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死ニ至ル呪イ~望郷の想い出~  作者: 那周 ノン
第三章【死を招く者】
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第十七節 その身に宿る呪い

「俺は――、人の魂を喰らって生き永らえている存在なんだよ」


 ハルの突然打ち明けた言葉に、ビアンカは更に不思議そうな表情を見せる。

 それはハルが何を言っているのか、全く理解できないと言いたげな表情だった。


「ずっと前に言ったよな。俺が――、出身地の里を出てきた話」


 四年前――、ハルとビアンカが初めて出会った日。

 ハルはビアンカに出身地の話を聞かれていた。その際は、自分自身の出自の話を必要以上にしてしまうことが不味いことだと感じていたハルは、ビアンカに必要最低限な話しか語らなかった。


「俺の暮らしていた里は、森の中で人目に触れないように隠されて存在していた里だった。隠されていた理由は――、俺がこの身に宿す呪いの力を人目から隠すためだったんだ」


 ハルは静かな声音で語りだす。ビアンカは黙って、その話に耳を傾けていた。


「この呪いは、今は殆ど滅びてしまったと言われる古の魔族の恨みを受けた一族に伝わる呪いで……、その呪いを継承した俺は、継承した時の年齢――十六歳だった時と一切変わらずに生き続けている。呪いを継承した者は、その時点で不老不死の力を手に入れる」


「不老不死……?」


 ビアンカがぽつりと零した言葉に、ハルは頷く。


「俺は既に――六百年以上の長い時を生き永らえている」


 ハルが成長期のはずなのに成長した様子を見せない事由――、それは滅びゆく一族として今は殆ど姿を見ることがなくなってしまった魔族の呪いのせいであると言う。



 魔族は遥か古より存在していた非常に強い魔力を有する種族だった。そして人間たちと対立の立場を見せる一族であった。

 それ故に“魔族狩り”というものが過去に行われ――、多くの魔族が人間たちによって殺められた歴史を持つ。今は滅びを待つだけの――希少な一族である。


 だが、強い力を有していた一部の魔族たちは、死の間際にその力を“呪い”という形にして人間たちに残した。

 その呪いを受けた一族の一つが――、ハルの出身地である隠れ里に暮らす者たちであったのだった。



「俺の一族の受けた呪いは――、“身近な者たちに不幸を呼び込み死に至らしめる呪い”だった。この呪いは人々の魂を卑しくも貪って、その呪いを身に宿す俺の生き永らえるための糧となるものなんだ……」


 ハルの話を聞いて、ビアンカはキョトンとした顔をしていた。


「ゲンカクお師匠様の魂も、マリアージュさんの魂も……、両方とも喰ったのは――俺だ。そのせいで……、二人は死ぬことになった」


 苦しげに紡がれるハルの言葉――。

 その言葉を聞いて、今まで理解できていなさそうな表情を見せていたビアンカが初めて眉を寄せ、ハルを怪訝な顔をして見下ろす。


 そんなビアンカの表情を目にして、ハルはビアンカの顔を見ていられなくなり、頭を伏せた。


「この呪いを宿した俺がこのままここにいたら……、きっと、俺はビアンカを不幸にする」


 ハルは口にはしなかったが、その呪いは――宿主の一番親しい者の魂を好む。

 それが意味することは、ハルが身に宿す人を死に至らしめる呪いが――、ビアンカの魂を一番欲しているということだと。ハルは勘づいていた。


「……だから、ハルはここを出て行くって言うの?」


 静かな声音でビアンカが問いかける。

 その問いに、ハルは(こうべ)を垂れたまま、黙って小さく頷いた。


(自分勝手だと言われて(さげす)んでくれても良い。怒ってくれても良い――)


 ハルは思う。


 旅立ちの決意は――、ハルの中で揺らがなかった。


 このまま呪いの力で不幸と死を招き、ビアンカを死に至らしめる結果になってしまうより――、彼女の大切な存在たちを死に至らしめた結果を持つ自身を(ののし)り恨み言を言われ、この地を追い出されてしまう方が何よりも良い。そうハルは考えていた。


「ハルは……、自分のせいで、誰かが死んでいくと思っているの?」


「そうだ……」


 ハルは立て続けに問いかけられるビアンカの質問に、言葉少なに返事をする。


(寧ろ、『死んでいくと思っている』というより、実際に『死んでしまっている』という表現の方が正しいんだけどな……)


 ビアンカは自身の質問にハルが答えた内容を、暫し逡巡(しゅんじゅん)して考え込む。


「……そうしたら、私もいつか――、ハルのせいで死ぬの?」


 考え及んだ結果を――、ビアンカは何げなく言葉にする。


 そんなビアンカの一言に、ハルの心がズキリと痛んだ。


 ビアンカの発した言葉に対して、きっとそうだとハルは思い至っていた。

 このままこの地にいれば、いつかはビアンカもハルの呪いにより、いずれ死に直面して命を落とすことになるだろうとハルは察していた。


 しかし、ビアンカ本人の口からそう言われると、ハルの心は傷ついた。

 ビアンカの言葉に、「そうだ」――と、その一言が言えず、ハルは無意識の内に奥歯をギリッと噛み締める。


「ハル、こっち向いて」


 未だに頭を地に向かって下げたままのハルに、ビアンカは声をかける。

 その呼びかけにハルは(こうべ)を下げていた頭を上げ、屋根の上にいるビアンカを再び見上げた。


「ハルのせいで、死ぬって言うならさ――」


 ビアンカは言いながら、座り込んでいた屋根の上で立ち上がった。

 ビアンカの膝丈までの長さがあるローブと、亜麻色の長い髪が夜風に吹かれてなびいていく。


 不意に屋根の上で立ち上がったビアンカの様子を見て、ハルは驚愕した。


「――私、こうしたら……、死ぬのかな?」


 ビアンカが微かな笑みを浮かべ、言葉を零す。

 その刹那――、ビアンカは一歩足を踏み出し、屋根の上から身を投げ出していた。


「な――っ!!」


 予想していなかったビアンカの行動に、ハルは卒爾(そつじ)の感情を瞬時に抱く。


 ハルにはビアンカの取った行動が、まるでスローモーションを起こしたようにゆっくりとした動きに見えた。


 ビアンカの身体が真っ逆さまに二階建てのウェーバー邸の屋敷の屋根から落ちていく。

 このままでは確実にビアンカの身体は地面に叩きつけられ、大怪我だけでは済まない。


「馬鹿野郎――っ!!!」


 ハルは叫ぶように言うと、屋根から身を投げ出して落ちていくビアンカの元に駆け出していた。


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