D-38 ボイスチェンジャー(裏)
ボイスチェンジャー(裏)
裏方のおしごと
「それは……」
言いよどむ聖女。
見守る魔法使いはふと思った。
そんなアホみたいな奴のこと、真面目に聞かなくてもよくない?
それを聖女にレクチャーすると、聖女は黙って剣を抜いた。
カッコいい。
焦ったヘンリーが魔術を放とうとしている。
魔法使いは聖女の前に割り込むと、小さく魔法を唱えた。
「ディスペル」
害悪だろうと善良だろうと、魔法ならなんでもひっぺがす万能魔法ディスペル=サンだ!
王座の間の扉近くで控える舟長が、煙玉を投げる。
もうもうと煙が立ったのを、魔術が炸裂したせいだと思ったらしい。
ヘンリーが調子に乗って何か言ってるが、スルーだ。
聖女が事前に渡しておいた聖属性の魔法具を作動させ、巨大な槍を造る。
「なにい!?」
「神罰槍を生成した! 行くぞ、ヘンリー!」
神罰術は魔術を貫くらしい。
手も足も出なくなったヘンリーが逃げ惑う。
時間稼ぎのつもりか。しかし、味方は来ない。
それもそのはず、扉はスカイアドベンチャーのシーフこと舟長が厳重に施錠してある。
しかも、扉の前にはアサシンの幻覚をまとった剣士とモンクが立っていて、入れない。
物音に気付いた兵士が扉までやってくるが、剣士とモンクに反論されては敵わない。
渋々立ち去っていく。
「ぜい……ぜい……」
「贅肉」
「おまえは何を言ってるんだ」
逃げ回ることで聖女は確かに疲弊した。
しかし、同様にヘンリーも疲れていた。
いまこそ、ヘンリーを討つとき!
魔法使いは聖女にこっそりヒールをかけた。
知力が回復力に転換する魔法使いのヒールは疲労ですら治す!
「説明ありがとう」
「登場人物が地の文を読むな」
聖女の槍がヘンリーに刺さる!
「決してホモ的な意味合いではない」
「どんな注釈だ」
しかし、ヘンリーは最後の魔術で王宮から逃げ出した。
悄然とする聖女を合流した斧戦士たちと共に慰める。
「あなたの目的はバーナード王の名誉回復でしょ?」
「そうだが、ヘンリーがいなくては過去の証明はできないだろう……」
「いや、方法はある。誰かがヘンリーになりすまし、ヘンリーを演じればいい」
「どうするの?」
「ふっ。まずはヘンリーの衛兵を改心させるか」
斧戦士はアサシンの肩に手を掛けながら立ち上がる。
「ん? ボク?」
「手伝ってくれ。おれの脳裏によぎった映像を幻覚で見せてくれればいい」
「分かった」
「それから聖女様。ヘンリーの居場所は既に把握済みだ。追跡もしているから逃げられるまい」
「あなたはいったい……」
「ふはは。魔法使いの斧戦士さん。世界一強いユーレー。再生の大悪魔。好きに呼んでくれ」
アサシンを連れて窓から消える斧戦士。
「あいつ、なんで窓から行くんだ?」
「舟長ー。ドアが開かないよー」
「あ、やべ。カギ閉めたままだった」
魔「緑髪で蒼眼の占術師なんて、斧戦士さんぐらいしかいないよね!」
舟「占術師と書いてペテン師と読むのか」
ア「斧戦士ならカギ開けぐらいできるでしょ」
斧「壊した方が早いよ」
剣「ピッキング(物理)」
モ「あるある」




