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ここは、魔導研究所  作者: 紅藤
本編(Mシリーズ+Aシリーズ)
8/527

M-006 フリーズ


フリーズ

時を止める魔法




 フリーズは時を止める魔法である。主にパソコンの。

 ではなく、本当に時を止めてしまう魔法である。

 時を止める魔法は、時を操る魔法や特技は、本当にたくさんの世界で生まれているので、もはや説明する必要もないだろうが、フリーズはひと味違う。

 フリーズは、使用者の時を止めてしまう魔法なのだ。すなわち、不老になる魔法。人間のテーマ、不老不死の50%を叶える魔法……だったら良かったのに。


「フリーズ!」


 フリーズはありきたりな時を止める魔法である。もはや説明する気も失せるような平凡な魔法で、使用者以外の時が止まる、ロマン溢れる魔法である。

 しかし時が止まっても大事なイベントには間に合わないものだし、時が止まっても鐘は鳴り、時が止まっても処刑は行われるのだ。

 大事なときに間に合わない、それが主人公の時止め。

 では、それが脇役のだったら?


「フリーズ!」


 魔法使いさんはいつもこう、下らないことばかり考えている。

 しかしながら残念なことに、彼女から溢れ出す疑問の数々に説明がつかない。

 なぜなら彼女はこの世界の主人公であるからだ。脇役の気持ちなど、一生わかるはずもない。


「フリーズ!」


 魔法使いさんがしきりに唱えているのは時止めの魔法だ。練習しているのではない。いままさに実践中だ。

 ここからあっちの崖まで移動したい。

 しかし魔法使いの運動能力はないに等しく、軽々ジャンプで谷を超えていった仲間に、運んでもらうしかなかった。今までは。


「グランドグラビティ! っ、ふ、フリーズ!」


 しかし、時止めを覚えた今は違う。地属性の魔法で岩の階段を作り、そして時を止めてその間に移動するという作戦だ。

 岩の階段の段差がありすぎたり、時間停止したのはいいものの、タイミングが掴めなかったり、時止めを解除したらすぐに岩が消えていったり、してしまいうまくいかなかった。

 だが、彼女も覚悟を決めたようだ。もう、あと一回分のSPしかないことも関与したかもしれない。

 とにかく魔法使いは岩の階段を登り始めた。


「よっせ、わっせ」


 時止め中なので、明確には分からないのだが、仲間たちが応援してくれているはずである。

 時止め中なので聞こえないが、最大の声援が彼女に届いているはずである。

 魔法使いは岩の階段をひたすらに登る。

 途中で巨大な岩のとげに引っ掛かり、下が見えた。

 谷。落ちたらどうしよう、恐怖が広がり、足がすくむ。


「よいしょ、わっせわっせ」


 だが登るより他にないのだ。

 最初に戻るにはフリーズの時間が足らず、ここで震えていてもフリーズの効果が切れて、やがて地に落ちる。

 登るしかなかった。


「よし、てっぺん……あーと、どうしよう」


 てっぺんにたどり着いた魔法使い。

 あと少しで地上に着くというところなのだが、問題があった。

 岩の階段と崖の地上部分に比較的長い隙間があって、その間は完全に宙に浮かなければならない。

 ジャンプすればいいじゃん、と思いがちだが、彼女は階段もよいしょよいしょと登る典型的運動神経がない女性だ。

 そんなことを望むのは無理だ。

 魔法使いは氷の魔法を唱えた。隙間を氷で埋めて道を繕うというのだ。


「フリーズの時間はあと少し……頑張れわたし、わたしならできる!」


 つるつるの道を恐る恐るわたり始める魔法使い。

 フリーズの効果が切れた。

 仲間たちの声が聞こえる。魔法使いには聞いている暇はないが、危ないだの、なんで氷でだの、色々叫んでいる。

 一応、氷の魔法を唱えたのには理由がある。この氷の魔法、アースアイシクルは壊そうとしなければ溶けない、特別な魔法なのだ。例えば、別の魔法を当てて攻撃するとか。


「あっやばばばばばば」


 と、解説していたら、魔法使いが足を滑らしていた。

 この世界には蘇生魔法があるので、すぐに回復すれば、どんなに損傷の激しい死体でも生き返らせることができる。

 当然痛かった記憶は残るので、魔法使いが今後崖や氷がトラウマになる可能性もあるが、命には変えられない。

 斧戦士が動いた。落ちていく魔法使いに手を伸ばし、


「フリーズ!」


 時を止める。

 斧戦士には魔法使いの経験もある。SPも十全にあって、スペルも知っているとあれば、もうすることは一つしかない。

 止まった時が解かれたとき、魔法使いは地に足が着いていた。ついでに斧戦士に抱かれていた。


「ありがと、斧戦士さん」

「なに、おれの魔法使いさんへの愛があーだこーだした結果だよ」


 なんだかよくわからなかったが、お礼を言わなければならない気がした。

 斧戦士も真顔でそう返した。

 痛くなかったし、死ななかったし、今日はいいこと尽くしだった。

 かくして脇役のタイムストップは命を救ったのである。






魔「時止め……それはロマン溢れる魔法」

斧「それもう地の文で聞いた」

舟「それはそうと、おまえ、空中で二段ジャンプしなかったか?」

斧「気のせいだろ」

ア「時止め中でよく見えなかったけど、空を飛んだよね?」

斧「なんでこの人たち見えてるの? こわい」

剣「なにもないところで歩いてただろ」

斧「メタ視点にもほどがあると思います」

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