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ここは、魔導研究所  作者: 紅藤
日記編(Dシリーズ)
513/527

D-60 リコリス


リコリス

白いローブには血飛沫がよく映える




 いつからだろうか。

 リコリス――紅白の彼岸花の名が囁かれ始めたのは。


 いつからだろうか。

 夜に現れ、紛れる気のない白いローブの集団が、法則性のない殺人を始めたのは。


 いつからだったろうか。

 その宗教団体が、恐怖の対象として人の口に上り始めたのは。


 不思議なことにいつも生存者はいて、彼らは口をそろえてこう言った。

 リコリスは必ず真白いローブを来て現れる。

 平民。貴族。名の知れた冒険者。

 殺人を犯して初めて彼らはリコリスとなるのだと。

 白いローブに飛び散る彼らのものではない血が、赤と白の彼岸花を幻視させるのだと。



 その日、斧戦士と魔法使いは二人で街に買い物に来ていた。

 それ以外のスカイアドベンチャーはと言えば、別の依頼をこなすため二人とは別行動している。

 今朝、珍しくモンクを連れて行くのだと、話していたのを魔法使いはちゃんと覚えている。

 だから、フリーになったアタッカー二人が、たまにはカップルらしいことでもしようかと、街に繰り出したのはある意味偶然だった。


「今日も賑やかだね、ここは」

「どこか落ち着ける所でお茶でも飲もう」


 そんな甘やかなカップルらしい会話を楽しんでいた二人に声をかける者がいた。

 見知らぬ人間だ。

 割と排他的な人間だと自負している斧戦士と魔法使いだが、それでもその声掛けに振り返ったのは、男の声が可哀想なほど震えていたからだ。


「あ、あんた冒険者だろう。腕は立つか」

「まあ、そこそこに? 冒険者ギルドに依頼かな。案内しようか」

「うん。それぐらいの時間はあるね」

「リコリスが出たんだ。この街の入り口だ。一刻も早くみんなに伝えないと」

「リコリス?」

「あんたたち知らないのか!? いや、今はそんなことどうでもいい。とにかく、誰かにリコリスと言えば伝わるだろう。悪いが、俺を商工会まで護衛してくれないか」

「お、悪いやつっぽいね、斧戦士さん」

「よーし、ぼこぼこにしちゃうぞー」

「いや、俺は無事に商店街まで着けさえすればいいんだが……」


 やや困惑した面持ちの男を約束の場所に連れて行ったあと、二人は冒険者ギルドに向かった。

 あれだけ多くの人に伝えたいと言っていたのだし、とりあえず周知しておけばよいだろうと思ったのだ。


「そういえば、多くの人に伝えたい割には、そこら辺の人には言わないんだね」

「これだけ人がたくさんいるとパニックになって面倒だからだろう。おれは知らないけど、リコリスってのはすごく凶暴で、たくさん人を殺しているらしい。ギルドでも討伐対象になっているそうだから、言えばすぐに臨時依頼が出るんじゃないかな?」

「へえ。私たちはどうしようね」

「うーん、剣士たちがいないからなあ。とりあえず、あとで舟長に連絡を取ってみる?」

「それよりそんな危険な連中がいるなら、みんなと合流したいな」

「分かった。そうしよう」


 そして、冒険者ギルドで二人は思わぬことを聞かされた。


「え? リコリスって彼岸花のことなの? ちょっと見てみたいなあ」

「魔法使いさんは彼岸花が好きだよね。それはそうと、白いローブを纏ってるのか。確か今日、舟長たちは白いローブを着てなかったか?」

「ああ、あの潜入任務で使ったやつだよね。うん、着てた」

「間違えられたら大変だ。テレパシーでそれとなく伝えておこう」

「さすが斧戦士さんだ。緊急事態でも頼りになるぜ」


 ギルドの職員が顔色を悪くしながら、スカイアドベンチャーの依頼内容を聞いてくる。


「今日は隣町で受けた魔獣兵器討伐の依頼で、カインの廃墟に行ってるはず」

「何故わざわざ隣町のギルドまで?」

「だって、ここだと割と高難易度の依頼ばっか紹介されるだろ。仲間の中でレベルの低いのが一人いるから、その強化のためにわざと依頼の難易度を下げたんだったかな」

「そうそう。おまえらがいると修行にならない、って言われて今回お留守番なんだよ」

「実質のところ、五人までしかパーティーを組めないから外されたんだろうな」

「舟長が外れれば一番効率的なのに」


 リーダーは パーティーから はずすことはできません! ▼


「あなたたちほどの情報通がリコリスのことを知らないとは意外でしたが、これを機に少し情報を集めてみるのをお勧めしますよ。既に正式な討伐対象になっていますから、冒険者であるみなさんなら緊急依頼でなくてもリコリスを討伐すれば報酬が出ますので」

「報酬かあ。舟長が飛びつきそうだね」

「なんであいつケチキャラなんだろう」

「そこを突き詰めてはならない」


 斧戦士は黒トキワに情報収集を任せると、魔法使いを連れて隣町のダンジョンまでワープした。

 カインの廃墟は割と初心者向きのダンジョンだ。

 出現するモンスターたちはいっぱしの冒険者たる魔法使いや斧戦士の敵ではなく、あっという間に仲間との合流を果たした。


「リコリス? 知らないな」

「ボクも知らない……アサシンギルド関係じゃないってこと?」

「とりあえずこれは脱ぐか。変な勘繰りをされたらまずい」

「この白いローブ、儀式用みたいでカッコいいのに残念だわ」


 白いローブを脱いで、スカイアドベンチャーはダンジョン攻略をしつつ、念のためリコリスを探してみた。

 帰る道すがら、警戒した冒険者と何度もすれ違ったが、結局リコリスの姿すら確認できなかった。

 だが、冒険者ギルドはしばらく警戒状態でいるそうだ。






斧「情報は調べ中だよ。まずは人の噂からさらってこようかな」

ア「ボクもやるよ。これだけ警戒されてるなら、アサシンギルドでも追ってるはずだからね」

舟「報酬かー。リスクと天秤にかけるとちょっとなー」

魔「せ、舟長がリスクマネジメントしてる!?」

剣「報酬なんか、もらえるようになってから考えればいいだろ。要は殺したあとの話だろ?」

モ「物騒な世の中ねえ」

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