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ここは、魔導研究所  作者: 紅藤
日記編(Dシリーズ)
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D-34 ボイスサイキッカー


ボイスサイキッカー

能力者って英語でなんて言うの?




「いた。あれが今回の……。よし、追尾を続ける」


 レンガの街をこそこそと移動する影。

 怪しさ満点のフード&ローブの正体は、女。

 彼女の視点の先には、男が一人。

 男は何も気負わぬ様子で街を歩いている。

 一見すると、ローブの女はスリか何かで、この善良そうな男を狙っているように見える。

 しかし、残念ながら女の狙う者はもっと巨大だ。


「まったく、この仕事は集中力ばかりいるから困る」


 男はレンガの街の奥へ。

 人気のない通路へと入っていく。

 女にとっては好都合なことだ。

 人目に付きにくく、暴力に訴えるのも楽な場所。

 女はフードを外すと、通路の角を曲がろうとする男に手を掛けた。


「おい、おまえ」

「あんた、初対面なのにずいぶんと馴れ馴れしいな」

「そいつは失敬。あなた様に用があるのだ。私と一緒に来てほしい」

「断る。あんたは信用できない。街の外からずっと俺の後をつけていただろう」


 善良そうだが腕っぷしは強そうな男はそう言った。

 仕事柄、隠密行動に自信のあった女は感心した。

 感心ついでに依頼者から秘匿にするよう言われていた情報を少しだけ漏らす。


「心配いらない。これから行くのはあなた様もよく知った場所だから」

「待て、まだ俺は行くとは一言も――」

「私の目的地は、あなた様が私に会う前に行こうとしていた場所と同じ」

「なに!? まさか、あんた――!」

「行けば分かる。依頼者が誰で、どんな目的があるのか、もな」


 モナー。


「ちっ。場合によっては、一発殴らせてもらうからな!」

「くくく。果たして拳は一つで足りるかな」


 女は壁に背を向けながら、男が逃亡しようとするのを阻止した。

 男は渋々ながら自宅に向かい、そこで信じられないものを見た。

 仁王立ちする妻の姿だった。


「おかえりなさい、あなた。待っていたわよ」

「あなた様、少し失礼する」


 予想外の平和な事態に、男が瞬きをする。

 一瞬動きの止まった男が気を取り直したときには、男は拘束されていた。

 いい感じにヒモでぐるぐる巻きになった男は、飼い犬よろしく残りのヒモをリード代わりに握られ、最愛の妻の手によって家の中へ運び込まれた。

 女はローブをかぶり直し、なおも男を警戒しながら二人に続いて家に入る。


「ここでいいわ。【ボイスサイキッカー】さん、お願いね」

「【ボイスサイキッカー】だと? なんだ、それは……?」

「見ていれば分かるわ。あと、あなたは静かにしていてくれると嬉しいわね」

「【依頼人】シャロン、承りました。では……」


 女は妻の目の前で、彼女の夫に触れた。

 綴られる詠唱はボイスチェンジャー。

 女の手が離れ、今度は自分の喉元へ。

 男はまだ状況を理解していない。


『成功した。シャロン、台本を』

「なっ!?」

「あなたは黙ってて。嬉しいわ、これでわたしの願いも叶う」


 完全に「(おとこ)」の声で話し出した女。

 妻シャロンの差し出した本を、朗々とした声で奏でる。


『シャロン、どうしても伝えたいことがある』

「なあに?」

『愛している。ずっと俺が守るから、側にいてくれ』

「ありがとう……。もっと、ねえお願い」

『一緒に幸せになろう。君の笑顔が好きだ』


 女と妻の演劇は30分にも及んだ。






舟「またこのネタか!」

魔「今回は資料集めをしたので、実演もかねて」

舟「つーか、これは精神的NTRと言ってもいいのでは?」

魔「なにを。平和的な利用なのに」

舟「平和とは」




魔「前回舟長がボイスチェンジャーに制限をつけろとうるさかったので」

舟「これのどこらへんが制限かけてるんだよ。精神的浮気で修羅場だぞ」

魔「【ボイスサイキッカー】は、初対面の人の声しか奪えないのだ」

舟「なんだって。そんな描写あったか?」

魔「実はないけど、彼女は旦那を視認したときから一度も目を離してない」

舟「うげ。それって一瞬でも目を逸らしたらおじゃんになる系か?」

魔「そうだよ。能力が能力だけに悪用厳禁だからね。対策も必要じゃん?」

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