M-091 レビテーション
レビテーション
着地魔法
そこら辺に穴か、崖か、とにかく近づいたら危なそうなものがあったら、逃げること。
そうしないと……魔法使いが落ちる。
舟長は、出発前に斧戦士から言われたことを思い出していた。
「冗談だろ?」
「……すさまじい吸引力なんだ。覚悟しておくといい」
真顔の斧戦士なんていつも見るけど、あんなに真剣な声色は初めて聞いた気がする。
舟長は今にも落とし穴に落ちそうな魔法使いを見つつ、真剣に考えた。
どうやって助ければいい?
「ひゃー高い―」
「叫ぶ力があるなら自力で上がってこい!」
「それは無理です」
魔法使いの腕力はステータス的に言うと、230。
一般人よりはあるが、パーティー内で最下位。
具体的に言うと、穴のふちに引っかかる力はあるが、自分を持ち上げる力はない。
都合のいい非力さをしている、と我ながら思う。
魔法使いはシステムに感謝した。
「舟長ー助けてー」
「助けたいのはやまやまだが……オレは斧戦士と違って人間だからな?」
「いやだなあ、人一人くらい抱えられるくせに」
「あれは立ってたからできたんだよ! 吊られてる人を助けるとかハードル高いわ!」
怒鳴りつけながら、舟長は焦りが迫ってくるのを感じる。
何故かそこそこに深い落とし穴。魔法使い(168センチ)が三人ぐらい入りそうな……。
おそらく、手を滑らしたら魔法使いの足の骨はただじゃすまないだろう。
まあ、まず間違いなく折れる。
「こんな深い縦穴、誰が掘ったんだよ……」
「まったく舟長は役に立たないなあ」
「おまえの基準は斧戦士だろ? 人外と一緒にするなよ」
斧戦士、言われたい放題である。人外って。
「とりあえず下に降りろ。このままじゃ、オレは何の手助けもできん」
「レビテーションが使えれば……」
「そういう便利な魔法は習得してないってこの間言ってただろ」
「いいや、物は試し、唱えてみよう!」
「唱えてみようって、魔法陣は!? 見たことないんだろ?」
「こないだの魔法祭りでちらっと見たから行ける! レビテーション!」
魔法使いは典型的な覚えられない子である。
もちろん、ちらっと見ただけなので、覚えている訳がない。
しかし奇跡的な確率で、魔法使いはレビテーションの魔法を作り上げた。
黄色の魔法陣が魔法使いの全身を包む。
魔法使いはゆっくり下降していった。
魔「上に参りまーす」
舟「まさか自力(レビテーション込み)で上がってくるとは……驚いたぜ」
魔「これ面白いね、なんで今まで覚えてなかったんだろ」
舟「システムが悪い」
魔「魔法使いは攻撃魔法だけを覚えてればいいんだよ、と言わんばかりの構成だったものね」




