D-47 ドロップシーフ
ドロップシーフ
其は願望、なお爆死
「しんどいよお……」
魔法使いが机に突っ伏して、いやこれは倒れていると言った方が正しいか。
顔は青く、酷く苦しそうだ。
ここはリビング。
スカイアドベンチャーのメンバー全員に解放された空間で、魔法使いは唸っていた。
だから、その姿を見た舟長が思わず駆け寄ったのも無理のないことだった。
「どうした? 体調悪いか?」
「せ、舟長……シーフキャラがガチャででなくて辛い」
そのセリフを聞いた時の舟長の内心や如何に。
真面目に聞いたらこれだよ、と思ったに違いない。
しかも、よりにもよってシーフである舟長に言うのだ。
普段、盗み確率が低くて軽視される傾向にある舟長に!
「……そうか。斧戦士、呼んでくるな」
舟長はどうしよっかな、と思って、全部斧戦士に丸投げした。
斧戦士は最愛の恋人、魔法使いのためならなんでもできる男である。
とあるゲームのガチャの確率を調整することぐらい、苦もなくやってのけるだろう。
そういう経緯で呼ばれた斧戦士。
目の前の魔法使いが自分の存在に気付かないので、ちょっと気配を消して見守る。
そう、この魔法使いは、冒険者にありながら一切気配を探ることができないのだ。
だから、ちょっと足音を殺して後ろに立つだけで、相手に勘付けなくなってしまう。
「くそう、ドロップ系シーフも、盗み系シーフも、強奪系シーフも持ってねえだ!」
訛りながら愚痴る魔法使い。
彼女の出身地は真ん中あたりだから、全然地方の方言じゃない。
(この、暇してそうな暗殺系多段ヒットシーフが欲しいのかな?)
全体的に赤い印象のその男は、デモムービーを見る限り、暇人の狂人である。
斧戦士はふと思った。
もしかして:おれに似てる?
「性格はあれだが、性能はいいな。一回10連してみるか」
違うみたいだ。
斧戦士はちょっとほっとしたような、残念なような不思議な気持ちになった。
眉をへにょと下げながら、また観察に入る。
後ろからだからか、ここからだと彼女の手元の携帯端末が良く見える。
「普通に出なかった☆ 草生える」
うーん、欲しかった装備が強化できたからいいか……。
なんて魔法使いは言ってるが、結果には満足していない。
素材ゲーで、ドロップを後押しするキャラがいないのは辛いのだ。
もっと言うと、レベル上げ、強化、ストーリー攻略……すべての効率に関わる。
早めに手に入れて、育成を進めておきたかった。
「フレンドさんのシーフたちにはいつもお世話になっております」
欲しかったキャラが出なくて悔しそうにしながら、それでも育成素材を探すため、魔法使いと魔法使いの操作するキャラは旅立つ。
しばらく眺めてから、斧戦士は魔法使いの好みを分析した。
魔法使いさんは、おっさん、もしくはおじさん、もしくはお爺さんが好きだ。
「バーンおじさん強い強い」
三人いるレギュラーキャラのうち、よく褒めているのは無骨な戦士だ。
戦いにのみ意味を見いだす、生粋の戦士。
斧戦士はそういうイメチェンも視野に入れた。
あと回復できる多段ヒット系女双剣士も可愛がっているようだ。
うっかり死んでしまったときは、諦めてクエストをキャンセルしていた。
髪とリボンをたなびかせる女双剣士は、ゲームの中で重要な役割を担っているらしい。
あと一人は、魔法使いの好きそうな白髪魔術師だが、こいつには何故か辛辣だ。
「やっぱりこいつじゃなくて、ダンおじさんが欲しいなあ」
女の子に人気のありそうなクールで知的なイケメンキャラ。
そいつの時だけ勝利セリフを飛ばす魔法使い。
確か、別のゲームでかなりそっくりな設定のキャラがいたけど、そっちは好みだったはず。
何がよくて、何がダメなのか。
分かったら自分にも取り入れて、もっと魔法使いさんに好かれるよう頑張ろう。
「ぬう、バーンおじさんの勝利セリフが……。セシリアちゃんに盗られてしまった」
なるほど、好みには勝利セリフを譲る、とな。
斧戦士は一つ賢くなった。
やがて、一通りフレンドと冒険した魔法使いは、携帯端末にマナを充填しに立ち上がる。
そのとき、後ろから伸びる影にようやく気が付いたようだった。
「やあ、魔法使いさん」
「いつからいたのですか、斧戦士さん」
「舟長に呼ばれたよ」
「すげえ前じゃねーか! なんで声かけてくれなかったの?」
「魔法使いが楽しそうだったから。あと、いつ気付いてくれるかな、って」
恋人らしい甘やかな時間が、ただそこにはあった。
舟「なんだこの日記」
魔「魔導研究所は日記だって前から言ってるじゃんか」
舟「いや、魔法使いの日記っていうか、別の人の日記帳と化してるぞ」
魔「最近はネタ帳の役割を成しつつある」
舟「どの辺が魔導を研究してるんだ……?」
ア「携帯端末って、がっつりスマホのことだよね」
斧「大丈夫。前にパソコンが出てたはず」
ア「ファンタジー小説とは」
斧「ローファンだからセーフセーフ」




