表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは、魔導研究所  作者: 紅藤
日記編(Dシリーズ)
502/527

D-54 フトゥーン


フトゥーン

ザコーネ




「アナタ、ザコーネ」

「なんだとてめえ」


 黒翼の風、緊急訪問のその日、魔法使いは怪しい電波を受け取った。

 電波は見えないものであるが、この情報の正しさを知った魔法使いは即座に行動した。

 恋人、斧戦士の部屋へ急ぎ移動し、素早くノックした。

 普段の睡眠時間30分の斧戦士は魔法使いの来訪を察知し、ノックの瞬間にドアを開けた。

 ノックの勢いのまま飛び込んでくる魔法使いを抱き止め、斧戦士は嬉しそうだ。


「なあに? 魔法使いさん」

「千里眼か、貴様!?」

「気配がしたから開けただけだよ」

「そうなんだ。ところでさ」


 本題は忘れぬうちに伝えるもの。

 魔法使いは社交辞令あいさつもそこそこに、電波の話をし始めた。

 斧戦士は決して笑ったりせずすべてを聞いて、窓辺のベッドをぽんぽん叩いた。


「じゃあ斧戦士さんと添い寝しよう」

「え。みんなと寝たいんだけど……」

「んー。でもみんな、もう寝ちゃってるよ?」

「舟長は叩き起こせばいいじゃん?」

「それはそうかもしれないけど、六人全員が寝られる部屋って、片付けないとないでしょ」


 まさに正論であった。

 斧戦士に諭され、ぐう、とうなる魔法使い。

 ぐうの音は出る。


「明日、おれが舟長に話しておくよ。そしたら、明日の夜はみんなで寝られると思う」

「んー、分かった。そうする」


 斧戦士の説得に疲れた魔法使いは、持ってきた枕をベッドの上に置くと、素早く寝っ転がった。

 おやすみー、とのんきな声が聞こえる。

 斧戦士は、魔法使いにベッドと掛け毛布を分けてやり、自身は近くの椅子に腰かける。

 愛する人を見ながら、夜を明かせるなんて素晴らしいことはない。

 そんな風に思いながら、魔法使いが起きるまでずっと眺めていた。


 翌日。すっきりと目が覚めた魔法使いを連れ、舟長の部屋へ。

 昨夜斧戦士が一睡もしていないとは知らない魔法使いは、自分の寝相が悪くなかったか、しきりに気にしていた。

 朝、起きたら斧戦士は既に起きて・・・いて、昨日見た軽鎧を付けて椅子に座っていたのだから。

 あれ? 添い寝してない……?となるのは必然である。


 斧戦士も魔法使いを一晩堪能できてご満悦であるし、すこぶる健康だ。

 目も充血していないし、魔法使いが昨夜の出来事を正確に推論できる日はこないだろう。

 如何に魔法使いが斧戦士のことに詳しく、夜は寝なくてもいいことを知っていたとしても。

 さて、朝食前に起こされた舟長はそんな二人を見た訳で。


「朝からイチャイチャしやがって……何の用だ?」


 不機嫌ながら礼節を持った態度を取った。

 これが魔法使いだけだったら、怒鳴っていたに違いない雰囲気に、魔法使いは斧戦士の後ろに隠れる。

 超絶頭の切れる&仲間も斬れる系斧戦士が側にいるから、舟長も怒れないのだと知っているのだ。


「今日はみんなで添い寝デーの日です。協力してね」

「はあ? 添い寝って……六人でか」

「そうそう。リビングにフトゥーンを広げて、六人で雑魚寝しよう」

「普通に布団って言え」

「分かった。じゃあ、そういうことで」


 変な言い方をされると突っ込んでしまう舟長は、内容の追及も忘れてツッコミを入れてしまう。

 これ幸いとばかりに、斧戦士は舟長の了承をとったものとして話を進めた。

 それから、舟長が新たなツッコミをする前にそそくさと二人で帰る。


 舟長は案の定、離れていく二人の悪戯っ子にぽかんと口を開け、手を伸ばしかけ――、諦めて額を押さえていた。口はへの字を描いている。

 斧戦士の作戦勝ちであった。


「アサシンたちには、朝食のとき伝えようか」

「うん」


 一方その頃、黒翼の風の借りパーティーハウスでは。

 魔法使いの受け取った正体不明の謎電波こと、昨夜、寝られないから一緒に寝て欲しいとねだった黒槍が目覚めていた。


 借り一軒家の一番広いリビングを片付け、そこにマットレスをいくつか並べたのだ。

 そこに枕を四つ、掛け毛布を四つ並べれば、臨時の雑魚寝用フトゥーンの出来上がりだ。


 黒槍はムウとツヅミの間に、サキはムウの左に寝た。

 お楽しみ会みたいなわくわく感に、覚えていた恐怖は消え、黒槍はぐっすり眠れた。

 ……はずだった。

 というのも、目が覚めたら真っ暗で、身動きが取れなかったのだ。


(えっ、えっ、何? 何? 何? 今、どういう状態?)


 遠くからサキのくぐもった声が聞こえる。

 何と言っているのかまでは聞き取れないが、とりあえず緊急性はなさそうな雰囲気。

 ほっと一息ついたのも束の間、カキン、という聞きなれた音がした。

 蒼炎のサキが放つ特殊な炎魔法の発動音だ。


 緊急事態だろうかと、ライアンが身を固くしていると……。

 左右の重しがふっと軽くなった。声も少しよく聞こえるようになった。

 それでも外の様子が怖くて出ていけない黒槍は、毛布をかぶったままブルブルと震えるばかり。


「あんたたち、兄妹そろって寝相が悪いんだね」

「……つい。温かい湯たんぽがあったので、その……」

「久しぶりにやらかしたよ。ライアン、大丈夫か? あ」

「そうです! ライアン、大丈夫です……あ」


 ふいに被っていたものが軽くなり、日焼けした肌のようにペりぺりと剥がされた。

 ツヅミとムウにプレスされ、毛布で身動きが取れなった黒槍は、涙目で、震えたまま、髪の毛を逆立てていた。

 これは誰の非なのか、考えなくても分かった。


「すまない、ライアン」

「ごめんなさい、ライアン」

「ライアン、大丈夫かい? さぞかし怖かっただろ。これからはそいつらの近くには寝ないことだね」


 サキの助言に、黒槍はこくこくと頷いたが、ツヅミとムウが猛反対した。

 若干寒くて震えてる説もあるライアンにくっつき、説得しようとしてくる。


「いや、めったにないことだ。ライアン、また一緒に寝ような」

「もしかしてサキ……。順番を決めるときに、妙にこだわってたのは……そういうことですか? ライアンを囮にしましたね」

「何のことやら。自分のことを棚上げするのは良くないと思うよ。さて、あたしは朝食の用意でもしてくるよ。あんたたちはライアンを元通りにしておくことさね」

「もちろんです! ライアン、私たちが付いていれば平気ですからねっ!」

「ライアン、心配いらない。昨日はよく眠れたようだね、良かった」


 仲間に信頼され過ぎるのも、やや問題かもしれない。

 黒槍は、普段は尊敬する年上の仲間二人を、恐る恐る見やった。

 片や親密さで、片やいつも通りのリーダーっぷりで、ライアンを懐柔させようとしている。

 目は心なしかてらてらと光り、絶対に逃がさないと顔に書いてある。

 ライアンは再び涙目になった。

 悪夢を克服するよりも先に、仲間を克服しなきゃいけないらしい。






魔「仲間を攻略するのも冒険者の務めじゃんね?」

モ「そうなの? じゃあ、あたしもさっそく攻略しようかしら?」

舟「寒気がする」

剣「だ・れ・に・し・よ・う・か・な」

ア「それで選ぶんだ……」

斧「雑魚寝なうっと。魔法使いさんが満足そうでなによりです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ