M-004 レッド・ブルーファイア
レッド・ブルーファイア
追従し拡散する
意味もなくケンカを売られたスカイアドベンチャー。一対一での戦いを望まれたので魔法使いを出場させたら、向こうは僧侶を出してきた。
男だった。
説明しよう。魔法使いさんは男僧侶という存在を全体的に嫌っているのだ。理由はなんとなくキモいという、中途半端で酷いものだ。全国の男性僧侶は泣いていい。
とにかく、魔法使いさんのスイッチが入ってしまったということだけはご理解いただきたい。彼はこれからボコボコにされる予定だ。
「かの名高きスカイアドベンチャーの魔法使いと戦えるとは光栄です」
「そりゃどうも。せめて魔法防御の高い僧侶で挑んできたつもりでしょうが、わたしの魔法はあなたをいとも易く貫きますよ」
「それはどうでしょう。あ、防御系スキルは存分に使わせてもらいます。舐めてかかれる相手ではないと思いますから」
「……なるほど。でしたら、わたしはこの杖を使いましょう。安心していいですよ。無属性は使いませんから」
「酷い侮辱だ。では僕はあなたの自信を打ち砕いて差し上げます」
臨戦対戦になる。
相手に会わせて敬語で話していた魔法使いが、見せていた杖を装備する。杖の名前は力の杖。炎の力を宿す杖で、ファイアボールを打ち出すことができる。
「見たこともない杖……不意打ちはお得意ですか」
「さて、どうでしょう」
魔法使いが初手のファイアボールを放つ。ファイアボールは真っ直ぐ進んでいって、相手の服を焦げ付かせた。ダメージは入らなかったようだ。
しかし魔法使いは諦めない。直線的なファイアボールをなんとか敵に当てようとする。敵は活発なステップを繰り返して二発目以降を避けている。
「その杖、あまり良くないみたいですね。不良品ですか?いつもの杖に持ち変えた方がよいのでは?」
「わたしのファイアの杖を愚弄するとはいい度胸だ。そろそろ本気を出さなくては」
魔法使いはそういうと、小さなストラップを取り出して、杖に着けた。小さくて見辛いが、それは鳥のように見えた。特に鷹のような猛禽類みたいな。鋭くとがったクチバシと眼。
魔法使いも表情を切り替えて高らかに叫んだ。
「レッドファイア!」
すると直線的だったファイアボールの軌道が、ぐんにゃりと曲がって敵に命中したのだ。まぐれ当たりかと疑う僧侶に魔法使いが容赦することはない。まだまだ、と呟いて何度も攻撃する。
追尾弾だ。ホーミングとも呼ばれるそれは、ロックオンしていない敵にも当たりに行く、扱いが難しい攻撃である。
「どうだね、我らが力を司る杖の力は!」
「ぐうっ、しかし、ホーミングだけなら、いくらでも防ぐ手段はあります!」
僧侶が自慢気に取り出したのは小型の盾。スカイアドベンチャーの規約でも、剣士や僧侶が持つことを許される、丸い形の盾だ。シールドバッシュはできない。
敵の僧侶は盾を強く掲げると、一つだけ迫ってくるホーミング弾を盾で弾き始めたのだ。
魔法使いに地団駄を踏んで欲しい策略だったのだろうが、魔法使いは彼の予想とは反対に不敵に笑って、杖を切り替える。これで力の杖は三段階目ということになる。ストラップも少し違う鳥類に置き換わっているようだ。
「ブルーファイア!」
魔法使いの声とともに、炎弾ががらりと姿を変える。青く鋭い形状に変わったファイアボール。もちろん、違いは見た目と威力だけではない。
盾に着弾したファイアボールが一度離れていくつかに分散する。そして再び僧侶の身体に向かって襲いかかる。盾で防御できなくなった僧侶は、防御スキルを発動させるがもう遅い。
軽減されても威力の上がった炎弾は僧侶の体力を削っていく。そして、最後に立っていたのは魔法使いだった。
「ふー。結構ギリギリだった……ポーカーフェイスって難しいよ」
聖属性の魔法攻撃が、下から二番目の魔法防御をゴリゴリ削っていたのだ。魔法使いのHPはギリギリ、回復魔法を施し、魔法使いは身を翻す。
仲間に今日の勝利を報告するためだ。
今回もスカイアドベンチャーの名誉は守られた。それを誇るために。
魔「というわけで、追尾弾と追撃弾でした」
舟「うん、それはいいんだけどな。ネーミングもうちょっとなんとかならなかったのか?」
魔「あ、ブライトスフィア的な感じで格好いいヤツ考えた方が良かった?」
ア「それが格好いいのかどうかは置いとくとして、ファイア部分は残しといた方がいいだろうね」
魔「うーん、じゃあ、ファイアファイアとアクアファイアとか?」
剣「ファイアファイアって可愛いな」
魔「むむっ、赤ファイアと青ファイアはどうだ」
斧「それならファイア部分も日本語に戻そうよ」
魔「紅炎と蒼炎?」
舟「まあ、及第点かな」