D-72 ブルー&ピンク
ブルー&ピンク
結局エロ本はどこに
「ふっふーん」
ご機嫌なアサシン。
彼女は自らが課した極秘任務の真っ最中だ。
場所は舟長の部屋。
部屋の主は、快く協力をもちかけてきた魔法使いと斧戦士につられ、今は庭だ。
魔法使いの魔法開発につきあわされているはずなので、しばらくは戻ってこれない。
「さあて、お目当てのものはどこかな?」
実のところ、悪ノリが大好きなこの冒険者パーティー。
舟長だけが知らない極秘任務なので、アサシンは好きなだけ独り言を言うことができるのだ。
確実にブツの分かる足取りで、さりとて口調はまるで探しているかのように。
蝶のように舞い、蜂のように刺す勢いで本棚に忍び寄る。
本棚の中身は、いたって真面目で、シーフの腕を磨く技術本や、リーダー術、あとは趣味の砥石とかが置いてあった。
が、本命はここではない。
ここにそれがないのは、既に確かめてある。
「くっくっく。ボクは知ってるんだよ〜? 本棚の裏に、舟長が何か仕込んでるってこと!」
興奮した様子で、本棚に張り付く。
背面に指を這わせて、違和感。
あれ、棚って基本的に後ろが窪んでるよね?
というか横板と天板、底の板だけ数センチ奥に長いというか。
アサシンはニタァと笑って、本棚をひっくり返す。
なるほど。
本来あったはずの窪みには、何か扉のような物があり、上から紐が垂れていた。
この本棚が元々ベッドに背を向けるように置かれていたことからして、これはほぼ間違いなく本命だろう。
アサシンは紐には触れず、上部にあったとっかかりを頼りに本棚の裏に仕込まれた扉を開けた。
「痛っ!?」
直後、何か白く尖ったものが飛んできて、思わずアサシンは額を抑えて、のけぞる。
床に紙飛行機が落ちている。
飛んできたのはこれだろうか。
確かにダメージになるほどの痛みではなかった。
アサシンらしからぬ反応をしてしまって、少々赤面しながら紙飛行機を開く。
わざわざ折ってあるのだ、中に何か書いてあるのだろうと思った。
「はあ? 『こんな事してないで早く部屋に帰りなさい』? ぬぬぬ……、負けないから!」
誰かの思惑通り、アサシンはますます燃え上がった。
躍起になって本棚を調べ始める。
下の段にも扉があったので、今度は紐で開けてみたが、何も無い。
そんなはずはないと、焦る指先は空を滑り、何も見つけることはできない。
「舟長、どうしたの? トイレ?」
「お前はなぁ! 少し恥じらいを持て!」
「一緒に暮らしてる仲間にそんな恥じらい要る? 乙女かよ」
「魔法使いは乙女じゃないのか……」
「魔法使いさん、舟長がいじわるするよ」
「許せんな、もう1セットだ」
「どっちかって言うと、言ったのは斧戦士なんだが……はあ。付き合えばいいんだろ、付き合えば」
「魔法使いさん、あんなことを言ったやつが付き合うとか言ってますよ」
「却下。私には斧戦士さんがいるわ」
「そういう意味じゃねーよハゲ!」
「このセミロングヘアを捕まえてハゲだと!?」
庭の方からそんな会話が聞こえた。
タイムリミットが近いようだ。
もうゆっくりしている暇もない。
アサシンは覚悟を決め、本棚から本を全て抜き取り、ひっくり返す。
やはり。
アサシンの思った通り、底のくぼみにも類似の扉が付いていた。
さっきのような醜態を晒さぬため、慎重に扉を開く。
「何も無い……?」
またか、と落胆するアサシン。
しかし指先は確かにその僅かな段差を見つけ出し、ひっかけた。
茶封筒だ。
厚さは薄く、紙1枚が入るかどうか。
間違いなくエロ本ではなかったが、もはやエロ本よりも、舟長の部屋で隠されていた何かを見つける方が先決だった。
「これ、は……」
茶封筒の中には写真が1枚入っていた。
どこか田舎の景色に、幼い頃の舟長、同じくらいの年齢の自分と剣士とモンクが写っている。
色褪せた様子のないそれは、いつかの記憶を魔法で切り取ったものか。
そうだ、自分たちの故郷に、写真屋さんなんてモダンなものは来なかったじゃないか。
アサシンはくすりと笑って、舟長の部屋を出た。
魔「アサシンちゃんご機嫌だね」
ア「今回はこれで引いてあげるね」
舟「本棚直してくれないか?」
剣「不法侵入してることはいいのか?」
モ「恋人なんだから、お互いの部屋くらい普通に入るじゃない」
斧「さあて、エロ本を探しますか!」
魔「イクゾー!」
舟「あの邪悪どもを止めろぉ!」




