の暮らす高級住宅街を中心に激しく燃え盛っていることにハルは気が付く。


「――ビアンカ……ッ!!」


 ハルは何故、自分自身がぼんやりとリベリア公国の中央広場に佇んでいたのかを疑問にも思わず、ビアンカの存在を思い出す。

 ビアンカを思い出した瞬間に、ハルはウェーバー邸のある高級住宅街の方面へと慌てて駆け出していた。


 リベリア公国内の通りには、かつて人間であった者たち――、リベリア公国の一般国民たちの亡骸も倒れていた。

 だがハルは、それらに全く意を介さず、ただひたすらに走っていく。



「――――っ!!」


 ハルは息を切らせ、漸く火の手が上がっている高級住宅街の一角に辿り着き、自分自身の目を疑った。

 高級住宅街はリベリア公国の城下街の何処よりも荒廃し、炎の上がる焦げ臭い匂いと――、血の匂いを漂わせていた。


 そして、馴染みのあるウェーバー邸も例外でなく――、他の屋敷と同様に火の手が上がり燃え盛っていたのだった。


「――嘘……だろ……っ!!」


 ハルは荒れ果てたウェーバー邸の惨状を目の当たりにして、信じられない――という思いを声音に含め、狼狽(ろうばい)する。


 ハルが目にしたウェーバー邸の中庭では、顔馴染みである屋敷に仕えている使用人たちが斬殺され――、血を流した状態で倒れ既に事切れていた。


 執事――ノーマン。

 メイド長――エマ。その下で働くメイド――アメル、エミリア、リスタたち。

 料理番の青年――ポーヴァルに、馬の世話係――ディーレ。


 そんな中、ハルは中庭を一巡し――、中庭の一角に倒れている亜麻色の髪の少女の姿を見つけた。

 その姿を見つけた瞬間、ハルは自分自身の身体から、血の気が引くような感覚を覚えずにはいられなかった。


「ビアンカッ!!?」


 ハルはすぐさま倒れている少女――ビアンカの元に駆け寄り、その身体を抱き上げる。


「――――っ!!」


 ハルは、抱き上げたビアンカの状態を目にして、息を飲んだ。


 ビアンカも、胸元に剣のような鋭利な刃物で刺された跡があり――、口元は吐き出した血液で汚れ、衣服には鮮血が沁み込んでいたのだ。

 そして抱き上げたビアンカの身体は既に冷たくなっていて、ピクリとも動くことはなかった。


「――そんな……。嘘、だろ……」


 ハルは、事切れている状態のビアンカを実目して、身体が震えた。


「くそ……っ!! なんで――っ!!」


 ハルは苦悶の表情を浮かべ、絞り出すような声を零す。


 ――ずっと守ってきたのに。駄目だったのか……っ!?


 ハルの身に宿る、身近な者たちを死に至らしめる呪い。その呪いが最もハルが大切に想っていた存在――ビアンカの魂を一番欲していることに、ハルは気が付いていた。

 それ故に、いつか訪れるかも知れないと感じていた残酷な運命からビアンカを守る――、そのためにハルは常にビアンカの傍らに寄り添い、彼女を見守っていた。


(――結局、俺のせいでビアンカを死なせてしまった……)


 ハルは大きな後悔や無念といった負の感情で胸中を支配される。


「――畜生っ!! 俺のせいで……っ!!」


 唐突に残酷な現実を目の前に突きつけられ、ハルは身体の震えが止まらなかった。


「うわあああぁぁ――っ!!!」


 ハルは、冷たくなったビアンカの亡骸を抱きかかえ、大きく叫ぶような声を上げた。



   ◇◇◇



「――――っ!!!」


 ハルは息が詰まるような感覚と共に、唐突に目を開いて意識を覚醒させた。


 辺りは森の中でもわかるほど薄っすらと明るくなってきており――、ハルは自身が寝ずに見張りをしているつもりであったものの、いつの間にかうたた寝をしてしまっていたことに気が付く。


(――夢、だったのか……?)


 ハルは夢の内容に混乱していた。その混乱を必死に頭の中で冷静にさせようとする。


(夢にしても……、あれは、そう遠くない内に訪れるかも知れない未来なはず……)


 ハルは荒くなった息を整えながら、考え至らせる。


 ハルが様々な思いを馳せらせていると、その額にハンカチが優しく当てがわれた。


 ハルは驚き、弾かれるようにハンカチを額に押し当ててきた相手に目を向けると――、心配そうな面持ちでハルを見つめるビアンカの翡翠色の瞳と目が合った。


「ビアンカ……」


 ビアンカの姿を目にした瞬間、ハルは大きな安堵感を覚えるのだった。


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