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死ニ至ル呪イ~望郷の想い出~  作者: 那周 ノン
第六章【昂奮】
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第三十二節 強襲

「――男が六人、か……。ホムラ師範代も含めると七人、だな……」


 ハルは静かに確信を得た声音で小さく呟く。


 その坑道の入り口に見張りとして立つ男たちは、二時間(ごと)に二人ずつ交代していることにハルは気が付いた。

 ハルが見張りの様子を窺い始め――、六時間後に、一番始めに目にした男たちが再び姿を現したからである。



 ハルは見張り役の男たちが交代に至る順番を確認している間、その場から殆ど動くことなく、坑道の入り口の様子を窺っていた。


 普通の人間ならば、そのような真似は決してできないであろう。

 しかし、ハルは自分自身の強い精神力と――、ハルが身に宿す人を死に至らしめる呪いによる不老不死の力により、体力の衰えを感じにくい。その不老不死という身体故に、本来であれば、ハルは寝食に関しても身体の活動に必要最低限な摂取だけで済む体質なのである。


 その体質故に、六時間にも渡る長い時間の見張り――、などという行動を可能にしていたのだった。



(――次の見張りが交代する時間を狙うか……)


 ハルは心中で静かに計画を立てる。


 ――まだ辺りは、微かにだが夕日が射し込み、明るさを保っていた。

 だが、次の見張り役の男たちが交代する頃には完全に日が落ち、辺りは暗くなるであろう。


(見張り役が交代するために次の見張り役になる二人が出てきたところで強襲をかけよう……)


 ハルは、見張り役たちが交代する時――、男たちが四人揃った瞬間に強襲をかけようと決意する。


 四人もの男たちを一度に強襲しようとする――、そんな無謀とも思える作戦ではある。

 しかしながら、ハルはその強襲が成功すると信じて揺らがない意思を、その赤茶色の瞳に力強く宿していた。



 静かに。そして刻一刻と辺りは薄暗さを増していった――。



   ◇◇◇



 日が完全に落ちる少し前――、見張りに立っていた男たちは坑道の入り口に松明を立て、火を(とも)していた。

 炎による(あか)りに照らされ、坑道の入り口の様子がハルの潜む位置からも良く見えるようになる。



 ――あと数分もしたら次の見張り役が出てくるな……。


 ハルは森の茂みに身を潜めたまま、黒い外套(がいとう)のフードを目深(まぶか)に被る。


 そうして、背に担いでいた弓を手に取り、腰の矢筒から矢を二本取り出した。

 取り出した矢の一本を弓につがえ、弓の弦を引き――、強襲の時を待ち構える。

 もう一本取り出した矢は口に咥え、即座に次の矢を弓につがえて放てるように準備をしていた。


 ハルのそんな行動――、森の木々の気配に自分自身の気配を潜ませる“木化け”の技術を成しながら行っている所業に、見張りに立つ男たちが気付く様子は微塵もなかった。


「おう、交代の時間だぞ」


 息を潜めていたハルの耳にそんな声が届いた。

 その声とほぼ同時に男が二人――、坑道の入り口の方から姿を現したのだった。


「おお、漸く交代の時間かあ。腹が減って仕方なかったぜ」


 今まで見張り役として坑道の入り口に立っていた男の一人が、漸く訪れた交代の時間に嬉々とした様子で話していた。


(――俺も、漸く交代の時間かって思ったよ……)


 ハルは、男たちのやり取りに耳を(そばだ)てながら、心中で呟く。



 ホムラに付き従っているのであろう男が四人――、坑道の入り口前に揃った。


 ――待ち構えていた時間だ……。


 ハルがそれを見とめた刹那、四人の男たちの一人に標的を絞り、ハルは酷く冷たい眼差しを見せ――、引き絞っていた弓の弦から、つがえてた矢を解き放った。


「が――っ!!!」


 男の一人が一瞬呻き声を上げたかと思うと、急にその場に倒れ込んだ。

 倒れた男の周りの地面が、あっという間に男の身体から流れ出した鮮血で汚れていく。


 ハルの狙いすまし放った矢は正確に男の左胸――、心臓の部分を貫いていたのだ。


「――なっ!? なんだ……っ?!!」


 突然の出来事に、他の男たちが狼狽(ろうばい)をし始める。


 男たちが狼狽(うろた)えている間に、ハルは口に咥えていた矢を素早く手に取り、再び弓にその矢をつがえて弦をいっぱいに引き絞り――、次の一撃を即座に放っていた。


「――――っ!!!」


 ハルが次に放った矢は、ハルから見て横を向く状態になっていた男の首筋を射()く。

 ハルは、人間の首の両脇に太い血管が通っていることを知り、敢えてその部分を狙っていた。


 急に首を射()かれた男は声を上げようとするが、声の代わりに溢れ出すのは血を含んだ(あぶく)だけで、射()かれた首と喉の部分を掻きむしるような動作を見せつつ倒れ込む。そして失血からビクビクと痙攣をし始め、静かになっていった。


「――くっそ。誰だっ!!!」


 仲間であった二人の男が強襲され、殺められた様子を見せつけられた残った男二人は、狼狽(ろうばい)している様子を見せつつも腰に(たずさ)えていた剣を鞘から引き抜き――、矢が飛んできたと思われる方向へ走ってくる。


 ハルの潜んでいた方へ向かい走ってくる男たちを目にし、ハルはその場から駆け出していた。


 ハルは逃げるため――ではなく、手でワザと茂みの草木をガサガサと鳴らしながら、男たちに自分自身の居場所を知らせるようにして走る。


「そっちか! 追うぞっ!!」


「あ、ああ……っ!!」


 ハルの計画によって自分たちが誘い出されていることに気付かない二人の男が、抜身の剣を手にして草木の音がする方向――、ハルが駆け抜けて行く方へと向かって来る。


 ハルは夜闇に紛れる黒い外套(がいとう)を身に(まと)っているため、松明の照らす(あか)りから徐々に離れていく男たちの目には、ハルの姿は良く見えていなかった。

 そのため、ハルの手によって鳴らされている草木の音だけを頼りにして、ハルの後ろを追いかけてきている状態になっていた。


 そんな男たちを傍目(はため)に確認しつつ、ハルは再び腰に(たずさ)えている矢筒から一本の矢を取り出す。


 ハルは走りながら弓に矢をつがえる。弓の弦を再度引き絞り、後ろに向かって身を(ひるがえ)し、男たちの方を振り向いた瞬間――、追って来ていた男の左胸を狙って矢を放ち、いとも簡単に射()いていた。


 不意打ちに心臓を射()かれた男は呻き声を上げる暇もなく、駆けていた勢いのまま滑るように倒れ込んでいく。


「な――っ?!!」


 唐突に倒れた仲間だった男の姿を目にした最後の一人――、その男は恐々とした表情を瞬時に見せた。持っていた剣を取り落とすほど身体が震えており、完全に戦意を喪失した様を窺わせる。


「ひ……っ、ひいいぃぃ!!!!」


 戦意を失った男は突如悲鳴を大きく上げると、背中を向けてその場から駆け出した。


 だが、ハルは無言のまま静かに、矢筒から矢を取り出して弓につがえ、逃げ出した男にも容赦なく矢を放っていた――。


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