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ここは、魔導研究所  作者: 紅藤
日記編(Dシリーズ)
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D-68 タイガーミート


タイガーミート

虎のモンスターとは




「寅年になってしまったね」

「なってしまったってなんだよ。時間は止まらないんだからいつかは寅年になるに決まってるだろ」

「貴様……ファンタジー界にいながらなんて暴言! 我らには時を止める術があろうに」

「なんでちょっと古めかしい喋り方なんだよ。それはそうと、ずーっと時を止め続けるのは大変だぞ。SPがいくつあっても足らんだろう」

「それな」


 果たしてファンタジー世界に干支は存在するのか。

 まったく意味不明な発言はまったく意味不明な結論によってかき消された。

 新年の朝、いつもと変わらぬ様子で食卓を囲む冒険者一団は、いつもと同じ朝食を食べた。


「せっかくだから10時のおやつにはおしるこでも食べる?」

「いいねー! ボクおしるこ好き!」

「わたしも好き!」

「いいわね。作り方を知ってるなら教えてくれないかしら。マスターしたいわ」

「違う世界の風習とはいえ、新年を祝うのはいいもんだな。だから舟長、今日ぐらいはにこにこしようぜ?」

「いやその……んー、そうだな。そうしよう」


 何かを言いあぐねていた舟長だったが、ようやく諦めたのかひとつ息を吐いて、もそもそとパンをかじり始めた。


「いや待てよ。いつもオレが怒鳴り散らしているかのような言い分はやめろ!」

「実際怒鳴ってるだろ。今」

「でも寅年だし、みんなガオガオ言うようになるのかも」

「え、じゃあ今年いっぱい舟長は例年以上にうるさいってこと?」

「寅年だからなんだって言うんだよ! 虎に謝れ!」

「がおー」

「虎さんごめんね」

「ええんやで」

「それは虎じゃなくて斧戦士だろ!」


 朝からうるさい舟長である。

 ギャグにマジレスやめてください。


「はてこの話、ジャンルはコメディだったか?」

「おまえら……」

「舟長、諦めろ。干支がどうのっていってる時点でメタいはよく知ってるだろ?」

「な、先回りして言うな!」

「じゃあ、舟長が落ち着くようにお供え物でもする?」

「何がじゃあなんだよ!?」


 舟長は悲鳴をあげたが、こういうどうでもいい悪さにノリがよい彼の仲間は既に動き出していた。

 斧戦士は自慢の武器を担ぎながら意気揚々と玄関に向かうし、アサシンと魔法使いとモンクの女子会的メンバーはそろって台所に消えるし、残った剣士はじゃあオレもなんか虎にちなんだことでもやるかね、と言って自室に戻ってしまった。

 一人残された舟長。

 誰もいなくなったリビングで頭を抱え、よろよろと別棟に向かった。


 そして30分後。

 舟長は急ごしらえの祭壇に固定され、身動きが取れない状態にあった。

 目の前にはおびただしい量のパン。

 おそらく虎のデフォルメ顔を施したのであろう前面は崩れ、ホラー映画のクリーチャーのようだった。

 また、斧戦士が狩ってきた生き血したたる新鮮な虎の肉は、祭壇よりも上に供えられ、舟長の座る祭壇をさらに赤く染めている。

 そして、一人残った剣士はなにやら剣を片手に迫っており、前半二つがなくても絶体絶命の状態だった。


「魔法使いさん、この虎のパンはどうしたの?」

「とらのにく」

「……うん?」

「ほら、ポ○モンの肉って一時期流行ったでしょ? 本物の虎の肉が美味しいか定かじゃないし、ボクたちは偽物の虎の肉を作ることにしたの」

「あたしとしたことが失敗したわ。いつも作る分量を三人でやったから、こんなにたくさんできちゃった」

「とらにく……」

「……!! あ、あれは毛皮を取ったあとの中身で、生き血を舟長にかけたかっただけなんだ。魔法使いさんが虎の肉担当で、おれが虎の毛皮担当だね」


 魔法使いが落ち込んでいるのが、自分の持ち込んだ暫定虎の肉とわかり、斧戦士は大慌てだ。

 なんとかして元気なってもらおうと、一生懸命慰めている。

 効果のほどは見ての通りだ。


「あっちもこっちも大変だな。よし、これで準備は整った。あとはおまえに虎の模様を付ければ、舟長は名実ともに虎だぜ」

「おまえは何を言ってるんだ!? その剣で何するつもりだよ! 攻撃力低下のアクセまでして……、まさか!」

「綺麗な虎模様を作ってやるからな」

「待て、それは虎模様じゃなくて縞模様、いやただの切り傷だろ! いて! 等間隔に斬り付けてくな!」






魔「この禍々しい祭壇が新年のお祝いとか」

舟「何か召喚されそう」

ア「舟長、生け贄役じゃん」

剣「おーい、キマイラが出てきたぞ!」

モ「なんだかお尻の辺りが、斧戦士が持ってきたお肉と似てるわね」

斧「ふふ」

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