D-50 タイトルネーム
タイトルネーム
迷惑なことをするのもまた冒険者の性
ある日、街から帰ってきた斧戦士が言った。
「今、黒槍が来てるんだって」
「黒槍? 黒槍ってな、誰?」
辛うじて黒槍が人物であることを見破った魔法使い。
しかし、斧戦士はまさかの対応をした。
「知らん」
「調べろよ……」
呆れた顔をしたのは剣士。
どうせ、街の人々の会話を聞いてきたのだろうが、少し杜撰過ぎやしないか。
話していた人の記憶から、黒槍の情報だけを抜き取るなんて、造作もなくやってのけるくせに。
「今日は舟長とアサシンも街に出てるらしいから、その時に聞けばいいんじゃないかな」
「雑だなあ」
「名前、なんて言ってた? ブラストさんだって?」
「覚えてないけど、少なくともそれじゃなかった」
黒槍から連想されるブラストさんはお帰りください。
そんなことを言っていたら、舟長とアサシンが帰ってきた。
噂をすればなんとやら。
さっそく、魔法使いは舟長に尋ねた。
「黒槍さんはなんて名前なの?」
唐突過ぎる問いだが、かれこれ8年弱の付き合いである舟長は動じなかった。
「おまえらも黒槍の噂を聞いたのか。黒槍はライアンって言うらしいぞ」
「ブラストさんじゃ……ない!?」
「ブラストさんから離れて」
「なんかねー。この辺出身で、一番有名な冒険者らしいよ。ボク知らなかったけど」
「へえ。じゃあ、結構な年か? 黒槍って言うぐらいだから、黒い槍を持ってるんだな」
「いや、それが結構若いらしい。魔法使いと同い年ぐらいだったかな」
なーんて、ほのぼのと話していたら。
衝撃、それとすさまじい音とともに玄関の扉が吹っ飛んだ。
揺れる蝶つがいの奥から、ぬっと黒い人影が見えた。
なにやら長い得物が武器なのか、細い棒を地面と平行に持っている。
「よう、ここがスカイアドベンチャーの家か?」
「そうだが、人の家を訪問するにしちゃ、礼儀がなってないんじゃないか?」
今のはノックだったのだろか?
やけに力強い、強引なお客様のようだ。
魔法使いたち一同は、相手を静かに見据えた。
「おまえらがオレの島で幅を利かせてるって聞いてな。悪事を暴きに来たぜ」
「幅は利かせてないし、悪事も、あまり覚えがないな」
「しらばっくれるのもそこまでだ。オレは黒槍のライアン、覚悟しな」
何故人は……、冒険者は人の話を聞かないのか。
噂の槍使いは人の家に土足であがりこむと、自慢の武器を手に暴れようとした。
焦ったのは魔法使いだ。
今日の掃除当番は、魔法使い。
玄関周りのゴミを吐き出しピカピカにすることに命をかけている魔法使いは、男が靴のままあがりこもうとしていることが許せなかった。
「バインドシール!」
とっさに足止め魔法を放つが、男は槍で自分の位置を変え、さくっと避けてしまう。
困った魔法使いは、斧戦士に命じた。
この間、3秒。男は既にスカイアドベンチャーの目の前に迫っていた。
「斧戦士さん!」
「ラジャー!」
斧戦士はお馴染みになった矢印みたいな黒い槍で男をつついた。
黒い槍VS黒い槍だ。
男は黒い槍を避け、その左脇に設置してあった透明な槍にぶつかった。
黒い槍(透明な槍)の勝利である。
男が態勢を崩したので、これ幸いとばかりにスカイアドベンチャーは反撃に移る。
「ショックハウンド!」
「サウンドトーン!」
「グレンサービス!」
戦闘じゃないことを良いことに、最初からバーストモードである。
本来特定の技を使用しないと解放されない必殺技をフル活用して、黒槍を攻撃する。
しかし、正義に燃える黒槍は、その程度では倒れはしない。
「うぉおおおお、らあああああ!!!」
「まだ動けるのか!?」
「舟長、それフラグ」
「言っとる場合か!」
「あべべ」
なんだかんだ余裕なスカイアドベンチャーだったが、彼らも限度というものがある。
なんか急に物理的にも燃え上がった黒槍が、スカイアドベンチャーの家を破壊し出したのだ。
「え!? やめろよ! 人の家だぞ!」
「ボクらだって、悪党の根城は容赦なく破壊するじゃん? それと一緒」
「だから! 悪事はそんなに働いてないって! 言ってるだろ!!」
「ボクに言われたって」
次第にスカイアドベンチャーの家も燃え始める。
危機的状況に置いて、冒険者の行動は素早い。
敵の根城が急に自爆しようとした時の、即座に脱出する判断力と似ている。
ショックを受け立ち止まる魔法使いを担ぎ、五人は家の前に広がる広大な草原へ。
草原は昨日の雨で水をたっぷり含んでいるせいか、引火する気配はない。
「ひとまず安全は確保したな……あとはあれをどう止めるか、だが」
「わたしの家が……。安全なわたしの城が……ううっ、うわーん!」
「魔法使いちゃん……」
アサシンが痛ましそうに魔法使いを見る。
しかし、それ以上に激高した人間がいた。斧戦士だ。
顔を覆って泣いている魔法使いを一目見て、制限の枷を外すことを決める。
普段は、魔法使いの意識がある状態ではあまり使わないことにしている力。
それを最大限用いて、あの悪魔みたいなクソ野郎をぶっ潰すのだ。
「何回殺せば壊れるかな」
まあ、壊れても許しはしないが。
斧戦士の覚悟が決まった時、ちょうどよく家が崩壊した。
二階部分はまだ焼けていない部分もあるが、それも時間の問題だった。
何故ならば、高速で動き回る黒槍の男が、木造の家をどんどん燃やすからだ。
そして、派手な火柱がスカイアドベンチャーの家だったものを包み込み、すべてを灰にした。
灰が舞い散るなか、槍を手にこちらにやってくる男は、確かに伝承で聞く悪魔にそっくりだった。
だが、相対する者もまた、かつて悪魔と呼ばれた男。
斧戦士は手のひらを地に向け、三人の分体を呼び出す。
「人間ごときが。彼女を悲しませやがって」
最終決戦が始まろうとしていた――。
魔「引火って打ったら淫化って出たぞ。世の中の人はどんな変換をしてるのじゃ」
斧「草」
舟「なんでおまえ、普段力をセーブしてるんだ? 無双プレイは魔法使いも好きじゃん」
斧「冒険には苦戦が付き物だろ? 負けて強くなるのも演出で楽しいじゃん」
魔「でも斧戦士さんが負けるときって、だいたいそのあと本気出すよね?」
斧「負けるのは悔しいからね。覚醒フラグってやつだよ」
舟「たぶん違うぞ……」




