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死ニ至ル呪イ~望郷の想い出~  作者: 那周 ノン
第四章【不穏の気配】
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第二十一節 謁見

 ビアンカはウェーバー邸の広間(サルーン)に置かれた椅子に腰掛け、やや緊張した面持ちで溜息を吐き出した。


「いやあ。“馬子にも衣裳”ってやつだな」


 ハルは緊張した様子のビアンカのその格好を見て、おどけたように軽口を口にする。


「何よ。似合わないって言いたいの?」


 ハルの軽口にビアンカは頬を膨らませた。


「あはは、ウソウソ。怒んなって。緊張しているみたいだからさ。ちょっと和ませてみようかなって思ってな」


「もー……」


 ビアンカは普段の動きやすさを重視した格好とは違い、今は足首まで隠れるフルレングスのドレスを身に(まと)っていた。


 オフホワイトの色をしたドレスには、そのドレスの布地より少し色の濃い刺繍糸で、見事な刺繍の装飾がなされている特注の物であった。

 ドレスの中にはパニエを着込んでいるため、スカートの部分はふんわりとした柔らかな印象を見る者に与えていた。


 そうして、ドレスの上――肩から掛けるように毛皮のショールをビアンカは羽織っている。


 三つ編みに編み込まれ頭上で結い上げられた亜麻色の髪には、以前にハルが贈った花の髪飾りが挿し込まれ光っていた。


 化粧も少女らしい薄化粧をメイドたちにしてもらい、その唇に引かれる淡い桃色のルージュと同系色の頬紅が、ビアンカをより一層可愛らしく見せている。


 その様相は、ビアンカを普段の活発な天真爛漫な少女とは全くの別人と言っていいほど、美しく彩っていた。


「似合っているよ、ビアンカ。凄く――綺麗だ」


 ハルは微かに笑みを浮かべて、本心から何気ない一言を零した。


 何気ないハルの一言にビアンカは一瞬キョトンとした顔をしていたが、すぐに何とも言えない複雑そうな表情を見せて、その頬を赤く染める。


 そんなビアンカの様子をハルは微笑ましげに見つめるのだった。



 ビアンカが普段着慣れないドレスを身に(まと)う理由――。

 それは――、突如決まったリベリア公国の国王との謁見のためであった。


 リベリア公国の将軍であるミハイルは、リベリア国王から「ビアンカに会ってみたい」という提案を受けていた。


 その提案という仰せ付けられた内容の意図が読めずにいたミハイルであったが、リベリア公国に仕える立場にいるミハイルにとって、リベリア国王からの言いつけとなれば絶対の命令である。

 それ故に正式な謁見の日取りを決め、ビアンカをリベリア国王に引き合わせる予定を立てていたのだった。


 そして、その決まっていた日取りが今日であり――、ビアンカを(いた)く緊張させる結果になっていた。



「ビアンカお嬢様。ミハイル様がお迎えにあがりました」


 広間(サルーン)でハルとやり取りをしていたビアンカの元に、初老の執事――ノーマンがやって来て声をかける。


「はーい、今行くわ。――それじゃ、行ってくるね。ハル」


「おう。いってらっしゃい」


 ビアンカはドレスの衣擦れ音をさせて椅子から立ち上がる。


「土産話、期待しているからな」


「うん。お城のお話、聞かせるからね」


 ハルはビアンカの手を取って話をしつつ、ミハイルの待つウェーバー邸の外――、門の外に停められた馬車へとエスコートをするのだった。


 そんなハルとビアンカの様子を、外で待つミハイルは微笑ましそうに見つめていた。



   ◇◇◇



 ――リベリア王城の謁見の間。


 その謁見の間は華美な装飾はなされず、国王の威厳を保つ必要最低限な絢爛豪華(けんらんごうか)さを持つ。

 おとぎ話や絵本の中の物語に表されるような派手さのない、思いの外に簡素に近い雰囲気だと。謁見の間に通されたビアンカは感じていた。


 リベリア公国の国王は、温和で優しい気質の良い国王としてリベリア国民たちに支持されている。

 その支持される理由の一つとして、“必要以上な贅を極めない”という一面もあるのだろうとビアンカは思う。



 謁見の間の二つの玉座には、初老に近い風貌の――リベリア国王とその王妃の姿があった。


「お初にお目にかかります。リベリア国王陛下、リベリア王妃陛下……」


 ミハイルに付き添われたビアンカは、リベリア国王とリベリア王妃に、ドレスのスカートに手を添えて深々と会釈をする。


「本日は謁見の機会をお与え下さり光栄に思い、大変感謝致します。ミハイル・ウェーバーの娘――ビアンカと申します」


 初めて目にするリベリア国王とリベリア王妃に向かい、やや緊張の面持ちで貴族の令嬢として相応しい自己紹介を行った。


 そんなビアンカの姿を目にして、リベリア国王は「ほう……」と感心したような声を漏らす。


「あらあら。可愛らしいお嬢さんだこと」


 リベリア王妃も笑みを見せ、ビアンカを褒める言葉を口にする。

 ビアンカはリベリア王妃の言葉に照れたような笑みを見せ、再度会釈をした。


「ミハイルよ。ビアンカ嬢は……、今年14歳を迎えたばかりであったか?」


「はい。あと半年ほどで15歳となりますが……」


「ふむ。そうか……」


 リベリア国王はミハイルの返答を聞き、暫し考え込む様子を見せた。

 一巡何かを考え、リベリア国王は姿勢よく佇むビアンカの容姿を上から下まで――、品定めをするように目を向ける。


「奥方のカタリナに似て、可愛らしい娘を持てて幸せ者だな。お主も……」


 リベリア国王はぽつりと一言、言葉を零した。


「お褒め頂き恐縮でございます」


 リベリア国王からの言葉に、ミハイルは頭を下げ返礼を口にする。


「ミハイル。お主に一つ――頼みがある。聞いてくれるか?」


「はい……?」


 突然のリベリア国王の「頼み」と言う言葉に、ミハイルは疑問を含んだ返事をした。


「ビアンカ嬢にはせっかく来てもらい申し訳ないが――、少々父君をお借りするぞ。控え室へ案内させる故、そちらで待っていてもらおうか」


 リベリア国王の申し出に、ビアンカは一瞬呆気に取られたような表情を見せた。

 ビアンカのそれは、「もう終わりなの?」と物言いたげな表情であり、その面持ちのままミハイルの方に目を向ける。


 ミハイルは自らの方に目を向けたビアンカに頷き、退室を促した。


「……はい、かしこまりました。失礼させていただきます」


 ミハイルの無言の返答を目にしたビアンカは、リベリア国王とリベリア王妃へ再度深く会釈をすると、(きびす)を返し、謁見の間の扉へと向かって歩いて行く。


 リベリア国王の言うミハイルへの頼み事は、ビアンカには聞かれたくないものなのであろう。

 聡い一面のあるビアンカは、その場の雰囲気でそのことを察していた。


(いったい――、お父様とリベリア国王陛下は何の話をするんだろう……)


 ビアンカは考えるのだが、その答えにビアンカは行きつかなかった。


 謁見の間の大きな扉が、扉の両脇に控えていた甲冑を着込んだ騎士に開け放たれ、ビアンカは謁見の間を後にするのだった。



 ビアンカが謁見の間を後にしたことを見止めたリベリア国王は、玉座に深く座り直し深く溜息を零す。


「済まぬな。自慢の娘を見させてほしいとワシの我儘を聞いてもらい……」


「いいえ。とんでもございません」


 リベリア国王からの謝罪の言葉に、ミハイルはかぶりを振る。


「してな――、ミハイル。お主への頼みというのが……」


 至極言いにくそうな様子を見せ、リベリア国王は言葉を紡ぐ。

 ミハイルはリベリア国王の言葉を一言も聞き逃さぬように、それに耳を傾けていた。


「お主の娘――ビアンカを、カーナ騎士皇国に輿入(こしい)れさせたいと思うのだ」


「は……?」


 リベリア国王から出た言葉の意味に、ミハイルは耳を疑い唖然とし、驚きの表情を見せるのだった。


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