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死ニ至ル呪イ~望郷の想い出~  作者: 那周 ノン
第七章【死に至る呪い】
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第三十五節 真の目的

 “リベリア解放軍”――。

 それは、剣術師範代――ホムラを頭目として集まった、現状で苦しい生活を強いられているリベリア国民たちの解放を名目として、反王政活動を目的としてリベリア公国に反旗を(ひるがえ)す有志たちの集まった組織である。


 年若い新王妃に(うつつ)を抜かして骨抜きの状態となり、国政を(おろそ)かにし、リベリア国民を苦しめる結果を作っているリベリア国王を筆頭とし――、そのリベリア国王に付き従う騎士の家系や貴族の家系の排除。そして、最終的にはリベリア国王を王位から引きずり下ろすこと――。


 それがホムラたち――、“リベリア解放軍”の真の目的であった。



 かつてリベリア公国と友好関係にあった隣国――カーナ騎士皇国との間に広く立ち塞がる崖。

 本来であれば両国間での輸入物資などといった商業用の商品を運搬することを目的として、通路となる坑道が作られる予定であったその場所は、近年になって不穏な動きを見せてきていたカーナ騎士皇国の動向を察知したリベリア国王により急遽中止とされていた。


 そんな使われなくなった元坑道予定地であった最深部――、坑道の通路よりも広く掘られ(ひら)けている岩肌の剥き出しの洞穴。


 そこに“リベリア解放軍”と自らを名乗るホムラたちの手によって持ち込まれたのであろう――、大きめなテーブルや椅子などといった必要最低限の必需品が置かれていた。


 岩肌には“リベリア解放軍”を象徴するものだと思われる――、黒地の布に赤い茨、そして白い二本の剣がデザインされている解放旗(かいほうき)が飾られているのが印象的であった。



「――ビアンカお嬢様。そんなことばかりやっていると、歯を痛めますよ……」


 ホムラは置かれている椅子に深く腰を掛けて、計画書と思われる書類に静かに目を通していた。

 そんな中、ホムラは自らの目の届く位置。その地面に座り込んでいる少女――ビアンカに諭すように声を掛ける。


 ビアンカはホムラから掛けられた言葉に反応を示し、ホムラを睨みつけるように無言で一瞥(いちべつ)する。しかし、すぐにその瞳を――、自らの両手首を前出に拘束する縄へと向けた。

 そうして、今しがたホムラに注意されたばかりの行為――、自らの腕を縛る縄を噛み切ろうとして、それに歯を立て始める。


 諭しの言葉を掛けても言うことを聞こうとしないビアンカの様子を見て、ホムラは「やれやれ……」――と、呆れ気味に溜息を零す。


「本当に負けん気の強いお嬢様なことで。ウェーバー将軍の苦労も目に見えますね……」


 ホムラは顎に(たくわ)えている顎髭を(もてあそ)ぶようにしつつ、ビアンカに嫌味ともつかない言葉を投げかけ、嘲笑(ちょうしょう)する。


 不意に父親――、ミハイルの名前を出されたビアンカがホムラの言葉に反応をした。


「――お父様が来たら。あなた、ただじゃ済まないわよ……」


 ビアンカはホムラを睨みつけ、怒りを含む声音で呟く。

 ビアンカの口から出た言葉は、ミハイルが必ず助けに来てくれると――、確信から出る強い言葉だった。


 だが、ホムラはビアンカの発した言葉に、くつくつと――さも可笑しそうに笑う。


「ただじゃ済まないのはウェーバー将軍の方ですよ――、ビアンカお嬢様」


 ホムラは、濃い茶色をした瞳を細め、口の端を上げて微かに笑みを浮かべる。


「――あの方は一人娘の貴女を溺愛していますからね。きっと我らの要求を飲み、武器も持たず、鎧も脱いでこの地を訪れるでしょう……」


 ホムラは椅子から立ち上がり、ビアンカに歩み寄りながら言葉を続ける。


「――我々に殺されにね……」


 ビアンカの前に立ったホムラは、ビアンカを見下ろし、静かに恐ろしいことを口に出した。


 そんなホムラの言葉にビアンカの顔色が変わった。ビアンカは明らかに動揺を示し、青ざめる様子を見せていた。


「そんなことをしたら許さない――っ!!!」


 ビアンカは青ざめた顔色を見せつつも、気丈にも声を大きく荒げる。


 そんなビアンカにホムラは更に可笑しそうに笑い始めるのだった。


「ウェーバー将軍を(ほふ)った後は、貴女もミハイル将軍の元へ送ってさしあげるのでご安心ください」


 ホムラは言っている言葉とは真逆な、優しげな笑みをビアンカに見せていた。


「――父君と一緒に死ねるのならば寂しくはないでしょう?」


 笑みを浮かべながら言うホムラを、ビアンカは怒りを含んだ鋭い眼差しで――、ただ睨みつけるしかできなかった。


(――許せない。なんでホムラ師範代はこんなことをするの……?!)


 ビアンカは怒りの感情を感じながら、そう心の中で一つの疑問を抱く。


 ビアンカ自身、気が付いてはいなかったが――、彼女の中にはミハイルや自分自身に向けられるであろう死に対しての恐怖心が湧いてこなかった。

 その代わりにホムラに対して、強い怒りの感情が胸中に渦巻いていたのだった。


「……そもそも――、なんであなたはこんなことをするの?」


 ビアンカは怒りの感情を抑えつつ、疑問に感じたことをホムラに問う。


 ビアンカは、何故ホムラが自身を誘拐して、ミハイルを亡き者にしようと計画していたのかが理解できていなかった。


「……貴女は、本当に大事に育てられた箱入りのお嬢様なのですね」


 ビアンカの問いかけに、ホムラは意外そうな表情を見せる。


「まさか――、今のリベリア公国内がどうなっているかご存知ない、とは仰らないですよね?」


「――新しいリベリア王妃陛下が(とつ)いできてから、国中が混乱していることくらい知っているわ……」


 ホムラの嫌味混じりの言葉にビアンカは返す。


「だけど――、それがお父様と何の関係があるっていうの?」


 ビアンカでさえ、ウェーバー邸に仕える使用人たちの会話内容から、現状のリベリア公国の不穏な状況は知っている。

 だが、その今のリベリア公国の状況とビアンカの父親――ミハイルと何の関係があるのかまで、ビアンカは図りかねずにいたのだった。


「リベリア国王に長年仕えていた大臣が、ついこの間――急遽解任されたことは知っていますね……?」


 ホムラの静かな声音の問いに、ビアンカはホムラに鋭い眼差しを向けたまま無言で頷く。


 リベリア国王が新王妃に夢中になり、国政を(おろそ)かにしている。そのことに対し、厳しく言及をしていた大臣――。

 その大臣が突如解任されるという騒ぎがあったことは、リベリア公国内でも話題になっていた。


「大臣が解任された今のリベリア公国ではウェーバー将軍が唯一――、国王に言及ができる強い立場に立つ存在となった。だが、そのウェーバー将軍さえも、リベリア国王は邪魔者扱いをして遠征に出し、追いやってしまった……」


 ホムラの言葉に、ビアンカは怪訝(いぶかし)げに眉を寄せた。


 まさかミハイルの遠征地への出奔(しゅっぽん)の理由がそのような理由からだったと、ビアンカは知らなかった。

 ビアンカはミハイルの遠征が、いつものような国境付近にある砦の視察や調査、そしてそこに詰めている騎士や兵士へのねぎらいの意味を兼ねたものだと思っていたのである。


 ビアンカの表情の変化を察したホムラは、更に言葉を続けていく。


「――果たして、そのような所業を行う者が、国の上に立つ立場にいて良いと思いますか?」


 まるで諭すように紡がれるホムラの言葉。


(――確かに、ホムラ師範代の言うことが正しいというなら、リベリア国王陛下の行っていることはおかしい。でも……)


 ホムラの言葉を聞く内に、ビアンカの内心にも一つの心情の変化と――、疑問が(うごめ)き始める。


「今のリベリア公国は腐っているも同然。ならば――改革を起こさなければなりません」


 ホムラはなおも、まるで演説でも行うかのように言葉を続けていく。


「そのために、我々は腐った国王に仕える国王派である者たちを始末しなければならない。腐ったものは……、もう元には戻りませんからね――」


 ホムラは自分自身の行いが正義である――と、信じて疑わない様子で声を高らかに上げていた。

 そうしたホムラの言葉を、ビアンカは唖然として聞いていることしかできずにいる。


「……子供には難しい話、でしたかねえ?」


 唖然とした様子を見せるビアンカを目にして、ホムラは彼女が話を理解できていないと思ったのであろう。ビアンカに対して、ホムラは嫌味を含んだ笑いを零す。


(――それで何故、罪のない人たちまで殺さなければならないの……?)


 ビアンカはホムラの言葉を理解できていないのではなく、疑問を感じていたのだった。


 リベリア国王の今の状態が、ホムラの言う『腐っている』というものだとしても――、何故それに対して罪のない国王派の人間まで殺されなければならないのかが、ビアンカにはわからなかった。


 ――それは、ただの私怨ではないの……?


 ビアンカはホムラの考えを聞き、そう思う。


「我々、“リベリア解放軍”はそのために反旗を(ひるがえ)すのです!!」


 ビアンカの思考を無視したまま、ホムラは更に声を荒げる。


「全ては……、正義のために――っ!!!」


 ホムラは力強く断言の言葉を口にするのだった。


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