D-39 リスタート
リスタート
解釈次第でどうにでもなる説
転移したらのっけからダンジョンにいた。
びっくりしたけど、そういう世界なら仕方がない。
この世界では、自分の性質を最初に与えられるそうだ。
あれか。
転移・転生ボーナスのチート能力的なあれかな。
で、俺に与えられた性質は。
「再スタート?」
えっ、何? 俺、早くも失業したの?
あ、違う? 能力の性質であって人間の性格とか特徴じゃないのね。
これじゃよく分からんから、説明読んでみよう。
「相手をスタートに戻す……」
すごろくかな。
すごろくでこれ連発したら強そう。
えっ、ダンジョン攻略系小説でこれやるの。
人気でないよ? というかどう攻略するか既に分かんない。
絶対これ、ユニークっぽい能力を手に入れたけど、最初に死ぬヤツだよ!
ああ、嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。死にたくない……!
「見て! あそこに人がいる!」
「また戦闘ふっかけてくる奴じゃあるまいな?」
「もうミンチするの勘弁だよ」
「嘘つきなさいよ。あなた楽しんでたでしょ」
近付いてくる六人組。
俺は警戒しながら見上げる。
こいつら……背が高いな!
日本人男性として普通に高い俺が圧倒されているだと!
あ、この黒髪の魔術師の人だけ俺より背が低い。
「第22現地人、発見! キミ、ここで何してるの?」
「あ、どうも。えーと、その……」
情けないけど、現状を話すべきかな。
この人たちが悪い人じゃないといいけど。
「自分の性質って見ました?」
「ああ、うん。見たよ。魔法創造だった」
「スペルメイカー的あれか。強奪だったぞ」
「再生です☆」
「庇うだぜ」
「幻覚だけど……」
「おかんだったわ」
あ、ずるい。分かりやすいってか戦闘に役立てそうなのばっかりだ!
……最後のおかんってなんだろ? 気になる。
「あの、俺も来たばっかりなんだけど、性質をどう捉えていいのか分からなくて」
「君の性質はどんなの?」
「えーと、笑わないでくれますか? 再スタートです」
「ふむ……」
めっちゃ真面目に考えてくれてる。
しばらくその人たちは唸って、笑顔を見せた。
「なかなか興味深いね。おもしろい能力が得られそう」
「性質は決まってるけど、技は自分たちで編み出すものだものね」
「発想次第で同じ性質でも、全然違う技構成にできるのはいいな」
「想像力の有無で差別化が進むよ」
「なんてことを言うんだ」
はえー。すげえ。再スタートで何が分かったんだろ。
俺的には就職かな?って感じなんだけど。
もしかして:頭が固すぎる
「君も一緒に考えてみようよ。ちなみに例をあげると、舟長の強奪はいまのところ二つあってね」
「クイック強奪と永久強奪な」
「クイック強奪は手にしているアイテムや武器を奪って1ターン無駄にする技」
「永久強奪は戦闘後も装備を奪い続ける極悪技。負けてもぶんどるよ」
「すごく……盗賊です」
「シーフだから別にいいだろ!」
六人の人たちはずいぶん仲がいいみたいで、説明を交互にしてくれた。
強奪って言うと、完全に悪党の気配しかしないけど、うまいこと考えるもんだな。
ていうか、シーフなのに戦闘用なんだ。
ダンジョンのシーフって、トラップとか宝箱とかそういうので忙しいもんだと思ってたけど。
「それで、再スタートだったね。オーソドックスなのは、ステータス初期化とかかな」
「凍てつく波動的な。ラスボスがよく使ってくるうざったい技だな」
「生きるためには必要じゃろ? アサシンちゃんはどう?」
「そうだねえ。配置を戦闘開始時に戻すことで、魔術師とかヒーラーを引きずり出せないかな?」
「全員を一列に並べて、後方支援に徹しているメンツを前に出すんだね」
「戦闘開始時に戻すってのは結構使えるな。負けそうになったら、巻き戻していくらでも挑戦できるぜ」
「それは相手が嫌になって棄権を申し出てきそうな……」
「それ楽しいね。逃走不可にして絶望を与えようぜ!」
「サンドバッグ限定でやってください」
サンドバッグ……?
サンドバッグってあの、パンチングマシーンとかにあるあれだよね。
モノだからそもそも逃げるとかできないんじゃ?
不思議な人たちだなあ。
「スタートを本当に最初だと捉えれば、もっと楽しいことができそうよ」
「モンク、おまえもか」
「やあね。せいぜいアイテムを全部没収して、アイテム使用不可にするぐらいよ」
「十分えぐい」
「オッケィ。レベルも1にして不思議のダンジョンごっこしよう」
「やめろォ!」
「草生える」
これってえげつないのかな?
まあでも、なんか俺でも戦えそうな気がしてきた!
気だけだけど!
「で、舟長。まだ君の案が出てませんよ」
「うっせーな。アイテム系はさっきモンクが言ったから……」
「ぶはっ。まさか被ったのか舟長!」
「六人もいりゃあ、一人ぐらい被るっての!」
「じゃあ、ちょっと戦闘から離れてみる?」
「ふむ? 確かにここはダンジョン探索が目玉だもんな」
え、まじ? そこまで考えてくれんの?
「宝箱にトラップ設置! 相手はダンジョン入り口に戻る」
「すごろくか」
「自分を対象にしてアンチ再スタート。ゴールまで飛ぶ」
「回復とかセーブとかあると楽だよな」
「直戦闘だとかなり辛いぞ、それ」
「いいじゃん。また再スタートすれば」
「なるほど。便利だな」
「で、舟長。何か思いついた?」
い、いや。あの、そこまで催促してませんから……。
これで十分理解できましたから!
「あー。アンチ再スタートを相手にかけて余分な戦闘を避けられねーか?」
「アンチ系は考えやすいな。逃走不可の敵とか好戦的な連中相手にふっかけられたとき楽だ」
「さっきまでのオレたちじゃねーか」
「相手は勝利し、アイテムや経験値を得る。自分の状況は変わってないから失うものはない、と」
「舟長にしてはよく考えた案だね」
「ナチュラルにオレをディスるのやめろ」
よ、よし。自信がついたぞ!
この人たちに感謝を言って、俺も冒険の旅に出よう。
ありがとうございました!
「頑張ろーね!」
「次会うときは敵同士か?」
「カッコいい二つ名考えとかないと」
「おいおい、やめとけよ。おまえネーミングセンスないんだから」
魔「能力を自分で考えられる系って楽しそうだけどエタりそう」
舟「実質この話書く気ないから、エターなったと同義だろ」
斧「アンチヒーリングでアイテム・スキルによる回復禁止!」
ア「広域幻覚で不利地形を有利に変更!」
剣「絶対守護で死んでても永遠に庇う!」
モ「おかんスキルでみんなの健康はあたしが守る!」




