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死ニ至ル呪イ~望郷の想い出~  作者: 那周 ノン
第五章【不測の事態】
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第二十八節 畏怖を纏う少年

 ハルの報告によりビアンカが誘拐されたことを知らされたウェーバー邸内、大きなテーブルの置かれている広い食堂(ダイニングルーム)はざわついた雰囲気に包まれていた。


「――まさか、ホムラ様がこのようなことをされるとは……」


 ハルに手渡されたホムラからの脅迫状を目にして、長年ウェーバー邸に仕えている初老の執事――ノーマンは、青ざめた表情を見せ、信じられないといった声音で言葉を零す。


「すみません。俺がもっと注意をしていれば……」


「いいえ、ハル様のせいではありませんよ。これは――、誰にも予測できない事態でした……」


 悔しげに謝罪の言葉を口にするハルに、ノーマンは諭すように返す。



 まさに今の事態はウェーバー邸に仕えている者の、誰にも予測ができなかった事態であった。


 まさかウェーバー家の当主であるミハイルの任で、ハルとビアンカの二人に剣術の鍛錬を任されていた剣術師範代のホムラが、このような強行に出るとは。ウェーバー邸に仕えている者たちの誰にも予想ができなかった。


 それ故に、ハルに対して「どうしてくれるんだ」と、責任を追及する言葉を発する者は誰一人としていなかった。



「とにかく、急いでミハイル様にお知らせしないと……っ!!」


 メイド長――エマが焦りを窺わせる声音で声を荒げた。


「ですが――、ミハイル様の向かわれた遠方の西の砦までは一週間ほどはかかります。その間にビアンカお嬢様に何かあったら……」


「そうなる前に早く動かないと――、取り返しのつかないことになりますよっ!!」


 ノーマンが煮え切らない返答をすると、更にエマの声が大きく上がった。


「そうは言いましても……」


 エマに責められるように声を荒げられているノーマンは、困り果てたように返答の言葉を失っていた。


「だけれど……、誰がミハイル様の元にご報告に行くのですか?」


 ノーマンとエマが言い争うようにやり取りをする中、メイド――アメルがそれを止めに入るようにしつつ、疑問の言葉を口にする。


「それは――、誰が適任なのでしょうか……?」


 その場にいたメイドの一人――エミリアも疑問を口にする。


 現状のウェーバー家の当主――ミハイルが不在の中では、一番の指示司令塔となるべき存在であるはずの執事であるノーマンは、立て続けに問い詰められる方々(ほうぼう)からの質問に額に手を当て、(こうべ)を落としてしまう。


「ミハイル様不在の際、一任の立場を与えられているのは貴方なのですよ、ノーマンッ!!」


 そんなノーマンに対して、エマは更に怒りに近い声を荒げていた。


 一体どうするべきだ――と、ウェーバー邸に仕える者たちが焦燥に駆られ、喧々諤々(けんけんがくかく)とした様子で言い争いを始めてしまっていた。


 確かにウェーバー邸に仕える立場にいる者たちにしてみれば、ウェーバー邸の令嬢であるビアンカが誘拐されたとなれば、それは大変な責任問題である。

 その責任感と焦り、そうしてミハイルに対しての申し訳なさが先立ってしまい、彼らが冷静な判断に及びつかなくなっていることを、ハルは場の雰囲気の中で感じていた。


 喧噪にも近い言い争いの様子にハルは歯噛みをし、自身の両手を強く握りしめる。



 ――ドンッ!!!


 突如として、広い食堂(ダイニングルーム)のテーブルを勢いよく叩く大きな音が室内に響き渡った。

 その大きな音に言い争っていた面々が驚きから身を(すく)ませて、音の出所に一斉に目を向ける。


 大きな音を立て、テーブルを勢い良く拳で叩きつけたのは――、頭を伏せた姿勢を取ったハルであった。


 その場に集まっている一同に一斉に目を向けられたハルは、一呼吸置いた後にゆっくりとした動きで(こうべ)を垂れていた頭を上げる。

 頭を上げたハルの眼差しを目にして、一同は瞬時に恐怖に似た感情を覚えていた。


 ハルは酷く冷え切った眼差しで、言い争いをしていたウェーバー邸に仕えている使用人の面々を見据えていた。


 ハルがウェーバー邸に訪れてからのこの四年間の月日の中で、ハルと馴染みのある一同が初めて目にする眼差しで――、どこか畏怖(いふ)に似た感覚を一同に抱かせていた。


 だが、そんな畏怖(いふ)感に(おのの)いている一同の様子を意に介さず、ハルは再度一息吐き出した。


「――ノーマンさん。この屋敷の中で一番馬の扱いが上手くて、足が速いのは誰ですか……?」


 ハルは至極静かな声音でノーマンに目を向け、問いかける。


「え――?」


 ハルの(まと)う雰囲気と、唐突な質問にノーマンは怯み、即答できなかった。

 そんなノーマンの様子を、ハルはややイラついた雰囲気で見つめる。


「それなら――、馬の世話係のディーレが馬の扱いも上手いし、確か足も速かったと思います……」


 即答できずにいたノーマンに代わり、メイド――リスタが恐々と控えめにハルの質問に返答する。

 その返答にハルは小さく頷いた。


「そうしたら、ディーレをここに呼んで来てください」


「わ、わかりましたっ!!」


 ハルの言葉にリスタは焦りを滲ませ、慌てるようにして馬屋へ向かって行く。


「ノーマンさんは代わりに、この辺り一帯の地図と、何か書く物を準備してもらえますか?」


「は、はいっ!!」


 気迫を帯びたハルの指示を受けたノーマンとリスタは、足早にハルに命じられた任に各々移っていった。


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