M-003 エレメントフィール
エレメントフィール
六属性の威力と防御力を上げる環境魔法。ただし……
まずい、とセインズは思った。先の判断を下した自分に文句を言いたかった。罠だ、狙われている、間違えたのだ、おまえは!
わずか数メートル先に浮く少女への警鐘が止まらない。過去の栄光が目を眩ませたのだろうか。この僕が、かつてこの学園で問題児と謳われた僕が、若い女の子に圧倒されている。脅威の正体は今年の新入生。いわば、教師として古巣に帰ってきた僕の後輩ということになる。未熟で可愛い後輩たち。そんな夢が音を立てて崩れていく。学生時代の師匠の幻聴が聞こえた。過去のおまえと私にそっくりじゃないか、と。
「トランス」
聞いたこともない魔法だったが、その内容は既に分かっていた。二回目だからだ。この魔法はどうやら、彼女自身の能力を増幅させる身体強化魔法らしい。通常、重複させるのは非効率だとされる強化魔法。二回目のそれの意味は、はったりではないことは確実だ。僕に恐怖を抱かせる存在感が、何よりそれを物語っている。
少女が右腕を高く掲げた。手の内には、燦然と輝く杖。最後の魔法だ。やはり詠唱はない。僕が唱えた環境魔法は、エレメンタルフィール。ほとんどの魔法属性を自身に付与してダメージを軽減する、防御用の魔法だ。しかし、全ての魔法を防げる訳ではない。現に、迫る無属性攻撃魔法に対しては壁にすらならない。
「エナジーフォース」
負ける。環境魔法のリセットはもう間に合わない。なす術もなく、僕は――。
爆散した。
魔「エレメントフィールを使った人の症状です」
斧「六属性の属性値を上げる環境魔法だっけ?」
魔「そう。エナジーフォースを仕掛ける前に、六属性すべての魔法攻撃をしておきました」
舟「それでセインズ・ミュラーさんは、おまえがカラフルエレメントマスターだと思っちゃった訳ね」
魔「属性値は自分の魔法の威力を上げ、相手の魔法の威力を下げるので、もしわたしが六属性しか使えなかったら、彼の戦略は正しかった訳ですね」
ア「相手の魔法はほぼ効かないし、自分の魔法は威力が増してるから有利に戦えるってこと?」
魔「そうそう。ただデメリットがあって、自分一人にしかかけられないことと、無属性に対する防御力ががくっと下がるんですよ!」
斧「嬉しそうで何より」
剣「無属性だけ下がるのはなんか理由あるのか?」
魔「考えておいたけど、分かりやすく伝えられるか自信がない」
六属性、炎、水、地、氷、雷の属性値は0から100の一本のバーで表せる。
その内訳は、無属性が50%、地形による環境補正が20%、魔法による環境補正が30%で、合計100%。
エレメントフィールを使用したときは、普段の50%分に加えて20%バーが伸びるので、無属性の属性値は30%になる。
この状態で無属性魔法を撃つと威力は減少し、敵の無属性攻撃を受けると大ダメージを受ける。
魔「エクセルかなんかで棒グラフを作れば分かりやすいのかなー」
剣「作れよ」
自らの怠慢を見て見ぬふりする魔法使いであった。